おい! ネタバレすんなよ!

 さて、スタートボタンを押して……


 皆、久しぶり! 最近忙しくてなかなか配信できなかったよ。

 じゃあ今日はオッサンをジャンプさせながら進むゲームの新作をやっていくぞ。


『これ、難しいのよねー』


 なんだ聖剣、まるでやった事あるような言い方だな。


『ふふーん、まあね』


 いや、お前は剣なんだからできないだろ、嘘つくな。


『……まだなの? それ本気で言ってる?』


 俺はいつでも本気だ、本気と書いてマジ、というくらいにな。


『……鈍感と書いてバカというくらいね』


 バカだと!? バカと言ったほうがバカなんだぞ!


『なに子供みたいな事を言ってるのよ、まったく……』


 ふん! ……おい、お前ら! コメントで草を生やすな! 『始まったw』『相変わらずのやりとりだなw』『実家のような安心感w』 だと!?


 ……まぁいい、それじゃあ始めるか。


 

 村は色々とゴタゴタしているが、皆忙しいながらも楽しそうに生活しているから何よりだ。


 しかし忙しいことで俺のゲームや配信をする時間が減ってしまうのが問題なんだよな。

 だから今日は無理矢理休んで配信をしている。


 MPCの横にはお菓子とジュースを用意して、長時間配信しても大丈夫なように準備したので気兼ねなくゲームができる。


 はぁー、これだよ、これ。

 コメントと会話しながらゲームで遊んで、時々聖剣とあれこれ言い合いする、なんて落ち着くんだ。


『そこにアイテムが入ってるわよ』


 ここ? あっ、本当だ…… おい! ネタバレすんなよ!


『あぁ、ごめんね? あまりにもモタモタしていたから、つい』


 なんだと…… クソっ! 今日はのんびり楽しもうと思ってるのに!


『だから謝ったじゃないの』


 次、口出したらあっち行けよ?


『はいはい、それなら分からなくても私に聞かないでね?』


 ……なぁ、これってこっちのルートでいいのか?


『ちょっと! 話を聞いてた!?』


 んっ? ワカメ食っても和菓子に目がない、って言ったんだろ?


『どこをどう聞いたらそうなるのよ! ハルの耳はおじいちゃんなの!?』


 いやぁ、それほどでもー。


『褒めてな…… っ、ここで私が乗ったらボケ続けるからダメね』


 ちっ! これだから勘の良い聖剣は。


『…………』


 よし、ゲームに集中だ。


 

 ◇



 ふぅ、今日もたくさん人が見に来てくれたな、ありがとう。

 ところで俺の配信を見てくれている人で魔族の人っている?  コメントしてくれ。


 ……結構いるんだな、しかもコメントしてくれている人には古参の人もちらほらいる。


 なぁ、みんな、魔族と人間が一緒に住んでも問題ないと思うか?


 ○○:いいんじゃね?

 ✕✕✕:うーん、生活習慣とか違いそう

 △△:風呂入ってくれたら

 ○○○:俺は魔族の彼女と同棲中

 □□□:彼女持ちがハルの配信に来てんじゃねー!


 違うことで揉め出した…… って、なんで彼女持ちが俺の配信に来たらダメなんだよ!


 □□□:ハルが童貞だからwww

 ○○:www

 △△:草


 お前ら…… 童貞…… で悪かったな。


 その後、色々と魔族と人間について色々質問したが、最終的に童貞弄りされて配信を終えた。


「ハルちゃん、お疲れ様」


 うぉっ! 母、いつの間に隣に座ってたんだ?


「うーん、ゲームが終わってちょっとしてから…… かな?」


 用があるなら声を掛けてくれれば良かったのに。


「別に用があったわけじゃないわよ? ただ…… みんなハルちゃんの事…… うふふっ」


 なぜ母は勝ち誇ったような顔をしているのかな? うーん、ぼくわからない。


「うふふっ」


 さて、少し休憩してからノト村の様子を見に行くか。



 母を連れてノト村を訪れると、ノトさんが出迎えてくれた。


「ハル様とマリー様ではありませんか、丁度良かった…… 少し時間を頂いてよろしいですか?」


 別にいいけど、どうしたんだろう、困ったような顔をしているな。


「実は…… ここに住みたいという魔族が来まして、私達はどう対応したらいいかと相談に行こうと思ってたんです」


 魔族? しかもわざわざこんな最果ての村に住みたいだなんて。


「ハルちゃん、とりあえず会ってみたら?」


 そうだな…… よし、ノトさん、案内してもらってもいい?


