まあいいか、早速始めよう

 おっす! 久しぶり、リーダー、ブロッサム。


「やぁ、今日はよろしくね」


「よろしく、ハル」


 あれ? MPCの通話グループにはリーダーの名前しかないのにブロッサムの声まで聞こえるけど、もしかして二人は一緒に居るのか?


「ははっ、実は一緒に居るんだよ、今日は一緒にてね」


「そういうことだから、ちょっと声が遠くなる時があるかもしれないけど、気にしないでね」


 おお、オフでも一緒に遊ぶなんて仲が良いんだな! あっ、そうだ…… ちょっと母は準備があるとかでまだ部屋に来てな…… えっ!? は、母!?


「うふふっ、マリーです、二人ともよろしくね」


 ちょっと母! なんて格好をしているんだ!


「どう? 似合うかしら、ハルちゃん?」


 胸元が開いて谷間が丸見えで、しかも身体のラインが見えるようなミニスカートのドレスなんて着てゲームする気か!?


「うふふっ、そんなじっくり見ないでぇ! ……気に入ってくれたみたいで嬉しいわ」


 母はスタイルが良いから似合うけど、ちょっと目のやり場に困るというか…… あっ! 母、今日はゲームしている俺達の様子をカメラで画面に映しているから視聴者に見られちゃうぞ!?


「うふっ、心配しなくても大丈夫よ」


「は、ははっ…… マリーさんが現れて、視聴者さんのコメントが加速してるよ?」


「『聖母様、素敵!』ってコメントと『光で見えない!』ってコメントで溢れてるわね…… 見えないってどういうことかしら?」


 あぁ…… 例の謎の光のおかげで、母のセクシーな姿が見える人と見えない人で分かれてるんだ、そいつらは修行が足りないんだな、きっと。


「どんな修行をしたら見えるようになるんだい?」


「オウマ! 相手にしても無駄よ、さっさとゲーム始めましょう?」


 おいおいブロッサム、俺がせっかく修行内容を教えてやろうと思ったのに、まあいいか、早速始めよう。


 

 今日やる『人生逆転ゲーム』は、1から6までの目があるサイコロを振り、出た数字によってマスを進めるという普通のすごろくのようなゲームなのだが、途中で選べるようになる『職業』が鍵になるゲームだ。


 まず最初にプレイヤーは子供時代からスタートし、止まったマスによって細かくルートが分かれて行く。

 その分岐している子供時代のルートを資金やアイテムなどを集めつつ進めて行くとやがて子供時代のゴールで、大人時代のスタートなる職業へと辿り着くようになっている。


 戦士、魔法使い、僧侶、武闘家など様々な職業についてからがこのゲームの本当の始まりだ。


 職業についてからの大人時代は、その職業専用のルートを進んで行く事になる。

 だから四人のプレイヤーが同じルートを辿る事はまずない。


 じゃあどうやって勝敗を着けるのかというと、大人時代からHPが表示され、それぞれのプレイヤーに攻撃出来るマスが出てくるのだ。


 攻撃の他にも防御や回復など色々なマスがあり、HPがゼロになれば負けで、最後まで生き残っていたプレイヤーの勝利となる。


 職業によって当たり外れもあるし、どの職業に辿り着くか、職業についてからのサイコロ運などが勝利の鍵を握っている。


「じゃあ始めるよ」


 リーダーがスタートボタンを押すと、ランダムでサイコロを振る順番が決められ、ブロッサム、俺、母、リーダーの順番で始まるとゲームの画面に表示された。


「私からね ……3が出たわ! 『魔法の才能ありと褒められる』ね」


 ブロッサムは3か、次は俺の番だ! よし、5が出たぞ! なになに…… 『溺愛されてすくすく育つ』か、まだ始まったばかりだから分からないけど、どうなるんだろう。


 次に母が2を出して進み、リーダーは6を出して


「『生まれながらにして周囲が驚く力を見せる』か、あははっ、どんな子供なんだろうね」


 リーダーは良さげなルートに進んだような気がするな。


 そしてまたブロッサムに順番が回り、サイコロを振り進めて行く。


 次の俺の順番はまた5が出て『溺愛されてすくすく育つ』というマスに止まった…… 進んだのにさっきと同じ内容のマスじゃないか?


