俺をどうするつもりですか?

 魔族側の国って、俺は確かオンワ村に居たはず…… 母のぺぇは魔族側に繋がっていたのか? 悪魔的なぺぇだ。


『何をバカな事言ってるの! きっとあそこにいる娘の魔法よ』


「はわわっ、どうしようナっくん! ミコちゃんとマキちゃんに怒られちゃうよぉ」


 あの、はわわ言ってる金髪のオドオドした女の子か? 


『転送魔法がどうとか言ってたから、きっと間違いないわ』


 あのー、すいません、俺をどうするつもりですか?


「どうするって…… エミリア、この兄ちゃんを帰すのに必要な魔力は貯まってるのか?」


「ううん、パニックになって余計な魔力まで使っちゃったから二、三日は使えない…… ごめんなさい」


「まいったなぁ…… 帰してあげたいんだけど今すぐは無理そうだ、あっ、そういえば兄ちゃん名前は? 俺の名前はナツキ、そして隣であわあわしてるのがエミリアって言うんだ、よろしく」


 俺は…… ハル。


「ハル…… ふーん、ハルは人間だよな? 実は俺も人間なんだ」


 えっ? 魔族側の国なのに人間が住んでるのか?


「へー、さては兄ちゃん古いタイプの人間だな? 今は魔族と人間が暮らしている場所もあるんだぞ? 少しだけど」


「ナっくん、ちょっと失礼だよ! 私達だって最近ミコちゃんに教えてもらうまで知らなかったでしょ?」


「そ、それは…… だってエミリア達がまさか魔族だったなんて分からなかったから」


「それでも変わらず接してくれるナっくんは優しいよね! えへへっ」


「当たり前だろ? エミリア達はエミリア達なんだし」


『……噂では聞いていたけど、そんな所もあるのね、本当に時代は変わったわ』


 じゃあここは魔族側だけど人間も暮らしている場所なんだな。


「ああ、しかも今まではそんなに人間はいなかったのに、魔王様の働きで最近人間が増えてきたんだよ」


 魔王!? しかも増えてきたって……


「人間同士の争いで住む所を失くした人間を保護して住まわせてるんだよ、それに魔王様は……」


「ナツ、喋り過ぎ!」


「げっ! ミコ……」


 また誰か来た! 黒髪のポニーテールに…… 母より巨大なぺぇ、歩くたびにぺぇぺぇしてる。


「ふーん、あなたが勇者ハルね、私はミコ、よろしくね」


 俺を知ってるのか!?


「直接見るのは初めてだけど、知ってるわよ」


 そうか…… 俺ってもしかして有名人?


「家に引きこもってゲームばかりしてる勇者って巷では有名よ」


『ハル…… 私、恥ずかしいわ』


 ヒドい! 俺だって最近は頑張ってるだろ? モンスターだって倒しに行ってるのに!


『うん…… でもゲームしている時間の方が長いわよね?』 


 だってゲームもしたいじゃん! 新作も次々出るのに、消化していかないと追い付かないんだよ!


「ふふっ、勇者って感じはしないけど面白い人、魔王様が一目置くのも分かる気がするわ」


 魔王が俺の事を知ってるの!? マズいだろ、それは。


「だって勇者、配信してるでしょ? こっちでも見てる人がたくさんいるわよ、知らなかった?」


 えぇっ!? じゃあ魔族の視聴者もいるって事か。


「特にオウマさんとブロッサムさんとのコラボは人気あるんじゃないかな? 魔族国内でも結構話題になってるし」


 そういえばリーダーから俺を知って見てくれるようになった視聴者もいるもんな。

 ていうか、リーダーとブロッサムって魔族に人気あるの? 今度聞いてみよう。


「とにかく、そんな有名人がここにいるのは色々と面倒になりそうだから、なるべく早く帰れるようにするわ…… ところでエミ、結果はどうだった?」


「ううん、やっぱりどこにもいなかったよ」


「そう…… こっちでも確認したけど人さらいではなかったし、一体どこに消えたのかしら」


『何の話をしているのかしら? 人さらいって聞こえたけど』


「それは…… うん、この際教えてもいいかもしれないわね、実は人間の村から困っていた人達を救出して一時的にこっちで匿っているんだけど、子供とはぐれた人達がいたらしくて、それで私達がその子供達を探してるんだけど…… 見つからないのよね」


 ちょっと待ってくれ、その匿っている人達って、あのほぼ更地になったあの三つの村の人達か?


