移住して来ればいいんじゃない?

 とりあえずナツキ達には家に上がってもらい、詳しい話を聞く事にした。


「魔族の国でも人間と魔族が暮らしている場所があるって話はしたよな? だけどさ、その場所に対しての周りの扱いってそんなに良くないんだ、魔族至上主義というか、人間は敵だと考えている奴もまだまだいるからな」


『一応、大昔に人間と魔族は戦争していたからね、わだかまりが全く無いって訳ではないのね』


 そうなのか…… 人間の国でもある話なのかもしれないけど、俺は知らなかったな。


「だから、人間の国に魔族と人間が仲良く暮らしていて、しかも勇者の名で守られている村が出来たって話があっという間に広がってさ、俺達の所に相談に来る人達が増えて困っていたんだよ」


 ……名ばかりの勇者だけどな


「もう! ハルちゃんは自信を持って! ……ハルちゃんはとっても勇ましいわ」


 母、なんで顔を赤らめてモジモジするの? あと、下の方を見ないでね?


「人間の村の事を俺達がどうこう言える訳ないし、だからといって放置しておくのもかわいそうだから、相談しに来たんだ」


 ……うん、移住したい人がいるなら移住して来ればいいんじゃない? その代わり住居とか生活の整備を手伝ってね?


「お、おい! 頼んでる俺が言うことじゃないけど、そんな簡単に決めていいのか!?」


 うーん、別に住む分には問題ないんじゃない? あとはみんなで協力して生活すれば…… あっ、問題起こすような奴は村のみんなに言って追い出すからな? うちにはクレイジーな奴らがいっぱいいるから…… 特にルナとか。


「いや、俺が見た限り問題を起こすような人達は居ないと思うけど…… あと、村の整備とかは大丈夫だと思う、移住を希望する人の中にそういうの得意な人がいたから…… 多分あの人達なら…… ちょっと不安だけど、問題を起こしたりはしないはず」


 ナツキの言い方だと大丈夫に聞こえないんだけど…… 


『ところでその人達ってみんな魔族なの?』


「いや、人間もいるし、人間と魔族の家族もいる、それに一番最初に来たのが人間と魔族の夫婦だったからな」


 ふーん、今じゃ珍しくはないんだろうけど、やっぱりいるんだな人間と魔族の夫婦とか。

 そういえば視聴者で魔族の彼女と同棲してるって言ってた人もいたな。


『本当に時代は変わったのね…… できれば旅をして、この目で確かめたかったわ』


 聖剣に目? おいおい冗談を言って…… って、さりげなく旅の話題を出したな! 俺は絶対旅立たないぞ!


『旅に関しては敏感なのに、他は鈍感…… ハルの頭の中ってどうなってるのかしら? 不思議だわ』


「ハルちゃんの頭の中はきっと私でいっぱい…… 旅にだってもう…… うふふっ」


 おい! 二人とも聞こえないように何を言ってるんだ!? 


『はいはい、まったく…… でも、順調に村が大きくなってるわね、ふふっ』


「あぁん、順調にハルちゃんの中で私の存在が大きくなってるわね、うふふっ」


 

 ◇



「あ、あぁ、ハルか、よく来たな! 今日はどうした?」


 村長、実は話があって…… バタバタしてるようならあとにするけど。


「んん? だ、大丈夫…… 大丈夫だぞ? うん、とりあえず上がりなさい」


 お邪魔しまー…… んっ? 何で床に服が落ちて…… あっ、レーナが目にも止まらぬ速さで回収した。


「あ、あら、ハルさん、いらっしゃいませ、ふふふっ」


 レーナ、お邪魔するよ…… もしかして本当にお邪魔だったか?


「な、何を言ってますの!? 大事な家族ですもの、お邪魔なんてことないですわ! ねっ、コウタローさん?」


「ああ! ハルが邪魔なんて思ってないから、安心して好きな時に訪ねてきていいんだぞ?」


 うん…… 


「そ、それで話とはなんだ? あっ、レーナ、ハルに飲み物を出してやってくれないか?」


「わ、分かりましたわ!」


 んっ? レーナの足下に…… ひもみたいなのが落ちて…… また素早く回収した!


