温泉が、ね?
「あぁーん、気持ち良い……」
母、変な声を出さないでくれ、勘違いされたらどうするんだよ。
「だってぇ…… 気持ち良いんだもん」
温泉が、ね? そこはちゃんと言わないと、良からぬ想像をする人がいるかもしれないから。
「そんな人いないわよぉ…… はぁぁ……」
はぁぁ…… 気持ち良い。
配信終わりの温泉は最高だな。
しかも今日は混浴に人もいなくて、今は広い風呂を母と二人で貸し切り状態だから更に気分が良いな。
「ハルちゃん……」
貸し切り状態なのに隣にはぴったりとくっつく母がいる…… 離れても良さそうなもんだけど、そう言うと母がどうなるか手に取るように分かるので何も言わない。
「ねぇ、ハルちゃんってばぁ…… チュウしてぇ」
…………
「んっ、ふふっ……」
はぁ…… 昔からベタベタされる事が多かったけど、最近は甘えるようにベタベタしてくるようになったのが何とも言えない気持ちになる。
母はこうなる事をずっと望んでいたみたいだし、俺も何故か今がしっくりくるので別にいいのだが…… コラっ!!
「ちゅうぅっ、ふふっ」
跡が残るだろ? まったく……
「はぁん…… 幸せぇ……」
……まあ、いいか。
◇
さて、気を取り直して…… よぉ、お前ら! シンシンだ。
このナリ村の一番の目玉となる施設は何だと思う? そう、温泉だ!
という事で、今日は温泉に入っている客の後ろに魔法で空気を送って…… 爆発させるぜ!
加減によっては後ろからぷくぷくと空気が出るから…… くくくっ、おならみたいに見えるのもいいな! さて、とりあえず男湯に入るぜ…… えっ? 間違えたフリをして女湯に入れだと? いや、そこまですると犯罪になっちまうじゃねーか!
こういうのはギリギリを攻めるから面白いんだよ…… はっ? ビビってねーし! ……混浴もある? えっ? そ、そうなの?
仕方ない、男湯に入ってから後で行ってみるか…… あっ? 誰もいないじゃないか、これならイタズラできない…… まあ、とりあえず普通に入るか。
ふぃぃ…… ヤベっ、リラックスしちまってたじゃねーか、疲れた身体に温泉は最高だぜ…… んっ? 仕切りの向こう側ってたしか混浴だったよな? 話し声が聞こえるぞ、聞き耳を立てて……
「あぁーん、気持ち良い……」
「マリー、変な声を出さないでくれ」
「だってぇ…… 気持ち良いんだもん」
な、何をしてるんだ!? ちゃぷちゃぷと水の音が聞こえるが……
「ちゅっ、ちゅぱっ……」
「コラっ! マリー……」
「はぁん…… 幸せぇ……」
ちゅぱっ!? 幸せ!? おいおい、お前ら! これは…… アレだよな!?
うぉぉっ! コメント欄を確認してみたが、加速してとんでもない事になっている!
『行け!』『混浴に突撃だ!』『神回だ!!』 同接もどんどん増えている…… へへっ、これは行くしかないな!!
「ハルちゃぁん、私もう……」
「仕方ないなぁ、マリー、そこに座って?」
あぁっ! はじまるはじまる! もうすぐはじまる! はじまる屋さんだ! い、急げぇぇー!!
◇
「ハルちゃぁん、私もう…… のぼせちゃう……」
だから言ったのに! 誰もいないからっていつもより長く入ろうとするから…… 仕方ないなぁ、母、そこに座ってて、飲み物取ってくるから。
「ありがとう、ハルちゃん…… あぁん、あつぅい……」
だから変な声を出すなって……
◇
「あぁん、あつぅい……」
は、始まったのか!? ヤ、ヤベ、手が震える…… でもこの様子を撮影するのが俺の使命! (盗撮は犯罪です!)
◇
さて、メアリさんに頼んで冷たい飲み物を…… うわっ!! 脱衣所に繋がる扉を開けたら、変な奴がカメラを構えてハァハァしていた! なんだ君は!