「そうよ、実はあの人達、悪い人達に襲撃されて捕まって、人身売買されそうになってたの、その現場を偶然見かけた私達が救出したってわけ」


 人身売買…… そういえばキッチーク村から来たって人達も言ってたな。


「それでとてもじゃないけど村に住める状態じゃなくなってしまったし、空き家をそのまま残しておいたら悪用されるかもしれないからって、必要な物を持ち出した後に建物を全部壊したのよ」


 そうか、それであんな不自然に……


「話を聞くと、三つの村の一部の住人と盗賊が裏で繋がってたらしいんだけど、もしかして子供達を連れていったのは盗賊団かもしれないと思って、色々探るために調べに行ったら盗賊団のアジトが綺麗さっぱり無くなって壊滅状態だったわ…… 昨日アジト付近の偵察に行った時は頻繁に人が出入りしていたのに、こんな短時間で壊滅っておかしいわよね」


 他の村ではそんな大変な事になっていたのか。

 俺達の村には全く情報が入ってこなかったな。


 っていう事は、俺の家に助けを求めに来た奴らの中にも、盗賊と繋がっていた奴がいたのか…… もし俺がそいつらを助けていたら、知らず知らずのうちに盗賊の手助けをしていたかもしれないと思うとゾっとするな。


『四百年前の勇者と魔王、人間と魔族の対立よりも今の時代は複雑で深刻かもしれないわね』


「魔族は魔族で勝手に魔王の名を借りて悪さしている奴らもいるし、お互い大変ね」


 そうだな…… 誰を信じるか、もし信じた人達が悪者だったらどうなるか。


 うん、やっぱり家にいるのが一番だな、難しい事は分からないし、俺が余計な事をするとトラブルの元になるかもしれない。


『結局そうなるの!? 私が旅をして欲しいって言うのは、色々な所を巡って色々見極める力を身に付けて欲しいって意味もあったのに……』


 そうだったのか、うん、行けたら行くわ。


『それ、絶対行かないやつじゃない』


「あははっ、でも今はそれくらいがいいのかもしれないわよ? 魔王様も魔族の小競り合いにはあまり口出ししないようにしているみたいだし、どちらかの味方をするには『魔王』という名前は影響が大き過ぎるって」


『魔王も色々考えてるのね』


 そう! 俺も『勇者』って名前が大き過ぎるからあまり表舞台に出ないように心がけてるんだ!


『ハルは表舞台どころか表にすら出たがらないじゃない、それに、良い言い訳を見つけたって顔をしているから嘘がバレバレよ?』


 そ、そんな事はない! きっと母も分かっていたから俺にそういう教育をしていたんだ。


『ちゃっかりマリーのせいにするんじゃないの! ……そういえばマリー、大丈夫かしら?』


 母? 別に攻撃された訳じゃないから大丈夫じゃない?


『いや…… ハルが突然消えたから、慌ててるんじゃないかって』


 あー……



 ◇



「ひひひっ、まだ村の生き残りが居たぞ」


「しかも美人じゃねーか、これは高く売れるぞ? よし、お前ら一気に捕らえるぞ!」



「ハル…… ちゃん?」


「うわっ、勇者が消えた!? あの女の子もいないぞ!? レオ、どうなってるんだ?」


「分かりません…… でも魔法を使われたのは間違いないですね」


「とにかく勇者を探すぞ! ……マリーさん?」


「ハル…… ちゃん…… ハルちゃんが……」


「お、おい…… 大丈夫か? レオ、マリーさんの目のハイライトが消えてるんだけど」


「いきなり目の前で消えたからショックを受けているんじゃないですかね…… っ!?」


「おい! 誰だ!」


「ひひひっ、お前ら! やれ!」


「ぐっ! な、何だ!? か、身体が痺れて……」


「ま、麻痺毒の吹き矢!? ……うぅっ、僕も…… 身体が……」


「良くやった! さて、こっちも違うタイプの美人だな、さらった村の子供達も高く売れたし、こりゃまた大儲けだ、ひひひっ…… ひっ?」


「うふふふ……」


「なっ!? 麻痺毒をくらって何で動けるんだ!?」


「うふっ、子供をさらって売った? じゃあ、あなた達が私の可愛いハルちゃんを? うふ、うふふふふ……」


「ひ……」


「○○!!」


「ぎゃ……」


「○○!!」


「…………」


「うっ、瞬殺? マリーさん、今、一体、何を……」


「ハルちゃん…… ハルちゃんハルちゃんハルちゃんハルちゃんハルちゃんハルちゃんハルちゃんハルちゃんハルちゃんハルちゃんハルちゃんハルちゃんハルちゃんハルちゃんハルちゃんハルちゃんハルちゃんハルちゃんハルちゃん……」


「ひぃっ! マリーさんが壊れた……」


「ハルちゃんを…… 返せぇぇぇーー!!」


 

 この日、三つの村を襲撃し、村人を誘拐して売りさばいたザアコ盗賊団は謎の光の塊によって、一瞬のうちに壊滅した。



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