うん、いいよ、役立たずだけど

 助けを求めて来たのは、ノト村でサキュバスと同居する少年の…… ショーなんとか君だった。


「ショータだよ!!」


 ああ、君たち似たような名前だからね、タロウマル以外。


「いい加減覚えてよ!」


 ごめんごめん、で? 何を助けて欲しいんだ?


「あっ! そうだった…… とりあえず見てもらった方が早いから、付いてきてよ!」


 えぇー、お兄さん、家から出られないんだよ、そういう呪いをかけられてるんだ。


「嘘ばっかり! 勇者様はぐーたらしてひきこもりニートしてるだけってシオリお姉ちゃん達が言ってたよ?」


 何ぃ!? あのサキュバスめ……


「ノト村のみんなは知ってるよ? ただお世話になったから本人の前では言えないって言ってたけど」


 ……俺、ノト村でひきこもりニートって言われてるの? ニ、ニートじゃねーし! 配信者やってるし!


「とりあえず付いてきてよー、大変なんだから!」


 分かったよ…… 一応聞くけど危ないことはしないよな?


「危なくは…… いや、ある意味危ないかも」


 じゃあ止めておこうかなー、母も心配するし。


「やっぱり勇者様はマザコンひきこもりニートなんだ! 噂通りだね!」


 よし! ノト村に行くぞ! アイツらに変な噂を流すなって文句言ってやる!! あとマザコンじゃないからな! 


『ぷぷっ、ハルがムキになってるの、面白いわね〗


 うるさいぞ聖剣、ほら行くぞ。


 

 一言文句言ってやるためにノト村に来たが、とりあえずショータに案内されて、サキュバス達の家に寄ったのだが……


 うわっ…… 汚いな……


 すぐ目についたのは、ごちゃごちゃになったキッチン。

 料理をしたのか分からないが、調理器具や皿などが散乱していた。


「普段僕達が食事の準備してて、今日はお姉ちゃん達がどうしてもやりたいって言うから任せたんだけど…… お姉ちゃん達、料理が全く出来ないんだよ」


 よく見ると、リビングの隅っこで壁に向かって並んで三角座りをするサキュバス達がいた。


「お姉ちゃん達落ち込んじゃって、慰めてるんだけど全然駄目で困ってるんだ」


 出来ないなら練習するしか…… んっ? テーブルの上に料理があるじゃないか。

 どれどれ…… 皿の上には真ん中に長いウインナーが一本あり、その両サイドには半分に割ったゆで卵が二つ……


 それだけのためにこんな調理器具を出して散らかしたの!? しかも四人居てこれだけしか作れないなんて……


「ゆ、勇者様!? あぁっ、更に落ち込んじゃったよ……」


 もうあたまが壁にぶつかりそうになるくらい落ち込んでる! う、うわぁ、美味しそうに出来てるなぁー! これしかないけど。


「勇者様連れてきたら逆効果だった…… 勇者様ありがとう、もういいよ」


 ……ごめんて! だからそんな役立たずを見るような目をしないで!


『ぷぷぷっ!』


 おい! 笑うな!


 

 お前は用済みだと言わんばかりにサキュバス達の家から追い出され、家に帰ろうと歩いていると、この間移住を許可したカップルの内の一組、耳の長い男性と肌が青い女性にバッタリ会い、話しかけられた。


「勇者様こんにちは、今日は村の視察ですか?」


 いや…… うん、そんなところ。


「そうですかお疲れ様です、あっ、丁度良かった、勇者様に相談がありまして……」


 うん、いいよ、役立たずだけど。


「へっ?」


『もう! まだふて腐れてるの!? 気にしないでいいから、話を続けて?』


「え、ええ…… 実は、魔族の国に住んでいる僕の両親と彼女の両親が村に遊びに来たいらしいのですが…… この近くに宿屋とかありますか? 僕達の家じゃ人数が多くて泊まるには狭すぎるんですよ、だからといって集会所を使うわけにもいかず困ってまして」


 宿屋か…… そういえば無いな、こんな最果てにわざわざ来る人も今まであまりいなかったし。


「それに僕達だけじゃなく、他のカップルも友達や家族が遊びに来たいという話をしているみたいなので、何とかなりませんかね?」


 うーん…… 住居も新しく建てたのはもう人が住んでいて空きがないし、大人数を泊められる場所も無いしなぁ……


『ノト村の人だけじゃなくて、普通に観光で来る人もいたわよね? 『聖母の聖地巡礼』とか言って、この間も何人か…… あの時はまだ空き家があったからいいけど』


 宿屋か、うん、ノト村長とかうちの村長に相談してみるよ。


 すると今度は肌が青い女性が申し訳なさそうに話しかけてきて


「あの…… できれば食事ができる店とかもあれば便利なんですけど…… 人を招くとなると料理も大変で……」


 食事ができる店!? ……待てよ? 宿屋と一緒に作れば、さっきのサキュバス達の問題も解決できるのでは?