「おわっ!! ……なんだ君はって? どうも、シンシンです」
◇
マズいマズいマズい!! 撮影しようとしていたのがバレてしまった!! でもまだ撮影してないしセーフ! それに俺くらいの人気配信者にもなれば、名乗ったし相手もビックリして誤魔化せるだろう…… よし!!
「……シンシン? 知らないなぁ」
な、何だと!? っていうかこの男、どこかで…… うわっ! ま、眩しい! お前、水着なのに何で股間が光ってるんだよ!!
「これか? ……よく分からん謎の光だ」
いや、自分でも分からないなんておかしいだろ! さてはコイツ…… バカなのか?
「ハルちゃん、誰とおしゃべりしてるの?」
うっ!! 今度は顔以外が眩しいくらい光った女性が…… 何なのお前ら!?
「眩しいって事は邪な心を持っているのね、そんな人に反応する私オリジナルの加護が…… この『Vガード』よ!!」
うぅっ! Vがぁ! 眩しっ、目、目がぁぁぁっ!!
「マリー、何でコイツは目を押さえてジタバタしてるんだ?」
「うふふっ、知らないわ、あぁん、のぼせちゃったから少し休憩して帰りましょ? 宿屋で」
「……最初からそのつもりだっただろ?」
「うふふっ」
ぐぅぅっ! あっ、ようやく目が見えるように…… あ、あれ? 居なくなってる!? チッ! 失敗かぁ……
◇
「ハルちゃん、何見てるのぉ……」
いや、シンシンってどこかで聞いた事あるなぁって思って調べてたんだけどさ。
「あのいやらしい目で私を見ていた覗き魔の人?」
それはどうか分からないけど、ほら、迷惑系配信者だってさ、しかもアーカイブが……
「えぇっ!? あっ…… さっきの温泉でも配信してたの? やだぁ……」
温泉どころか、ナリ村に来て色々とイタズラ配信しようと試みていたみたいだな。
「あら? ナリ村で撮影した配信は高評価ばっかり…… どうして?」
それも調べてみたけど、まず雑貨屋の服は攻撃魔法を受けても丈夫だって話題になってるし、食堂の料理も美味しそうだから食べに行きたいってコメントがたくさん書かれているな。
「……イタズラが全部失敗してるのも面白いってコメントがあるわね」
あと…… 見える人には見える『聖母マリーの水着姿』っていうのが一番話題になっているぞ?
「やぁん! そんな動画、消してよぉ!」
ほら、コメントで『聖母様、凄くスタイル良い!』『えっ、光で聖母様の顔しか見えないんだけど!』『スケベには見えないらしいw』『神々しい!』『勇者様と一緒に温泉…… だと……』だって。
母の水着姿が見える人と見えない人がいて、それを確認するために更に再生数が伸びているみたい。
「それでもやだぁ…… ハルちゃんにしか見られたくなぁい!」
お、おい! ちょっと……
「うふふっ、ハルちゃん? もう一回、見て欲しいなぁ」
あっ、はい……
◇
お前ら、シンシンだ! 今日の配信は、ナリ村の隣、ノト村の畑仕事をしている人達にインタビューしてみるぜ!
すいませーん、この村の良い所を教えて下さーい。
「あぁ? んー、そうだなぁ……」
次はノト村に移住してきた魔族の人達に生活について聞いてみるぞ!
「こんな僕達を受け入れてくれて、しかもみんな良い人ばかりだから住みやすい村だよ」
他にも聞いてみたいが、それは次の配信で! じゃあまたな、お前ら!
俺は『元』迷惑系配信者シンシン。
今日も移住させてもらった、この最果てにある村の素晴らしい所を配信してお前らに伝えていくぜ!
◇
『オウマ! ナリ村の宿屋の予約、やっと取れたわ!』
「やったねサクラ、最近動画で更に人気になっているみたいだから予約もすぐに埋まっちゃうって話だったからね、でも…… あまり人前で大きな声で本名を呼ばないでね?」
『あっ! ゴメンゴメン…… 魔王様』
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