聖剣よ、怖い事を言うな

 ○○: すげぇ!

 △△: オシャレな建物ばかりだな

 □□□□: 魔族と人間の村、しかも温泉もある!

 ○○○: 彼女が行きたいって騒いでる

 ✕✕✕: もげろ!


 

 おお…… 早速動画についてコメントがされている。

 慣れない編集作業を終え、動画をアップすると再生数がどんどん伸びていった。


 やっぱり魔族と人間の村の注目度は高いのか、普段俺の配信では目にしない視聴者もたくさんコメントしてくれている。


 ○□○: 聖母様の格好…… エッッ!

 △✕: ふぅ……


 ついでに母についてのコメントもある。


「やぁん、ハルちゃん、怖いわぁ……」


 ごめん母、セクシーな母の姿をサムネイルにして視聴者を釣っている部分もあるから、我慢してもらうしかない。


「ちゃんと私がハルちゃんのものって証を付けておいて正解だったわぁ」


 うん…… やたらとせがむと思ったらそういう事だったのか。

 何人か母の首筋についてコメントしているが、そこまで盛り上がってないので無視しよう。


『早速だけど、宿屋にお客さんが入ってるみたいね』


 ああ、でもあの人達はノト村の住人の家族とか知り合いで、開店前のお試し営業だから、もし観光客が来るなら本格的に開店した後だろうな。


『そうだったのね、でもこの辺がどんどん発展して、王都並みになるのも夢じゃなくなりそうね!』


 聖剣よ、怖い事を言うな、やっと休めそうなのに。


『動画編集頑張ったからね、いいんじゃない?』


 よし! 今日からぐーたら生活だ!


『ここ最近、たまたま忙しかっただけで、それはいつも通りのような……』


「じゃあ私もー! ハルちゃーん」


 わわっ! いきなり抱き着かないで! ああ、もう…… むにゃむにゃ……


「うふふっ、私の愛を顔に押し付けるだけですぐおねむに…… 愛に磨きがかかってきたわね」


『愛って…… 胸を押し付けてるだけじゃないの』


 むにゃ? うーん…… 母のぺぇ…… マジぺぇぺぇ……


「やん! うふふっ」


『はぁ……』


「……私は少し村の外を見てくるわね」


「はぁーい、いってらっしゃい、ソフィア」



 ◇



 私の名前はメアリです。

 夫であるマッシュさんと娘のミアと一緒にナリ村へ越してきて数日になりました。


 私達は魔族の国に住む人間で、細々と食堂を営んでいましたが、友人のユアさんに誘われて、人間の国に新たに出来た、人間と魔族が共に暮らす村の宿屋の経営をするために家族で移住しました。


 隣接するサイハテ村やノト村の皆さんはとても良い人達ばかりですし、穏やかで自然溢れる環境でのびのびと子育て出来そうなので、移住してきて良かったと思っています。


 ですが…… いきなり私はピンチに立たされています! なぜかというと……



「メアリさーん! こ、焦げちゃいましたぁ……」


 火が強すぎです! あと、何でフライパンに油をひいてないんですか!?


「やぁーん! 目がぁぁ!」


 野菜をみじん切りするのに魔法を使うから野菜が爆発しちゃってますぅ!


「うぅぅぅっ! あっ……」


 『あっ』って何をしたんですか!? 


「うふふっ…… 私の谷間でもみ洗いしますわ」


 ニンジンは手で洗って下さい! それに皆さん、どうしてこんなに散らかすんですかぁ……


 食堂のお手伝いとしてサキュバスさん達を雇って欲しいと言われて、許可したのが間違いだったんでしょうか。


 お料理スキルを見るために、簡単に出来るカレェを作って貰おうと思ったんですが、このサキュバスさん達、ダメダメですぅ……


 カレェに使わない調理器具を色々出して使ってみたり、料理の手順を知らないのに勘で作ろうとするから、キッチンがめちゃくちゃです。


 分からなかったら聞いて下さいね? って言ったのに、なんで自分達だけで解決しようとしちゃうんですか? 


