何故かって? 俺があまりにも弱いから

『何してるの! ちゃんと見て攻撃しなさい!』


 見てるって! はぁっ!


『全然当たってないわよ! ほら、左からもう一体来たわ!』


 げっ! ……やぁぁっ! 


『もっと力を込めて! はぁぁっ!!』


 くそぉぉ! えい! えぇい!


《お疲れ様です、戦闘は終了でございます》


 はぁっ、はぁっ…… 疲れたぁ。


 ホーリー○ットの事件以来、何日かに一回、村のすぐ近くの森に入りモンスターと戦わされている。

 何故かって? 俺があまりにも弱いから。


「ハルちゃん、お疲れ様……」


 心配そうに母が声をかけてくれるが、母も渋々だが俺に戦闘経験を積ませる事を許可している。

 何故かって? 俺があまりにも弱いから。


 母は村長に『もしレーナのようにハルが突然拐われた場合どうする?』と言われ、散々駄々をこねて泣きわめきながら拒否するも、親には勝てずに、最後には許可を出した、条件付きで。


 その条件とは『母が必ず付き添う』『村の近くでのみ』『修行したその日は必ず一緒にお風呂と一緒に寝る』だ ……最後の要らなくね? 修行しなくてもしてるじゃん。


 それは大したことじゃないから置いといて、それよりも修行が大変なんだよ!


 聖剣の奴、俺がレベル3になってしまったせいで新たな技を覚えやがった!


『こっちに勇者がいるわよー!!』


 やめろ! またモンスターを呼び寄せるつもりか!?


 聖剣、モンスターを自由に呼び寄せる事が出来るようになってしまったんだ! なんてこった!


『ほら、一体だけだから落ち着いて戦いなさい』

 

《戦闘開始でございます》


「あぁ! ハルちゃんが…… 駄目よマリー、ハルちゃんの成長のためなのよ? 見たでしょ、逞しくなった身体を…… そして一緒に寝ている時の安心感…… 我慢よ、マリー」


 ちくしょうっ! あぁ、もう! 早く帰りたいんだよ! やぁぁっ! ……あと母、独り言を言いながら身体をクネクネさせるのやめて? 気が散るから。 


《戦闘終了でございます》


『やるわね、ハル! スムーズに動けるようになってきたじゃない、凄いわ!』


 ……ふん、そんなに褒めたって今日はもうやらないからな? 配信準備があるんだ。


『そうね、それじゃあ今日は帰りましょうか』


 はぁ…… 疲れたし腹減った、帰ろ帰ろ、家へ帰ろ。


 それにしても村の人口は増えてないのに賑やかになったなぁ。


 まず、村長の家が豪華になった。

 レーナと暮らすために古くなった家をリフォームして綺麗にし、隣には小さな祭壇がある小屋を建てた。

 ホーリー○ット教会は壊滅し、組織は無くなってしまったが、レーナがホーリー○ットの神へと祈りを捧げるために作ってあげたらしい。


 ホーリー○ット教会には酷い事をされたが、神託のおかげで村長と巡り会えた事を毎日神に感謝しているとか言っていたな。


 そして次にミミさんの雑貨屋も新たに建て直し、二倍くらい大きな雑貨屋になった。


 トルセイヌさんの発明した装置によって世界中の商品が取り寄せられるようになり、村の皆はもちろん、遠くにある隣の村からも買い物客が訪れるようになった。


 俺も見たことのないお菓子がいっぱい並んでて、思わず爆買いしてしまった。


 そしてミミさんとトルセイヌさんが本格的に同棲をするために住居部分も広く建ててもらっていた。


 一度お邪魔させてもらったが、リビングは広いしキッチンも使いやすそうだった。

 あと、見るつもりはなかったんだが、寝室にデカいベッドがあって、見慣れない服がいっぱい掛かっていたなぁ…… 


 違う! 覗くつもりはなかったんだ! ただ、トイレを借りた時にたまたまドアが開いてて、思わず目に入ってしまっただけだからな!?


 とにかく、二人ともとても仲が良いようで、同じデザインの上着をお揃いで着たりしている、そんな姿を見た猟師の兄ちゃんは……


「ハル、元気でな…… 俺は隣の村に住まわせてもらう事にしたよ……」


 ショックを受けた顔をして村から出て行ってしまった。

 ただ、その数日後、隣の村に住む娘さんと仲良くなった、と自慢しに来たから元気にしてるのだろう。


 変わったのはそんなところかな? まあ元々人口の少ない静かな村だから、家を建て替えたりするのが珍しいから話題になるというのもあるけど。


「はーい、ハルちゃん、ばんざーい」


 しかし雑貨屋で売っていたご当地限定のお菓子は変わった味が多くて美味しかったなぁ。


「うふふっ、かゆい所はありませんかぁ?」


 大丈夫だよ、あのポテチはもう一度買ってこよう、ついつい食べ過ぎてあっという間に無くなったもんな。


「次はこっち向いてねー?」


 分かった、そういえばジュースも色々あったなぁ、特にあの不思議な味のジュースはゲームする時に目が冴えていいんだよ。


「綺麗にしましょうねー? ……あらあら、うふふっ」


 よし、あとで買いに行こう。






《…………》









『オウマくん達と遊ぶの久しぶりじゃない?』


 ああ、何か最近忙しいらしくてタイミング合わなかったんだよ。

 さて、そろそろ時間だから通話を繋いで……


「やっほー、ハル、久しぶりね」


 ブロッサムか、久しぶり、今日はよろしく。


「リーダーはちょっと遅れるって言ってたわ」


 そうか、仕方ないよな、まだ忙しいのか?


