いや、泣くほどの事か?
「勇者様! 勇者様ー!」
何だよ…… 朝から俺の家の前で騒ぐのが定番になっているのか?
「ハルちゃん、もう昼近いわよ」
……えっ!? ちょっと寝過ぎたかな、って、母も早起きしてないなんて珍しいな。
「……もう、私だってちょっぴり疲れてるんだから…… うふふっ」
そうか…… さて、うるさいからそろそろ返事をするか。
はいはーい、ちょっと待っててねー?
「おはようございます勇者様! 少し相談がありまして……」
相談? 畑をもう少し広げたいと…… それならうちの村の村長に聞いてみるよ、畑の管理は村長の方が詳しいから。
「勇者様、実は……」
なになに? 離れ離れになっていた家族を呼び寄せたいから住居を増やして欲しいと…… うん、ギェンさんと調整してみる。
『うぅっ…… あのぐーたらなハルが、皆に頼られるくらい立派になって……』
いや、泣くほどの事か? 相談を聞いてるだけで仕事は他に丸投げだけどな?
『確かに…… 玄関先で話を聞いてるだけだわ』
そう、家から一歩も出ずにな?
『そう考えたら大して変わってないわね、がっかりだわ』
勝手にがっかりされても困るんだが。
「勇者様ぁ……」
何だ、今度はサキュバスか、どうした?
「ショータくん達が…… 魔法使いとイチャイチャしてるんですぅ」
魔法使い? ルナの事か。
イチャイチャしてるってどういう風に?
「とりあえず来て下さい!」
おわっ! ちょっと服を引っ張るな! 俺は家から出ないぞー! って、意外と力が強いな、おい。
サキュバスに連れられて来たのは、例の穴ぼこだらけの平原。
ルナの周りには子供達がいて、穴ぼこの中から残りのサキュバスが子供達の様子を覗いていた。
「ルナちゃん、お願い!」
「えへへーっ、いいですよー!」
「ぐぬぬっ…… 私のショーンに色目を使って……」
ぐぬぬとか言う奴いるんだ。
「次は俺だ!」
「やれやれです、仕方ないですねー」
「ああ、ショーゴ…… あんなに積極的に……」
確かに傍目からみると積極的に絡んでいるように見えるな、ルナに魔法で吹っ飛ばされているけど。
「ふっ…… 我の力を見せてやる!」
「なかなかいいですよー」
「タロウマル様…… あの女の子も服従させようとしてるのですね……」
いや、君はどういうキャラなの? ルナもちょっとめんどくさそうにしてるよ?
「勇者様ぁ、最近ショータくん達が魔法使いとばかり遊んで、私達に構ってくれないんです、助けて下さい!」
そんな事を俺に言われても…… でもルナと遊んでいる時以外はずっと一緒にいるんだろ?
「はい、ショータくん達のご両親に認めてもらえるように挨拶に行ったのですが…… 『ぜひよろしくお願いします』って言われて、今は一緒に住んでますよ」
じゃあいいじゃん…… それにしてもよく許可が出たな?
「魔族の国に居たサキュバスに大変お世話になったみたいで、私達なら安心とまで言ってもらえました…… えへっ」
あー、そういえばエミリアもサキュバスだったか、それにエミリアの母や姉も何かと世話を焼いてくれたって言ってたもんなぁ…… なら尚更気にしなくてもいいんじゃない?
「でも…… 今のショータくん達はあの女の子に夢中ですから、私達心配で…… やっぱり私達みたいな年上のおばさんは嫌なのかなぁ」
おばさんって歳じゃないだろ…… うちの母だって十歳年上だけど、年齢なんて気にした事ないぞ?
「ところで勇者様…… マリー様、日に日に若々しくなっているような気がするんですけど」
いや、若々しいじゃなくて若いだろ。
「なーんか、サキュバスが食事をした後みたいに、艶々してるんですよねー」
……あーっ! 子供達が魔法を使ってるー!
