嫌ならあっち行ってろよ

『うぅっ、ハル、そっちに行かない方がいいんじゃない?』


 いや、行かないと進まないだろ?


『今日はもう終わりにしない? ほら、あの怪物を狩りするゲームが見たいわ、そっちにしましょう?』


 クリアするまで耐久する配信にしたから止めないぞ? 嫌ならあっち行ってろよ。


『じゃあ移動させてよ!』


 ふっ…… 無理だ、今は手が離せないんだ。


『ハルの意地悪!! わざと私に見せてるって分かってるんだからね!』


 よく分かったな、ほら視聴者の皆も聖剣の悲鳴を聞いて喜んでるぞ。


『皆、酷いわ…… ひっ! いやぁぁぁぁっ!!』


 おお、ゾンビが飛び出してきた、銃で倒そう…… うっ、聖剣のバカ! 眩しいからピカピカと点滅するな! 目がっ! 目がぁぁっ!


『いやぁぁっ! いやぁぁぁぁー!』


 ははっ、コメント欄に草が生えてる。

 それじゃあ、目がチカチカするけどどんどん進めていくからなー。


 それにしても聖剣なのにホラーゲームが苦手なんておかしいな。

 俺からしたら喋る剣の方がよっぽど怖いけど。


『……ゾンビよりは怖くないでしょ! 聖剣が喋るのは当たり前、聖剣界では常識よ!』


 聖剣界の常識なんて知らんわ、もしかしてピカピカ光るのも常識なのか?


『それは私だけの特別な力ね、ふふふっ、凄いでしょ?』


 はいはい、凄い凄い…… うぉっ!! ゾンビ猫だ! ちょこまか動いて狙いづらい! ナイフで攻撃するか。


『ひぃっ! 猫ちゃんをナイフで攻撃するなんて鬼畜よ!』


 驚かせるような大きな音をさせて出てきたんだけど、ゾンビ猫だったら怖くないんだ…… 基準が分からん。


『うぅぅ…… もういやぁ……』


 これに懲りたら俺にガミガミと説教するのは控えるんだな、がははっ。


『それとこれとは別…… きゃあぁぁっ! デ、デカいのが出てきたわよ!?』


 このマップのボスだな、距離を保ちつつ銃で応戦だ。


「いやぁぁぁん! ハルちゃぁぁん!」


 うぉっ!! ビ、ビビった…… 母、今配信中だから入って来な…… 何で裸なの!?


「ハルちゃん、G……」


 G…… カップ数か? いや、母は愛情たっぷりIカップだと自慢していたような気がしたけど。


「いやん、ママじゃなくて、脱衣場にあのGが!」


 あっ! あれか…… 黒光りした、一部の人に師匠と呼ばれるあのGか! ……よし、出番だ聖剣!!


『い、嫌よ! 気持ち悪いじゃない、私で斬らないでよ!?』


 いくぞ! 勇者の力を思い知れ!


『い、い、いやぁぁぁぁー!!』



 ※このあと、Gは聖剣が丁寧に跡形もなく木っ端微塵に処理致しましたのでご安心下さい。



『はぁっ、はぁっ、はぁっ……』


 聖剣、なかなかやるじゃん!  ビームに近いものが出てたぞ?


『ハルのバカ! 聖剣をG退治に使うなんて前代未聞よ!?』


 ふっ、歴史に名を残す勇者になっちまったな……


『これが歴史に残るなら間違いなく黒歴史よ……』


「あぁん! ハルちゃんカッコ良かったわぁ、ママ、キュンキュンしちゃった」


 ああ、そうですか。

 しかし母よ、抱き着く前に早く服を着てくれ。


『裸のマリーに抱き着かれても平然としてるなんて、本当にどんな育て方したらこうなるの?』


 どんなって…… そりゃ勇者ってくらいだからエリートな教育を受けてきたんじゃないか? 教育は大事だぞ。


『まるで他人事のように話しているわね……』


 とにかくゲームの続きを…… あぁ、コメント欄がまた凄い事になってる。


『ママンw』『俺はゾンビよりGの方がやだな』『えっ、裸? I?』『Iに溢れる家庭だなw』


 母が凸してきたせいで視聴者かざわついている、全部声が乗っちゃったもんなぁ…… まあ仕方ない、続きだ。


『えぇ!? まだやめないの!?』


 やるに決まってんだろ? 俺の配信者としての誇りを舐めるなよ。


『あぁ、もう……』


「ハルちゃぁん……」


 母も居てもいいけど服を着てね? 


 その後なんとかクリアをして配信を終えたが、Gが出た恐怖でなのかは定かではないが一緒に寝て欲しいとせがまれ、母と共に寝た。


 拒否? できるわけないだろ、母だぞ?



