青春しているじゃないか

 俺が『魔族の国』にどういうイメージを持っていたかというと、暴力や略奪など日常茶飯事で、奇抜な髪型をした人達がヒャッハーしている…… そんなイメージだった。


 きっと人間側で作られる物語では、魔族がそういう立ち位置なものが多く作られているからだと思う。


 でも実際はそんな事なくて、人間と変わらず穏やかな生活をしていた。


『……ハル?』


 ナツキに匿っている人達がいる場所へと案内してもらっている途中、魔族の人達が生活しているエリアを歩いていて、そう思った。


 ナツキ、エミリア、ミコの三人も、人間と魔族という違いを気にせず仲良さそうに話をしながら歩いている。


 たしかに、実際自分の目で見てみないと分からない事もあるよな。


『ふふっ、ハルがそう感じてくれるだけで嬉しいわ…… うん、ハルだってちょっとずつ成長してるわ、焦る必要なんてないわよね』


 さっきから何を一人でブツブツ言ってるんだ? 



「ここらへんは商店街、あっちに行けば飲食店なんかもあるぞ!」


 へぇー、色んな店があるな。

 売っている賞品は見た事ない物が多いけど、人間側の店に置いてある物と似たようなものもある。


 んっ? あれは…… 『魔王グッズ』?  


「あれは魔王様の公式グッズだよ」


 公式グッズ!? いや、何だよ公式って…… アイドルか?


「魔王様って顔はいつも仮面で隠してるんだけど、中性的でカッコいい雰囲気がして男女ともに人気なんだよ」


 ふーん、たしかにグッズは仮面をしているデフォルメされたキャラクターが描かれた物が多い…… えっ? 店の片隅に『今、話題のコーナー!』と書かれたポップがあり、そこには母のグッズが並べられていた。


「あー、何か今『聖母』が人気らしいよ、見た目とか独特な子育て理論が良いって」


『マリー…… 下手したら勇者より名前が売れてるんじゃない?』


 いや、自慢の母だけどめちゃくちゃ恥ずかしい気持ちになるのは俺だけ? 写真集なんてものも売られてるんだよ? とてもじゃないけど直視できない!


「ねぇ、聖母ってあなたの母親でしょ? 『おはようからおやすみまで愛を捧げる子育て』って具体的にどんな事をしているの? 私も聖母の本を読んでみたんだけど、ぼかして書いてあるから理解出来なかったのよね」


 具体的にって言われてもなぁ……


『ミコちゃんだっけ? 聞かない方がいいわよ』


「でも、いずれ私も子育てするだろうし、人気あるから参考になるかなって思ったんだけど、ねっ? ナツ」


「な、何を言ってるんだよ!」


「むぅ…… わ、私も聞きたいなぁ、ねっ? ナっくん」


「エミリアまで……」


 おっ? 両手に花ですか少年。

 良いねぇ、青春しているじゃないか。


『ハル、おっさんくさいわよ……』


 仕方ない、俺が母の子育てについて知っている事を教えてやろう! まずはだな……


 朝、一緒のベッドで目覚めたら甘やかして、朝ご飯を食べさせながら甘やかして、仕事しながら甘やかして、昼も甘やかして、お昼寝しながら甘やかして、夜も風呂や食事中も甘やかして、一緒のベッドで眠るまで甘やかして…… うん、簡単に言うとこれくらいかな? あとは合間に熱烈なボディタッチを挟んで……


「「「…………」」」


 どうしたんだ? まるで見てはいけないものを見た時のような顔をしているぞ? 