「私もだけど、最近立て込んでて大変なのよ、まったく…… のんびりゲームする時間もないもん」


 全然ログインしてないもんな、今日もこの時間なら大丈夫、って言うくらいだから忙しいんだろうなとは思ってたよ。


「やあ、遅れてすまないね」


 おっ、リーダー、今日はよろしく!


「よろしくね、はぁ…… 久しぶりにゲームが出来るよ」


 大変みたいだな、疲れてるだろうしほどほどに手加減してやるから安心してくれ。


「ははっ、とか言いつつハルはいつも本気で来るじゃないか」


 へへっ、バレた? まあ今日はレースゲームだし、大会とかいう訳じゃないから気楽にやろうぜ。


「そうだね、じゃあそろそろ配信開始しようか」


 了解、じゃあ配信スタートを押して…… っと。


 

 今日は俺達三人と視聴者も参加しての大人数で出来るレースゲームをやる。

 適当に喋りながら視聴者も含めワチャワチャと盛り上がるのが楽しいんだよ、モンスターと戦わされて荒んだ心が癒される。


「ちょっと、あんた達! 私の邪魔をするんじゃないわよ!」


「うわっ! ははっ、お先に失礼するよ」


 いてっ! コラッ、俺の前を走るな! あぁっ、アイテム取り損ねただろ!?


『楽しそうね……』


 聖剣、何か言ったか?


『いいえ、何でもないわ…… 私、ちょっとマリーと話をしてくるわね?』


 ああ、分かった…… おい! 誰だ、こんな所にお邪魔アイテム置いたの!


「ぷぷっ、引っ掛かったわね!」


 ブロッサム、お前かー! クソっ、今追い抜いてやるからな…… ぐわぁぁ! またお邪魔アイテム!


「ハル、あれに引っ掛かったのかい? それは僕が置いたやつだよ」


 リーダー! お前ら…… 食らいやがれ! 


「きゃあっ! はー、危なかった、視聴者さんが盾になってくれて助かったわ」


「ははっ、今の僕にはそれは効かないよ」


 クソぉぉっ! ビリは嫌だ! おい、視聴者! 手加減しろ!


「本気で勝負するんでしょー? 私は先にゴールするから最下位争い頑張ってー」


「ブロッサム、油断してると危ないよ?」


「ああっ! リーダーに抜かれたぁ!」


「悪いね、一位はもらったよ」


 あぁぁ! 待って! 置いてかないで!


 ……何とかビリは回避したけど納得いかない! もう一回勝負だ!


 そしてしばらく楽しく遊んでいたのだが……


「ねぇ、さっきから一緒になる『ソフィ』っていう視聴者さん、上手くない? 三連続くらい一位よ?」


「そうだね…… 世界のコースレコードに届きそうな走りだ」


 おいおい、みんなで楽しくやる所にガチな奴が来ちゃったのかよ…… さっきからリビングが騒がしいな? またタダ飯食らいが遊びに来てるのか?


「時間も丁度良いし、これで最後にしようか?」


「いいわよ、さすがに騒ぎ疲れたわ」


 オッケー…… あっ、また『ソフィ』が入って来たぞ? なあ、みんなでコイツを倒そうぜ。


「うーん、それも面白そうだね、視聴者の皆もいいかな?」


「じゃあ打倒『ソフィ』って事でいいかしら? ふふっ、うちの視聴者はやる気満々みたいよ」


 さて、じゃあ行くぞ、皆!

 レース、スタート!!


 あっ、速っ、ちょっと待て! 皆、お邪魔アイテムだ! えっ、嘘だろ? 激ムズなショートカットを簡単そうに決めてやがる!


「ああ、ちょっと! お邪魔アイテムに引っ掛かっちゃったわ」


「あっ…… 外れた? 上手いなぁ」


 おぉい! 誰でもいいからアイツを止めろ! あっ…… コースアウトしちゃった。


 そして、最後も『ソフィ』がぶっちぎりの一位で、何だかモヤモヤする終わり方だったが、楽しかったからよしとしよう。




『ふっふーん、楽勝だったわ』


《お姉様、さすがでございます》


 いつの間に戻っていたのか気付かなかったが、ご機嫌な聖剣…… 


『楽しかったわ、またやりましょうね、ハル』


 んっ? メンバーはどうなるな分からないけど、またやるとは思うよ。


『ふっふっふ……』


 得意気に笑う聖剣を見て、何だか分からないがイラッとしてしまった。


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