「お、おほほっ、少々お待ちになってね?」


 それからまた奥の方からドタバタと聞こえてきたが、村長がわざとらしいくらい話しかけてきて、誤魔化されているように感じたが、あえて気付かないフリをしてあげた。

 俺って優しい孫だろ? じいちゃん。



「ふーむ、なるほど…… 新しい移住者か」


 さっきとは打って変わって真面目な村長モードになった村長は、アゴに手をやり悩んでいる様子だ。

 そんな村長の横にピッタリとくっつきながら、同じくレーナも悩んでいた。


「そうなればノト村だけでは土地が足りなくなるのではないか?」


「かといって住みやすく平坦な場所をと考えると少し離れた場所になってしまいますわね」


 俺もそう思ってたんだよ。

 ノト村もそれなりの広さがあるが、それは畑や家畜を育てるためで、更に村を作って移住させるとなれば最低でもノト村に近い広さが必要になる。

 ただ、この辺にその規模でも大丈夫な良い土地がない。


 あとは森や山だらけだし、森を開拓するとなると、モンスター狩りがしづらくなって危険な場所に行かなければなくなる。


 だから良い案がないかと村長を訪ねたんだけど…… 


「新しい移住者のためにサイハテ村やノト村までも整備するとなると、人手も足りないし、何より不満が出ないか心配になる」


「どちらの村もとても良い人達ばかりではありますけど、小さな不満が大きな争いになる事もありますし……」


『そうやって人間と魔族は世界を巻き込んだ戦争を起こしたのよ』


 戦争…… とまで言われると大袈裟な気もしてしまうが、そんな経験をした聖剣が言うんだから間違いないんだろう。


「どうしたものか……」


「悩みますわね……」


 村長とレーナが真面目に考えてくれるのはありがたいが、同じようなポーズで悩んでいるのを見ると、お似合いの二人だなと思って、少し笑ってしまう。


「何を笑っているんだ?」


 ごめん、いや、二人ともお似合いだなぁって思ってさ。


「ハ、ハル……」


「もう、恥ずかしいですわ、ハルさんったら」


 と言いつつ満更でもないのか、見つめ合って手を繋いでいる二人。


 

「村長さーん! ……あれ、勇者さんもいたんですかー?」


 おっ!? なんだルナか、いきなり入って来たからビックリした。


「ルナさん! 家に入る時はノックして下さいとあれほど言ってますのに!」


「レーナお姉さん、ごめんなさーい、ちょっと慌ててたので…… 今日はすっぽんぽんじゃないんですねー?」


「「ル、ルナ!?!」」


 ……おぉ、息ピッタリだな。

 うん、ルナ? 今度からちゃんとノックはしようね? それで何の用だったんだよ。


「あー、そうでしたー! ……村長さん、ごめんなさーい! ちょっと付いてきてもらっていいですかー?」


 そしてみんなでルナの後を付いていくと……


 あれ? サキュバス達…… こんなところでも三角座りしているのか? 


「なっ!?」


「あら? ……あぁっ!!」


 あれ? そういえばここら辺ってたしか…… あぁぁっ!!


「えへへっ、魔法の試し撃ちをしたら、サキュバスのお姉さん達が住んでいた山が吹き飛んじゃいましたー!」


 えぇぇぇー!? ちょ、おい! ここ、そうだよ! サイハテ村の隣にあった裏山…… 失くなってるーー!!


「私達の屋敷……」


「秘蔵のコスチューム……」


「恋愛マニュアル本が……」


「タロウマル様に調教された記録が……」


 サキュバス達の屋敷も消えてしまったのか…… 最後のは消えても良かったと思うがな。


「皆さん、ごめんなさーい! えへへっ」


 えへへっ、じゃねぇよ! おいおい、どうするんだよ、これ……


「わぁぁっ! 水が吹き出してますー!」


 うわわっ! 水柱が上がってる! あれ、ヤバくなーい? 


「ルナ…… 魔法の試し撃ちは誰もいない所でやれとあれほど言ったのに!」


「更地になってしまいましたわね…… あら? 温かい水、ですわね?」


 たしかに、水しぶきが顔に当たるけど、ほんのり温かいような気がする。


「あははっ…… 私達にはもう」


「ショーゴ達しか残ってない……」


「それなのに、料理も出来ないなんて……」


「タロウマル様…… 記録がなくても、私の身体にはしっかりと刻まれていますから……」


 ああ、サキュバス達が凹み過ぎて土下座みたいになってる!


 ……あと、最後の奴! 全然凹んでねーな、おい!


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