「うふっ、次は私の番ね…… えっ?」


 母が振ったサイコロの目は4、普通のすごろくだとリーダーと同じ場所に止まるのだが人生逆転ゲームは違う。

 最初に止まったマスからもうルートは分岐していて、母の止まったマスにはリーダーとは違う内容が書かれているのだが……


「やーん!『不思議な力により男の子が生まれ、みんなにご祝儀を貰う』だって! きっとハルちゃんが生まれたのよぉ、うふふっ」


「は、ははっ…… とりあえずみんながマリーさんに百万イェーンずつ払うんだね、まだ子供時代なのに」


「子供時代に子供を生むってマスがあるってどういう事なのよ、ゲームのバグ?」


 ……バグかもしれないな。

 とりあえずはこのまま進めて、おかしい事がまだ起こるようだったら再起動してみようか。


「駄目よ! 私のすべてを懸けて産んだハルちゃんを消すだなんて!」


 むぐぐっ! わ、分かったから、母、抱き着かないで! 生放送中だから! 俺の顔にぺぇが押し付けられてるから!


「さて、僕の番だね…… おっ、1だね」


「ふふっ『魔力を開放して新しい武器を手に入れる』だって、面白い子供時代ね」


「ははっ、ゲームの中の話なのに、何だか不思議な気分だね」


 おい! 二人とも無視しないで母を止めてくれ! ……ちょっと母、いい加減押し付けるのやめて?


「うふふっ、はーい」


 気付いたら俺の番になってるじゃないか! 今度は4か『英才教育に睡眠学習も取り入れすくすく育つ』…… すくすく育ってばかりで何の能力も手に入れてない!


「睡眠学習って…… ぷぷっ」


 おいブロッサム! 笑うんじゃない! 


「そうよ、睡眠学習ってとっても効果のよ? うふふっ」


 母、何でそんな得意気なの? 


「さすがマリーさん、子育て経験がある人が言うなら間違いないだろうね」


「そうなの! だからハルちゃんもこんな立派に育って……」


 何故俺を見つめて顔を赤らめてるの? 何故視線が下の方に? 教えておじいさん! 


「じゃあ私の番…… 『息子との愛の巣を手に入れる』ですって! やったわね、ハルちゃん」


 いやゲームの中の話だし、プレイヤーは母一人だよ? あと母の中ではゲームの中の男の子は俺で決定してるんだね。


 そして俺以外の三人は資金やアイテムを着々と集めて進み、やがて大人時代に突入するため必ず止まる必要があるマス『シュー・ダンメン・セツ神殿』へ辿り着いた。


 俺もサイコロ運が悪く最後になって辿り着いたのだが……


「ハル…… 結局『すくすく育つ』マスしか通ってないんじゃないかい?」


「お金とかアイテムを手に入れた?」


 ……いや、おかしいだろ! 何だよこれ!『お風呂に入れてもらってすくすく育つ』とか『一緒に寝てすくすく育つ』とか! どういう事だ!? バグだよバグ!!


「うふふっ、大丈夫よハルちゃん、私がいっぱい稼いだから安心して」


 いや、母のアイテムとか貰えないから。

 ちなみに母は『息子に○○を貰った』系が多く、かなりのレアアイテムもあったらしい。

 特に『息子の聖剣』とかいう、装備するとHPが少し減るが攻撃力が二倍になるというチートな武器まで手に入れていた。

 手に入れたマスが『息子と○○○○』と伏せ字になっていたからきっとバグだと思うが。


「さて、私の職業は何かなー? ……『剣闘士』? 見せ物として戦う、あの…… ふーん、私に合ってるかもね」


「じゃあ次は私ね…… 『聖女』ですって! うふふっ、息子がいるのに」


「僕は…… 『魔王』…… あ、ははっ、僕が魔王かぁ…… おかしいね」


 みんな強そうな職業が選ばれたな! さて俺は何かな?


 あなたの職業は…… 『遊び人(在宅)』





 ……何だよ、それ!!


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聖剣を手に入れた勇者は旅立たない ~ゲームや配信が忙しいので家から出ません!~ ぱぴっぷ @papipupepyou

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