どいつもこいつも平和だよ

「よ、よぉ! んっ、いらっしゃい」


 そんなに慌てなくてもお菓子買いに来ただけだから。


「そ、そうか! ゆっくり、選んでいけよ」


 ……ミミさん、Tシャツが裏返しだよ? んー、ポテチは買うだろ? 母に甘い物も買っていこうか。


「えっ!? 本当だ、あ、あははっ! まいったなぁ……」


 昼寝でもしていたのか? おっ、また新作のお菓子がある、試しに買っていこう。


「そう、昼寝! 昼寝してたんだよ、あははっ!」


 じゃあこれ、会計お願い。


「お、おう! ハル坊、菓子ばっか食ってると太るぞ?」


 大丈夫、最近はモンスターと戦わされて、いっぱい動いてるから。


「ハル坊も大変だなぁ、まあ、頑張れよ?」


 うん、それじゃあまた来るよ。


「毎度ありー」


 さて、帰ってゲーム……


「はぅっ、ダーリン? もう、元気なんだから…… うん、続き…… なっ?」


 …………




「ハルちゃーん、村長にお届け物してきてぇー」


 はーい…… おっ、野菜のおすそわけか、ちょっと母には重そうだもんな…… よいしょっと。


「やーん、ハルちゃん力持ちー! 凄ーい!」


 これくらい楽勝だよ、なんたってレベル4だからな!

 

 弱いモンスターばかり倒してたからなかなか上がらなかったが、やっとレベルが上がった。

 レベル1に比べれば身体能力も高くなったし、何より初めての魔法を覚えた。

 なんと手のひらから光を出す魔法だ!


 攻撃力? そんなもんないよ、光るだけだもん。

 でも、深夜にトイレに行く時とか、暗い隙間に物を落とした時に便利だよ? だからショボいとか言わないで!!


 ……俺だって炎とか氷とか出したかったよ? でも覚えたのはこれだったんだもん! 仕方ないだろ!


 戦闘で使うとなれば…… モンスターの目眩ましくらいなら出来るだろうな、使わないけど。


 村長ー! 母が野菜のおすそわけだってー!


 んっ? 家の中でドタバタ聞こえるけどどうしたんだろう?


「あ、あら……ハルさん、ごきげんよう」


 あっ、レーナ、村長は?


「コ、コウタローさんは、今ちょっと手が離せなくて……」


 そっかぁ、じゃあこれ、玄関に置いていくから…… レーナ、シャツのボタン掛け違ってるよ? あと、そのシャツ大き過ぎない? サイズ合ってないよ?


「あ、え、えっと…… そ、そうですわね! ちょっと今、わたくしの服を洗濯中でして…… ふ、ふふふっ!」


 あー、たまにあるよなぁ…… じゃあ忙しそうだし行くよ、村長によろしく言っといて。


「は、はい、わざわざありがとうございました」


 さて、任務完了っと……



「ふふふっ…… コウタローさん、おまたせしました…… それでは今すぐ……」


 …………




『はぁ…… 平和ねぇ……』


 うん、平和、どいつもこいつも平和だよ、まったく。


《平和でございますね、暇とも言いましょうか…… 暇だから、でしょうね?》


 だろうな。


「いいじゃないの、平和が一番よ? うふふっ」


『そうよねぇ、昔が刺激あり過ぎたのかもしれないわ』


《そうでございますよお姉様、見張りを立てないと眠れないほどでございましたから、昼間からこんなのんびり出来るのは素晴らしい事でございます》


 たしかにそうだよなぁ…… 


「うふふっ…… ハルちゃん、あったかいわぁ」


 ふぁぁ…… 母もね…… 俺も少し寝るかな、昨日夜更かししちゃったし……


 


「おーい! 勇者、居るかー!?」


 うるさ…… 誰だよ、家の前でデカい声出しやがって。


「あぁん! ハルちゃんいかないでぇ」


 お客さんみたいだから仕方ないだろ? 


「もう、せっかくのハルちゃんとのお昼寝タイムを邪魔してー」


「おーい! 勇者、助けてくれー!」


 この声、どこかで聞いたような…… はいはーい、冒険ならお断りだからねー?


「おっ、勇者久しぶりだな!」


 あれ、このビキニアーマーに見覚えがある…… たしかクレアとかいう名前の冒険者だったよな?


「クレアさん、そんな大きな声を出さなくても聞こえるから大丈夫ですよ…… すいません、お騒がせして」


 少年はたしか…… レオ、だったか?


「あの…… 多分僕、勇者様より年上ですよ?」


 ええっ!? ショタじゃ…… じゃなくて年上には見えないな!