 ◇


 なになに? 『人類軍また敗戦、更に領土が奪われる』だと? ふーん。


『ふーん、じゃないわよ! このままじゃ人間側の国がすべて魔族に支配されちゃうわよ!?』


 えっと…… 『前回の負けで奪われた領土を取り返すためにボートレースで勝負し惨敗』だとよ。


『…………』


 んー? 『人類軍副隊長カイヅによると、『四番がきてたら勝てた、魔王軍は何らかの並外れた力を使ったのではないか』との事』 四番、ねぇ……


『……ハ、ハル、今日はどんなゲームをするの? あっ、上手くなってきたし格闘ゲームで対戦もいいかもね!』


 聖剣、都合が悪くなったから話題を変えたな?

 しかしどうしてまたギャンブルで勝負しようとしたんだか、しかも魔王軍が悪い事をしたような言い方して、いるよね、こういう奴。

 そもそも勝手に領土を賭けるなって話だよな。


 でも、魔族に領土を奪われたから大変だって事が今住んでいるであろう人達から外部に伝わって来ないんだよなぁ…… ちょっと調べてみるか。


 ……魔族、支配、奪われた領土、で検索っと。

 んっ? 検索したら一番最初に動画が出てきた、開いてみるか。


『ヒャッハー! 一列に並んでお進み下さーい』


 これは…… 何だ? 新しそうな立派な建物の前に人々が列を作って並んでる。


『爺さん、それを寄越しな!』


『ああ、それは…… この土地に住む為に必要な物…… 返して下さい!』


 魔族の人が爺さんが手に持っていた何かを奪った!


『ヒヒヒっ、こんなものお前たちには必要ない! 俺様が燃やしてやる!』


『ああっ、お止めください! あぁ、それがないとワシが…… 家族が……』 


 爺さんがすがり付いて取り返そうとしているが、魔族の人が奪い取った物を魔法で燃やしてしまった…… 爺さん泣いてるじゃないか! こんな酷い事をするなんて……


『ヒャッハー! この税納付書は無効だ! 新しい役所で手続きすれば今までよりもっと安くなるぞ! ヒヒヒー!』


『あぁぁっ、何ということだ、毎年のように税金か上がってもう駄目だと思っていたのに! ありがとうございます!』


『おっと、ちゃんと列に並んで手続きしろよ、焦らなくても大丈夫だからな、爺さん!』


 …………


 これ、結果的に領土を奪われて良かったんじゃない? 税金がっぽり取って、しまいには土地を担保に賭けをするなんて最悪じゃないか! ねっ? 聖剣さん。


『私ってこの時代に必要だったのかしら? ……あはは、勇者って何のためにいるのかしらね? あはは、あははは』


 やべっ、聖剣から黒いオーラが出ている! ちょっとからかい過ぎたか? 闇堕ちして魔剣になりそうな勢いだ。


 だ、大丈夫だって、いつか必要とされる日が来るから! 


『ハルは旅立たないし、人類軍はクズだし…… もう、どうすればいいのよ』


 あぁっ、刀身が黒くなってきた! ヤバいよヤバいよ! 


「勇者様ー! 我々をお助け下さーい!」


 こんな時に誰だよ! こっちはそれどころじゃないんだよ、ああ、聖剣、諦めるな! 熱くなれよ!


『あはっ、うふふっ…… もうどうでもよくなってきちゃった…… 世界なんて……』


「勇者様ー! 出てきて下さい! 人類の危機なんです!」


 あぁぁっ!! うるさい、うるさいなぁ!! 出ればいいんだろ、出れば!!


「勇者様! ああ、どうか我々に力を…… あれ?」


 それどころじゃないって言ってるだろ? んっ? お前、どっかで見た顔だな? ……あっ! 人類軍副隊長でボートレースで負けた奴だ!


「こんなヒョロヒョロのガキ…… いえ、まだ未成熟な勇者様だったとは、是非我々と共に世界をお救い下さい! 心配しなくても今すぐにではなく、経験を積んでからで大丈夫なので、その際は私自ら稽古をつけてあげますのでご安心を」


 何だコイツ、ヒョロヒョロのガキ? しかも稽古をつけてあげます、だと!? 人をバカにして、しかも上から目線…… 一発ぶん殴ってやりたい!


『ふふふっ、あははっ……』


 おい聖剣! 闇堕ちしてる場合じゃないぞ、出番だ! この悪を滅ぼすために今こそ勇者と聖剣の力を見せる時が来た!!


『あはは…… えっ!? 悪? 出番? ……ああっ、コイツは!』 


 聖剣にまでコイツ呼ばわりされてやんの、ぷぷぷっ。


 ……さて、始めようか。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る