何だかイケナイ気分になるんだよなぁ

 ナリ村は宿屋を中心に、様々な娯楽施設が増えつつある。


 魔族の国から大型のアーケードゲームを取り寄せ集めた店や、リラクゼーションを目的としたマッサージなどをしてくれる店、あとはトルセイヌさんの転送装置を利用して、世界中のオシャレな服やアクセサリーなどを取り揃えたら高級感のある雑貨屋などが新たに建設された。

 しかも宿屋が開店して数日の間で。


 ナリ村のすべての施設の案はユアさんが考えていたみたいで、宿屋の完成以降も着々と計画を進めていたみたいだ。


 実はユアさんは魔王軍の仕事の他に、魔族の国で店舗のプロデュース業をしていたらしく、でも魔族の国での忙しない日々に嫌気が差して、この穏やかな村に移住したみたいだ。

 

 なのに何故また忙しい日々を送るような事をしているか聞いてみると『村人の最低限の雇用は作らないと生活できないでしょ? そこまで賑やかにしないつもりだから許して』とユアさんは言っていた。


 別に俺は許可するだけで、特別駆り出されるわけではないからいいんだけど。


 まあ、ユアさん本人は一段落ついたのか、今は宿屋からは少し離れた場所に建てた自宅で家族とのんびり過ごしているみたいだし、三つの村の人達も忙しいながらも楽しそうに生活しているから大丈夫だろう。


『……で、ハルは? 一体何をしているのよ』


 俺? ……いやぁ、聖剣のアドバイスのおかげで『聖母と疑似デート動画』がバズってウハウハだから、今日はのんびりゲーム配信するんだよ。


『ふーん…… 最近は動画作りばっかりしてたからね』


 ああ、前に配信してからだいぶ日にちが空いたから、今日はのんびりパズルゲームで視聴者と喋りながらやろうと思ってな。


 しかし動画の再生数は伸びるな…… 最近アップした、母が軽くダンスして、最後に微笑むだけの短い動画が、俺のチャンネルの再生数上位に入ってくるなんてな。


『あれは…… ダンスというか、マリーの格好じゃない? ミミちゃんの店で売っていた…… セーラー服、だっけ? あの服が珍しいのと、更にマリーが着ることによって…… うん、まぁ、その……』


 あれを母が着ているのを見ると、何だかイケナイ気分になるんだよなぁ。


『うっ…… ハルのいう通りなのが何とも言えないわね』


 ナイスバディで大人の色気のある母が、どこか少女っぽさを感じる服を着ているのがまた…… うん、凄く良かった、色々と。


 さて、配信の準備を…… んっ? この人気急上昇っていう動画、これって……


『ああ、最近一部で流行ってる、お店とか人にイタズラをしてるのを撮影してるやつでしょ?』


 えっと…… 〖食料品店で買う前に料理してみた〗? 〖自分で悪い奴を捕まえてみた〗だと? おいおい、これはちょっと……


『いくらなんでもやりすぎよね…… しかも視聴者までこういうのを楽しんでいるなんて、昔だったらこんな事をしたらその場で斬り捨てられていたわよ?』 


 それもそれで怖いけど…… うーん、真似しようとは思わないけど、再生数は伸びてるな。


『こういう人達、迷惑系配信者って言うらしいわよ?』


 ふーん…… 聖剣、配信とか動画にも詳しいんだな、さてはお前も働かないでぐーたらしてたな?


『ハ、ハルと一緒にしないでよ! 私はただ、今の時代の情報収集をしているだけで……』


 おっ! こっちの動画…… モンスター狩りのゲームの新作!? いつ発売なんだろう?


『それ、二ヶ月後くらいよ! 楽しみよね!』


 ふーん…… 詳しいなぁ。


『な、何よ! これも立派な情報収集……』


 変わっちまったな、聖剣。


『……ぐぬぬっ!』




 ◇


 

 

 俺の名前はシンシン、通行人やお店でちょっとしたイタズラをして笑いを取る、今話題の人気配信者だ。


 今日は最近噂になっている、人間と魔族が共に暮らすというナリ村に来ている。


 王都でも見られないような立派でゴージャスな宿屋にはちとビビったが、この村で可愛いイタズラをするところを配信していくぜ!