「ね、ねえ、人間界はこれが普通なの?」


「いや、俺は魔族界育ちだから……」


「わ、私のママも娘に甘いって言われてるけど、こんな事しないよぅ……」


 いや、普通だよ、普通。

 母がそう言うから間違いない。


「普通って……」


「こう自信満々で言われると普通に聞こえくるな」


「普通って何なんだろう……」


『ひぃっ! 普通…… いやぁっ!!』


 聖剣、まだ普通にビビってるのか? いい加減慣れろよ、普通に。


『もうやめてぇぇっ!!』


 若干三人との距離が離れたような気はするが、気にせず歩いていると目的地に到着した。


「おーい! ナッツ!」


「マキ、お疲れ」


 今度は黒髪のショートカットのムチムチした女性がナツキに駆け寄ってきた。

 ムチムチなのに腹筋割れてるし、ぺぇもミコほどではないがぺぇだ。


 なるほど、ナツキ…… さてはお前、ハーレム系の主人公的存在だな? やれやれ見せ付けてくれちゃって。


「こいつがエミが間違えて連れてきた勇者か?」


「そ、そう…… えへへっ」


「えへへっ、じゃない! まったくエミは…… 勇者、迷惑かけてすまない」


 いや、うん、まぁ…… 仕方ないと思ってるよ、俺達も怪しい奴だと思って高圧的だったし。


「そう言ってくれると助かる、それじゃあ案内する…… と、その前にミコ、例の件だが」


「行方不明の子供の事?」


「お、おい! それは内密にって話だろ!?」


「もう勇者に話しちゃったから大丈夫よ」


「お前なぁ…… でも、元々は人間側の問題だからな、勇者に解決してもらうのが一番丸く収まりそうだ」


 いや、危ない事は勘弁してくれ、俺はザコだし。


「こいつ本当に勇者か? ……まぁいいや、とりあえず子供達の事だが、どうやら奴隷として売られる前に更にどこかにさらわれたらしい、しかも魔族が絡んでいるって話だ」


「えっ!? じゃあ人間だけの問題じゃなくなったじゃない!」


「そうなんだ、だけどこれがまたややこしくて、人間界に隠れ住んでいる魔族の仕業だと分かったんだ」


 えっ!? 人間界にも魔族が住んでるの?


「こっちにも人間が住んでいるくらいだからな、ただ、人間界に住む魔族は基本、迷惑をかけないように隠れながら住んでいるからなぁ…… 特に今回この事件に関わった魔族の集団は問題を起こすような種族じゃないんだよ、だから不思議でな」


 じゃあ犯人はもう分かってるのか!?


「ああ、人間界のサイハテ村から少し行った山奥に住む、サキュバス族の仕業だって事が分かった」


 サイハテ村って、うちの村じゃないか!! えー? 山…… あっ! いつもモンスターを狩っている森を抜けたら山が見えたはず! あそこか?


『何だか色々と遠くに行ってみたけど、一番の問題が村の近くって…… 複雑な気持ちになるわね』


 でもサキュバスって…… あのサキュバス?


「そうだ、精力を糧に生きている種族だからな、あまり攻撃力はないが、特殊な魔法を使える事が多い…… なっ、エミ?」


「えへへっ、ナッくん……」


「コラッ! ナッツとイチャついてないで話を聞け! ズルいぞ!」


「はわっ! ご、ごめんね? えーっと、サキュバスは攻撃魔法は基本ダメダメだからね、使えたとしても催眠魔法くらいかなぁ…… でも人間界に住むサキュバスって基本落ちこぼれが多いってママが言ってた」


「さすがエミ、サキュバスなだけはあるな! ズルいけど…… ナッツ! あとで覚えておけよ?」


「なんで俺なんだよ……」


「ふふっ、マキだけもズルいわよ、ナツ?」


「仕方ない、じゃあ覚悟しておけよ?」


「ズ、ズルい! マキちゃんとミコちゃんも一緒なら私だって……」


 あの…… イチャイチャはあとで俺がいないところでしてくれないかな? 腹立つから。


 とにかく、そのサキュバス達は危険じゃないんだよな、話し合いすれば分かってくれると思うか?


「う、うん…… 催眠魔法を使えるのはエリートサキュバスだけだから、あと普通のサキュバスで使えるといったら、食事のために夢の中に入る魔法くらいかな? だから話し合いでも大丈夫だとは思うけど……」


 それなら良かった…… って、食事? 夢の中に入る?  何だそれ。


「サキュバスは夢の中でエッチな事をして精力を貰って生きてるのよ、ねっ、エミ?」


「そ、そういうサキュバスもいるけど、みんながみんなしているわけじゃないよ! 誤解されちゃうからやめてよミコちゃん!」


「さぁ、どうかしらね? ナツに聞いてみたら分かる話よね?」


「んっ? そういえば昨日、エミリアが夢の中で……」


「わー! わー! ナっくん、やめてぇぇー!」


『賑やかね、人間と魔族が仲良く暮らして……』


 ああ、賑やかなのはいいけど、またイチャイチャし始めたぞ、こいつら。


 はぁ…… 話は進まないし、帰れないし…… どうしよう。


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