「みんな! 諦めたらそこで終わりよ!」


「素敵な奴隷…… じゃなくて、お嫁さんになるためですからね」


「花嫁修業なんだから!」


「負ける訳にはいかない!」


 うーん…… やる気だけはありますし、好きな人のために頑張る女の子を見放すのはかわいそうですね。


 それでは皆さんを立派なお嫁さんにするために、ビシバシいきますよ!


 でも…… 今夜はマッシュさんにいっぱい慰めてもらわないと、私が頑張れそうにありませんね……



 ◇



「うぅっ……」


「ミミたん、大丈夫?」


「だ、大丈夫だ…… ちょっと調子が悪いのと、吐き気がしてな」


「と、とにかくお医者さんに診察してもらおうね?」


「ふふっ、大丈夫だからそんな顔するなよ、ダーリン」



 ◇



「うぅっ……」


「調子はどうだ?」


「コウタローさん…… ちょっと熱っぽくて…… でも大丈夫ですわ」


「そうか、医者を頼んでおいたから安静にしてるんだぞ? 何かあったらすぐに言うんだ」


「ふふっ…… 大丈夫ですわよ、だからコウタローさんも休んで下さい……」



 ◇



「クレアさん……」


「はぁっ、はぁっ、ありがとうレオ、助かったよ」


「……バッドステータス、辛そうですね」


「ああ、でもレオが素早くモミモミしてくれたおかげですぐ治まったよ、でも…… 続きは帰ってから、な?」


「は、はい……」


「それとも、ここでするか? わははっ!」


「…………」


「レ、レオ? ……もう、仕方ないなぁ、ふふっ」



 ◇



「動画か…… へぇ…… これが魔族と人間の村か」


『なかなか綺麗な建物ね! オ…… 魔王様、どうするつもり?』


「うーん、せっかくだし、お忍びで泊まりに行くかい?」


『そうね! ついでに…… 勇者をビックリさせましょ?』


「あははっ! サクラはそういうのが好きだよねぇ ……僕も早く会いたいなぁ、ハル」



 ◇



 むにゃむにゃ…… むぐぐっ…… ぷはっ!! んんっ? 何だ、これは?


「ん……」


 母か…… また俺を寝かしつけたな? 


「あん!」


 あっ、ごめんごめん…… って、おい!


「うふふっ……」


 ああ、そういう感じ? それなら…… えい!


「っ!? ……もう、ハルちゃんったら」


 母が最初にしたんだろ?


「うん…… だってぇ……」


 じゃあ……


「ハルちゃん…… お願い……」


 


 ◇

 



「アナ、敵よ」


「はい、お姉様」


「私は右から行くわ」


「では私は左から」


 敵の数は…… 確認出来るのは十人、でもまだまだ増えそうね。


 左右に別れ敵に向かって走り出す。

 私達に気付いた敵は武器を構え、私達に襲いかかってくる。


 一人目が振り下ろした剣を身を翻し避けて拳で一撃。

 吹き飛んだ敵を確認してから素早く二人目に一撃を加える。


 アナの様子をチラリと横目で見ながら、三人、四人と仕留めていく。


「アナ! あっちに道があるわ!」


「了解でございます!」


 目の前に現れる敵をなぎ倒しながら全速力で走り抜け、そして二人でヘリに乗り込み戦場から脱出した。


「ステージ1、クリアね」


「お疲れ様でございます」


「ふぅ! なかなか臨場感あって面白いわね、このゲーム」


「はい、魔族の国で開発中のバーチャルアーケードゲーム、これは人気が出そうでございますね」


「その他にもまだあるみたいよ、こういうの」


「これをたくさん置いた施設をナリ村に建設するのでございますか…… 更に集客できそうでございますね」


「ええ、これで『サイハテ村王都計画』がまた一歩進みそうね!」


「お姉様さすがでございます、ハル様を旅立たせる事なく立派な勇者にするための計画、成功するといいですね」


「ふっふっふ…… それじゃあアナ、次はこっちのゲームするわよ!」


「はい、お姉様…… ただゲームがしたいだけに見えるのは私だけでございましょうか?」


「ん? 何か言った?」


「いいえ、何も言ってませんよ」



 ◇



「ワン!」



 ◇



「ニャーン」




 ◇


「うふふっ、幸せ……」


 ふぅ…… 今日も平和だな。

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