 よぉ、シンシンだ! 今日は噂のナリ村の宿屋に泊まりに来たぜ。


 早速だが村の様子は…… 宿屋の周りは栄えているけど、あとはド田舎だな! はははっ。


 おっ、まずはあの雑貨屋に入ってみよう。

 どれどれ…… うわっ、ド田舎のクセに高級そうなもんばっかりだな! じゃあここで一発目のイタズラをしよう。


 そうだなぁ…… 試着室に目一杯服を持っていって、全部着るっていうのはどうだ? あははっ、もちろん買わないけどな。 


 よし、それじゃあ突入ー!


「……いらっしゃいませ」


 ……て、店員、怖くね? なんか熊みたいな奴だなぁ……


「パパぁ、だっこ!」


「ユメ、パパ仕事中だから、後でね?」


「……パパぁ?」


「うっ! さすがユアの娘だ、おねだりする時の顔がそっくり…… はいはい、おいで」


「やったぁ!」


 ……ふっ! ただコワモテだっただけか、ビビって損したぜ! それじゃあイタズラ、スタート!


 ありったけの服をかき集めて…… 試着室へ向かうぜ!!


「…………」


「パパぁ、遊びにいこー」


「だ、駄目だよ? 今お客さんが買い物しているから、お客さん居なくなったら遊びに行こうね?」


 へへっ、高級感のある生地だけど、無理矢理着込んだら伸びちゃうかな? でも、試着中の事故だから、俺は知りませーん! それじゃあ着ていくぜ、みん……


「やーだぁ、今遊びに行きたいの! あっ、お客さんが居なくなればいいの? じゃあ…… えい!!」


「ユ、ユメ!? 何して…… あ、あれ? お客さんが…… いない」


「ふふっ、お客さん居なくなったね、パパ、遊びに行こ?」


「ひょっとして転送魔法を使ったのか? 強引な所も本当にユアそっくりだ……」






 な…… あ、あれ? ここは、どこだ? たしか試着室に居たはずなのに……


「おい! 危ないぞ、変態!」


 変態!? 誰の事…… ぎゃあぁぁっ!! 


「ふっ、我の闇の前にひれ伏せ!」


「タロウマル! 知らない人に魔法当てたら駄目だろ! 早く謝れ!」


「……我の前に立ち塞がる者、すまぬ」


 い、いたたっ…… ク、クソガキめ、どうしてくれるんだよ! ……って、あれ? 何で俺は外にいるんだ? しかも試着中だったから半裸状態じゃねーか!


「……チヨコ」


「はい、タロウマル様」


「あの変態に詫びの品を」


「かしこまりました」


 詫びの品だぁ? ……それよりこのガキは何者だ? こんなセクシーでお色気ムンムンな女を顎で使って…… ま、まさか! お偉いさんの息子とか? 


「ご主人様が申し訳ありませんでした」


 ……何これ、アメちゃん? これで勘弁してくれって事か? おいおい、そりゃねーよ姉ちゃん、ここは…… へへっ、パイをツンツンで許してやるよ。


「……チヨコ」


「はい」


 へへっ…… へっ? あっ、ぽ、ぽ、ぽわわぁぁぁっ……


「我のチヨコには何人たりとも触れてはならんのだ」


「あぁん! タロウマル様ぁ…… 素敵ぃ」


 あへっ、あへへっ、あぁ、プリンの海だぁ! プリンプリン……


「あーあ、チヨコさん、幻覚魔法使って大丈夫? ヨゾラ姉ちゃん達に怒られるよ?」


「ふふっ、大丈夫です、タロウマル様の緊急事態でしたので、みんな許してくれますよ」


「それならいいけど…… チヨコさん仕事中でしょ? もう休憩時間終わるんじゃない?」


「ああ! いけません! それではタロウマル様、私は仕事に戻りますので…… んん…… ちゅっ、ちゅっ、お気をつけて」


「……ぷはっ、ああ、チヨコも頑張るのだぞ」


「ふふっ、はい、それではまた」


「……チヨコさんってタロウマルに甘々だよなぁ」


「ふっ……」






 あひゃ、うへへっ…… あ、あれ? 俺は一体何を…… 誰もいない……


 くっ! し、仕切り直しだ! ナリ村に戻って、次のターゲットを探すぞ!




 ちなみにこの配信は生放送で、今の痴態は全世界で視聴されていた。


 そして現在のMNK(マジックネットワーク掲示板)のトレンド急上昇ワードは


〖シンシン プリンプリン〗

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