「ああ、助かります! ……ところでハル様とマリー様はいつもそのようにしているのですか? たしか親子と聞いていたのですが」


 そのようにって…… 母と手を繋いじゃ駄目なのか? 


「うふふっ、私達はいつもこうしてるんですよ? ずっと、これからも……」


 母と指を絡めて手を繋ぐのは珍しいのか? ……普通だろ。


「そ、そうですか…… では、こちらです」


 少し戸惑った顔をしたノトさんに案内されて辿り着いたのはノト村の集会所で、外には珍しそうに中を覗く村の人達がいた。


「今、代表としてサキュバスの彼女達に相手をしてもらってまして、とりあえずハル様、中にどうぞ」


 集会所の中にはサキュバス達が座っていて、向かい合って魔族の人達が六人座っていた。


「勇者様! 来てくれたんですね」


 ああ、とりあえずノトさんに連れられて来たんだけど、どういう状況?


「とりあえず彼らの話を聞いてもらった方が早いかと思います」


 移住希望の六人はそれぞれ別の特徴があり、頭に角が生えている人や背中に小さな羽が生えている人、耳が長い人に、獣のような見た目の人、あとは肌が青い人…… みんなバラバラだな、しかも男女三人ずつか?

 すると代表なのか角の生えた人が話しかけてきた。


「勇者様、初めまして…… 私達はそれぞれ違う魔族の里から逃げてきた者になります、住む場所もなく各地を周りながらその日暮らしをしていたのですが…… 魔族と人間が暮らす村が出来たと聞いてここに来ました」


 逃げてきたって、何があったんだろう…… もし危ないことが絡んでいるなら村に危険が及ぶと困るから出て行ってもらわないといけないな。


「実は私達…… 許されない恋をして駆け落ちしてきたんです! 種族にこだわる里を捨てて……」


 駆け落ち!? 

 そして詳しく話を聞いてみると……


 この魔族の人達はそれぞれ旅をしている途中で出会った三組のカップルで、皆、種族が違う相手を好きになり、周りの人達に反対をされたのですべてを捨てて恋人と逃げてきたという共通点があり、意気投合して一緒に行動していたみたいだ。


 ただ、魔族の国では定住出来ず、人間国に逃げようとしていたが、魔族である彼らは人間国でも定住するのが難しい。


 そこに人間国に魔族と人間が暮らす村が出来たと聞いて、藁にもすがる思いでここに来た…… というわけか。


「ハルちゃん……」


 母、どうしたの?


「許されない恋なんてないの、愛さえあれば幸せに暮らしてもいいのよ…… だから、この人達、ここに住めるようにしてあげて欲しいな、ハルちゃんお願い」


 母がそう言うなら…… よし! とりあえず住居はちょっと待っててくれ! あとはノト村の人に村のルールを教えてもらって…… あっ、ちゃんと仕事はしてもらうぞ? 今、忙しくて大変なんだから。


「えっ!? あ、あの…… いいんですか? 私達が嘘をついているとか、疑われても仕方がないと思っていたんですが、そんなすんなり……」


 ああ、母にお願いされたからな。


「あ、ありがとうございます!」


 不安そうな顔をしていた六人は笑顔になり、それぞれ抱き合ったりしている。


「ハルちゃん、ありがとう…… なんだか私も救われた気分よ」


 そっか…… 


「うふふっ、ハルちゃん…… 私、今凄く幸せだから」


 心なしかサキュバス達もホッとした顔をしていたような気がする。


 魔族と人間、違う種族だって一緒に暮らしてもきっと大丈夫。



 その後、ギェンさんにまた新たな住居の建設を頼み、村の仕事を六人に割り振る手伝いをしたりと最初は忙しかったが、働く人が増えた事により、村の生活が安定してきた。


 ということは……



『ハル、また今日も家から出てないんじゃない? ゲームばっかりして』


 ふふん、仕事がないんだもーん!


 にしてもあの六人、受け入れてもらった恩返しにと一生懸命働いてくれてみんな助かっているし、ノト村の人達とも馴染んで楽しそうにお喋りしている姿を見て、俺と母も嬉しい。


「ハルちゃん、私、ノト村の様子を見てくるから、お留守番お願いね?」


 ああ、いってらっしゃい! んっ? 自分の唇を指でチョンチョンと触って…… あぁ、そういうこと。


『はぁ…… あんた達はまたベタベタして』


「うふふっ」


 よし、今日もゲームを……




「勇者様ー! いますかー?」


 ……誰だ? 子供の声だな。


「勇者様ー! 助けて下さーい!」


 今度は何だ? はいはい…… 今、行きますよ…… っと。

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