 よし、それも相談しておく。


 そしてお礼を言われた後、二人と別れて家へと帰ってきた。


 

 村長の家に向かい歩いている途中『食堂付きの宿屋なんてあればすべて解決できる!』なんて思い付いたがよくよく考えてみると、宿屋で働いてくれるような人がいない事に気が付いた。


 サイハテ村もノト村も今ある仕事でいっぱいいっぱい、三組のカップルが来てくれたおかげでいくらか余裕ができたが、更に仕事を増やしたらみんながまた大変になってしまう…… やっぱり駄目だな。


『元々人口が多い場所じゃないからね…… 移住する人を募集するにしても、今すぐ住める場所も無いし…… 困ったわね』


 ギェンさんもオーバーワーク気味だしそろそろ休ませてあげたいんだよ、本人はやる気満々で『俺の時代がキター!!』なんて言って、楽しそうに毎日働いているけど。


『住む場所もそうだけど、人が増えると畑や牧場、猟師なんかも足りなくなるわね……』


 そうだよなぁ、食料の問題もあるし、だからといってトルセイヌさんの転送装置に頼り過ぎると村のお金が失くなってしまう。


 村のお金が失くなれば、俺の配信者生活にも影響出そう…… 絶対外で働けって言われるよなぁ、危険だ。


『ハルはもうちょっと外で働いた方がいいわよ?』


 えぇ? 家でちゃんと働いてるからいいだろ?


『ポテチ食べながらゲームしてるのがハルにとって働いているって事、なのよね……』


 聖剣! ゲームしてるだけが仕事じゃないんだぞ? 配信の準備をしたり、流行りの物を調べたり、他の配信者と交流したりとか、忙しいんだからな!


『で、時々気分転換とかいって始めたゲームが面白くてやめられなくなるのよねぇ……』


 ……気分が転換するまでやってただけで、あれは必要な時間なの!


『ふーん……』


 何だよ! 疑ってるのか!? そもそもあれは配信でやるゲームの下調べという意味もあってだな、ほら、チュートリアルとか練習を配信でずっと視聴者に見せるのも悪いだろ? 俺も考えてるんだよ。


『そういう姿を見るのも視聴者的には楽しいんじゃない?』


 そうか? それなら気分転換はほどほどにしとくか…… んっ? 俺んちの前に誰か立ってる…… あっ!  あれは……


「うふふっ、ハルちゃんは今おでかけ中なの…… で? 何をしに来たの?」


「は、はわわっ…… ナッくん、絶対怒ってるよぉ……」


「ほら! エミリアが迷惑かけたからご家族に謝りたいって言うからわざわざ来たんだぞ?」


「あ、あの…… だ、旦那さんに間違って転送魔法をかけちゃって、魔族の国に転送して、迷惑をかけてすいませんでした、奥さん!」


「っ!? うふふっ、許すわ…… うふっ、奥さんだなんて…… 私がハルちゃんの奥さん……」


 おぉーい!! あいつら勘違いしてるぞ!? 奥さんじゃなくて母だから…… くっ! 何だこのプレッシャー…… 母か!? 


「奥さんとして、あなたを許します!」


 くぅっ…… 母…… 動け! 俺の身体ぁ!


「わぁ、ありがとうございます、奥さん!」


「うふふっ、でももし今度があったら許さないわ、奥さんとして!」


「はい! 分かりました!」


 あぁ…… 修正したいのに出来ない…… これが母の力か……


『何をバカな事してるのよ二人して…… 早く挨拶しなさいよ』


 ……はーい。


 よっ! 久しぶりだなナツキ、エミリア。


「おっ! ハル、久しぶり! 元気そうで良かったよ」


「はわっ! ハ、ハルさん、この間はすいませんでした」


 いいよいいよ、こうして元気に帰って来れたし、元々そっちでノト村のみんなを匿ってくれていたんだから。


「うふふっ、おかえりなさい、あ・な・た! キャー、ついに言っちゃった! うふふっ」


 母、ノリノリだなぁ…… 楽しそうで何よりです。


『あんた達はいつもそうなんだから…… ところで二人の用事はそれだけなの?』


「本題は別にあって、実は相談というか、お願いがあるんだけど……」


 言いづらそうにして、どうしたナツキ?

 ……母? そんな俺の腕にしがみついて顔をスリスリしなくていいからね? ほら、エミリアが真似してナツキの腕に同じような事をしてるから。


「ったく、エミリアは甘ったれだな…… ハル、お願いの話なんだけど、こっちに移住したいっていう魔族を受け入れてもらえないか?」


 ……えっ!?


 ……母、大事な話をしているから、キスはやめて!



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