「わははっ、レオは可愛いから仕方ない! でも私と一つしか歳が変わらないんだぞ!」


 クレアさんだっけ? きっと二十代前半だから…… 二十歳超えてるの!? うわぁ、尚更見えないわぁ。


「そんな事、今はどうでもいいじゃないですか! それより聖女様…… じゃなくてレーナさんに会いたいんですけどいらっしゃいますか?」


 レーナ? 家にはいないよ? 村長の家に住んでるから。


「あれ? レーナさんは勇者様の家族って情報が……」


 まあ、一応村長は俺のじいちゃんだからな、今はじいちゃんに見えないけど。


「じゃああの時レーナさんと抱き合っていたのが…… とにかく、レーナさんに会いたいので案内してもらってもいいですか?」


 うん、いいけど…… 大丈夫だよな?




「あら? ハルさんいらっしゃい…… って、あなた達はあの時の……」


 今度は普通に出てきたな、良かった良かった。


「レーナさん、ビキニアーマーの事で話があるんだけど、いいか?」


「……なるほど、どうぞ入って下さい」


 お邪魔しまーす、おっ、村長もいるじゃん…… 何か疲れた顔してるね、大丈夫?

 ああ、大丈夫なんだ。


 リビングに通され、クレアさんとレオくんがイスに座るよう促されてる…… 俺は村長の肩揉みでもしてるかな? 


「ではお話を聞きましょう、やはりビキニアーマーにデバフがかかっていたのですか?」


「うーん、デバフというか、何というか…… とにかく大変なんだよ」


「どんな効果が出てしまうのですか? 詳しく聞いてみないとわたくしも解除出来ないので」


「あー、それは…… あの、だな…… えーっと……」


 言いづらそうにしているけどどんなデバフなんだろう。

 モジモジしながら隣に座るレオくんの太ももを指でツンツンしている。


「クレアさん、この際はっきり言わないと今後が大変ですよ?」


「分かってるよ、あ、あははっ、あの、実は…… 戦闘した後とかに、無性にムラムラしちゃって…… 抑えられないくらい酷いんだ」


 ム、ムラムラ!?


「な、なるほど…… たしかにデバフではなさそうですわね、少しビキニアーマーも一緒に調べさせてもらってもよろしいですか?」


「あ、あぁ……」


 さすがにこの場で調べる訳にはいかないらしく、リビングの隣にある部屋に二人で入っていった。

 それじゃあ俺は村長の肩揉みでもするか。


「あぁ…… ハル、ありがとうな」


 だいぶ凝ってるね? 


「若くなって色々と張り切り過ぎてしまったかもしれんな、畑も今回は今までより広げて育てているし」


 急に動けるようになって嬉しいのは分かるけど、無理したら駄目だからな?


「はははっ、そうだな、孫の言う事は聞かないとな」



「ハルちゃーん、あら? 村長の肩揉みして偉いわねぇ、うふふっ」


 母、どうしたんだよ? 母も用事?


「ちょっと気になってね? レーナとクレアちゃんはこっちの部屋?」


 うん、そうだけど。


「マリーよ、入るからねー?」



 ◇



「デバフは消えてますわね…… 身体にも特に異常はありませんわ」


「このビキニアーマー、戦闘中に魔力を流したらめちゃくちゃ強いんだけど、その反動かなぁ?」


「魔力に反応して黄金に輝き、魔法効果を上げたりスピードや防御力も上げてくれるのは知っていましたけど…… ムラムラするっていうのは、魔力の乱れもないですし、ただの欲求不満ではなくて?」


「いや、ほどほどに解消しているからそれはないと思うけど…… ムラムラし過ぎて気が狂いそうになるっておかしくないか?」


「たしかに、分かりませんわ…… あら? 誰かしら…… あっ、マリーさん」


「二人ともこんにちは、話は聞かせてもらったけど、それならデバフじゃなくてステータス異常じゃないかしら?」


「ステータスまでは見てなかったですわね、わたくしでは見られませんし」


「ステータスかぁ…… 鑑定士に見てもらった方がいいって事か?」


「大丈夫、私が見てあげるわ」


「えっ、マリーさん、他人のステータスを見られるんですの?」


「うん、一応ね? あまり公にしてないけど」


「頼む、調べてくれ! こんな身体じゃ冒険者の仕事がままならないんだよ」


「分かったわ、じゃあリラックスして……」



 ◇



 母も入っていったけど、なかなか出てこないな。

 レオくんも心配なのかそわそわしてる。

 

 おっ、やっと出てきたな、どうだったんだろう? クレアさんがうつ向いているのがちょっと気になる。


「うぅっ、レオどうしよう……」


「クレアさん!? 大丈夫ですか?」


「私…… 私…… バッドステータス持ちになっちゃったー!!」


 バッドステータス!? ……って、何だ?


 


 

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