「やった! 出来たー!」
「よし、俺も!」
「僕も出たよ!」
「我にかかれば他愛もない事だ」
子供達はそれぞれ、炎、氷、雷、闇、と別の属性の魔法を繰り出して喜んでいる。
「これでまた一歩大人に近付いたね!」
「ああ」
「これなら……」
「ふっ……」
「「「「大切な人を守れる男になれる!」」」」
……ふーん、なるほどね。
「あっ! シオリお姉ちゃん!」
「ショータくん……」
「僕、魔法覚えたんだ! だから悪い奴が来てもシオリお姉ちゃんを守ってあげるからね! 僕達、そのために魔法を教わってたんだ!」
「……ショータくん!!」
「シ、シオリお姉ちゃん、外でチュウはやめてよー、勇者様が見てるからー」
いや、気にしないで…… うん、ちょっと前の自分と母を見せられているようで何だかこっちも恥ずかしいな。
あーあ、あっちのサキュバス達も…… じゃあ問題解決って事で帰るからね? って、聞いてないや。
結局サキュバス達のイチャイチャを見せ付けられただけじゃないか、まったく。
「おかえりなさい、ハルちゃん……」
どうしたんだよ母、モジモジして。
「だって…… 『おはよう』がまだだったのに出かけちゃうんだもん」
あぁ、急いでたからなぁ…… これでいい?
「んっ…… うふふっ、ありがと、ご飯出来てるから食べましょ?」
うん…… 母、抱き着かれると動けないんだけど。
「もうちょっと…… うふっ、幸せ……」
母が幸せで何よりだよ。
「はぁ、ベタベタして…… と言いたい所だけど、いつも通りで安心するわね」
「そうでございますね、表では控え目になりましたが……」
おっ、タダ飯食らい一号、二号も居るじゃないか、じゃあ母、こ飯にしよう。
「……すっかりマリー様も母の顔から恋する乙女の顔になりましたね」
「むぐっ? アナ、何か言った?」
「……お姉様、口いっぱい頬張りながら喋らないで下さい」
◇
「魔王様、勇者が新たな村を作り、そこで魔族と人間の共同生活をさせているようです」
「そうなんだ…… ふふっ、そのうち勇者の様子も直接見に行かないといけないかも、ねっ、サクラ?」
『そうね、そろそろいいんじゃない?』
「会うのが楽しみだよ…… 勇者ハル」
◇
新しい村…… うーん……
『何を悩んでいるの?』
いや、新しい村の名称をどうするかって話をされて、皆が俺に決めろっていうんだよ。
『そうなの? 責任重大じゃない』
仮でもいいから決めて欲しいって言われて…… うーん。
『……どうせそのうち大きな街になるから名前も変わるわよ、きっと』
やめてくれ! 俺の平穏な日々を脅かすような事を言うのは!
……ノト村でいいか、新しい村の村長がノトさんだし。
『適当ね……』
適当でいいだろ、はい、決定。
その後、新しい村の名称をノト村とする事をノト村長に伝えると、涙を流して喜ばれたので適当に決めたと言いづらい空気になってしまった。
こうしてノト村の住人達はサイハテ村の住人達の協力を得ながら新たな生活に馴染んでいった。
だけど、人が増えるという事は問題も増えるわけで……
「勇者様ー! モンスターの皮で作った加工品の在庫がありません、誰か狩りが出来る人を増員して下さい!」
「聖母グッズ第三弾の予約が殺到してます! 増員を!」
人が家を訪ねてくる頻度が日に日に増えてるんですけど! 落ち着いてゲームも配信も出来ないよ!
「ハルちゃん忙しそうね、私も手伝う?」
いや、母も母で忙しいだろ? 聖母グッズの監修とかノト村の住人に料理とか色々教えてるし、大丈夫だよ、ありがとう。
「無理しないでね? 他の人に頼んでもいいんだから」
母…… 手を握って指を絡められると何も出来ないんだけど。
「ちょっと休憩しましょ? おいでハルちゃん」
ベッドに腰かけて、自分の太ももをポンポンと叩く母…… 膝枕してあげるって事か?
「うふふっ、私がしてあげるのは久しぶりかも…… 最近は私が甘えてばかりだからね」
じゃあお言葉に甘えて…… 母の膝枕は落ち着くな。
「ハルちゃん……」
むぐぐっ…… アイマスク代わりの…… すぅ…… すぅ……
「あら? もう寝ちゃった…… うふふっ、やっぱりI…… じゃなくて愛の力は偉大ね」
よし、決めた。
俺がダラダラ過ごすためには人が足りない。
明日、誰かこの村に移住したい人がいないか皆に聞いてみよう。
「ふわぁ…… 一緒に寝ちゃおうかしら? ハルちゃんの寝顔を見ていたら、私も眠くなっちゃった」
その後、聖剣に起こされるまで二人でぐっすり眠ってしまった。
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