勝ったも同然だな、ガハハッ!

「……あははっ、ちょっと恥ずかしいね」


「混浴じゃないと勘違いされちゃうから仕方ないじゃない」


「そうだね…… はぁぁ、それにしても良い温泉だよ、旅の疲れが取れるね」


「本当ね…… でもさっきは危なかったわね、まさかハルと脱衣場で鉢合わせるなんて思わなかったわ」


「いや、それは大丈夫じゃないかな? ハルは僕達の姿を見た事はないから、声さえ出さなければバレないよ」


「それもそうね…… ところで聖母マリーと一緒に温泉に入っていたみたいけど、噂通りハルはマザコンなのかしら?」


「さあ? ……でも母子って感じではなかったよね」


「うん、着替える時までイチャイチャしていたわ、でも…… 本当の母子じゃないからセーフなのかも」


「ハルは勇者として産まれてるから、きっと僕と同じように器から産まれているはずだからね」


「オウマと一緒…… ね」


「ははっ、仕方ないさ…… でも羨ましいよ、親という存在がずっと側に居てくれるのは」


「…………」


「しんみりしちゃったね、ゴメン…… さぁ、夜の配信に向けて準備しなくちゃ! サクラも宿屋に戻ってMPCのセッティングするんでしょ?」


「そうね! ふふっ、今日はハルとのコラボ、そして最後に……」




 ◇



「うふふっ、スッキリ…… じゃなくてさっぱりしたわね、ハルちゃん」


 そ、そうだね…… それにしてももう少し遅かったら別のお客さんと鉢合わせる所だったな、危なかった。


「別に鉢合わせてもいいじゃない、温泉に入ってるだけなんだから…… うふふっ」


 それでもだよ、しかも不自然なくらいくっついてるんだから注目されちゃうと思うし。


「ハルちゃんは心配性ねぇ…… でもあの観光客の人達、チラチラとこっちを見てたわね」


 お互いの身体を拭き合ってたから気になったんじゃない?


「それだけじゃないような気がするけど…… うふふっ、気にしても仕方がないわね、じゃあ帰る? それとも…… 宿屋に寄ってく?」


 いや、今日はリーダーとブロッサムと久しぶりにゲーム配信するから準備しないといけないんだよ、だから帰ろう。


「そう…… じゃあ宿屋は今度ね?」


 うん…… 『宿屋は』っていうのが引っかかるけど気にしないぞ。




 ◇



『はぁぁ、ユアもまた立派な宿屋を建てたわねぇ、こんな田舎に高速MN《マジックネットワーク》も繋がってるし、MPCを使うのにも快適じゃない』


「下手したら僕らの首都よりも良いかもしれないね」


『外れの方だと魔力の流れが悪い所もあるしね、さてと……』


「私も準備しますかぁ…… ふぅっ」


「あははっ、さっきから姿を変えてはベッドに倒れ込んで、サクラの分の準備をほとんど僕がしているじゃないか」


「だって、このベッドフカフカなんだもん…… 気を抜けば寝ちゃいそうだわ」


「仕方ないなぁ、配信まで時間もあるし、ちょっと仮眠したら?」


「そうしたい所だけど…… よっと、大事な準備だからね、ちゃんとするわ」


「じゃあ僕は最終確認をするから少し離れるよ」


「分かったわ」




 ◇




『ハル、準備出来てるの?』


 おう、バッチリだ! 今日のポテチはのり塩だろ? ジュースはコーラにお茶も用意したし完璧だ!


『配信準備の事を言ってるのよ! まったく、お菓子ばっかり食べて……』


「うふふっ、ハルちゃん、あーん」


 ……うん、やっぱりのり塩で正解だ! 今日のゲームはもう勝ったも同然だな、ガハハッ!


『ガハハって笑う人初めて見たわ…… それで今日は何のゲームをするの?』


 んー? 『人生逆転ゲーム』ってやつをやるんだよ。


『で? 何でマリーまでいるのよ』


 四人でやった方が面白いらしいんだけど、チャッピが都合悪くなって一人足りなくなったから急遽母に頼んだんだよ。


 すごろくみたいなもんだからゲームスキルが無くても出来るゲームだし、母でも大丈夫かなって思ってさ。


「ハルちゃんと一緒に配信なんて嬉しいわぁ、うふふっ」


 母、変なこと言ったりしないでくれよ?


「変なこと? 言わないわよぉ! もうっ、ハルちゃんったらぁ!」


 パシパシと俺の肩を叩いて否定してから、すり寄ってきて頬にキスしたり、ぺぇを押し付けてきたり…… 変なことしないも追加しておこう。


『またイチャイチャして…… はぁ、もういちいちツッコむのも疲れてきたわ』


 よし、ボケるのはこれくらいにして改めて確認しておこう。

 母の分のコントローラーも用意したし、マイクの設定も大丈夫、後は時間になるまで待つだけだな。


「じゃあ時間になったら呼んでね? 私はちょっと用事があるから」


 用事? ……配信時間までには帰ってきてくれよ?


「大丈夫よ、すぐ済むから、うふふっ」


『……何か企んでそうな顔をしているわね』


 大丈夫だろ、母だし。


『マリーって言えば何でも解決すると思ってるのが未だに不思議だわ』



 ◇



「はぁぁ…… おっ? マリーさんじゃないか、いらっしゃい」


「ミミちゃんどうしたの、ため息なんてついて」


「んっ? ああ…… 妊娠したのはいいんだけど、ダーリンが心配し過ぎで、気兼ねなくイチャイチャ出来なくてさ」


「うふふっ、仕方ないわよ、それだけミミちゃんとお腹の赤ちゃんが大切なのよ、お父さんなんか毎日そわそわして大変だってレーナが言ってたわ」


「村長かぁ…… 確かに過保護すぎるくらいレーナに付きっきりだからな、ところで今日は何の用だ?」


「ミミちゃん、例のモノを……」


「マリーさん、ついにアレを?」


「ええ」


「……届いたばかりだから慎重に扱えよ?」


「うふふっ、これで私も……」


「健闘を祈るよ」



 ◇



「魔王の動きはどうなってる?」


「今はお忍びで人間国のナリ村を訪問中との事です」


「そうか…… 勇者と魔王が一ヵ所に集っている今が好機なのかもしれないな」


「では……」


「全員に告げろ! 人間国の王都に奇襲を仕掛けると!」


「はっ! かしこまりました!」


「フッ…… 今こそ、世界を我らが魔族の物に」



 ◇



「勇者の動きはどうなってる?」


「相変わらず家でゴロゴロしながら菓子などを食べ、ゲーム三昧との事です」


「そうか…… 勇者と魔王がこうも違うと対処に困るな」


「では……」


「全員に告げろ! 魔族国の首都に奇襲を仕掛けると!」


「はっ! かしこまりました!」


「フッ…… 今こそ、世界を我らが人間の物に」




 ◇



「ワンワン! (愚かなヒト型生物の動きはどうなってる?)」


「ニャン、ニャーン (相変わらず住む場所を巡って下らない戦いをしているみたいです)」


「ワン、ワンワン (母なる大地があるというのに、変な箱に入らないと生きていけないなんて、ヒト型生物は貧弱だから困る)」


「ヒヒーン…… (では……)」


「ワン! ワォーン!! (全員に告げろ! 愚かな争いを続けるヒト型生物に奇襲を仕掛けると!)」


「ニャ、ゴロニャーン! (はっ! かしこまりました!)」


「ワフッ、バウバウ…… (フッ、今こそ世界をあるべき姿に……)」

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