調べるために見てみよう!

 ◇


「はぁっ、はぁっ、ハルちゃん、ハルちゃーん!」


「お、おいレオ、あんな魔法見た事あるか?」


「いえ…… 光の塊がすべてを飲み込んでしまいましたね、しかも誰も死んでませんよ?」


「盗賊の仲間…… なんだよな? こいつら魔力切れで倒れてるだけみたいだな、あの光の塊が魔力を吸い取ったのか?」


「多分…… でも盗賊のアジトで捕まっていた人達は大丈夫そうなんですけどね」


「仕組みが分からない魔法だ…… おい、マリーさん」


 いない…… いない…… ハルちゃんがいない! 私のハルちゃん、どこに行ったの!?


「マリーさん?」


 どうして!? どうしてハルちゃんが…… さっきまで私の腕の中にいたのに! 誰? 私の可愛いハルちゃんを奪ったのは…… うふっ、うふふっ…… 許さない!!


「レオ…… やっぱりおかしくなってるぞ?」


「ど、どうしましょう……」


 ……ハルちゃんを感じない、近くにはいなさそう、でも私に力が残っているということは生きてはいる。


《マリー様》


 ……アナちゃん!? ハルちゃんは!?


《ハル様は現在、転送魔法に巻き込まれて魔族側の国に転送されてしまいました、お姉様からマリー様に無事と伝えるよう言われ、マリー様の中にお邪魔させて頂いております》


 良かったぁ…… それなら早く迎えに行かないと!


《向こうの魔族が転送魔法で帰して下さるみたいなので大丈夫でございます、入れ違いになったら大変でございますから、マリー様は自宅で待つようにとお姉様からの伝言でございます》


 そう、どれくらいで帰って来れるの? 一分後?


《へっ? あ、あの…… 三日ほどかかると……》


 み、三日…… ヤダ、今すぐ迎えに行く!


《マ、マリー様、あなたは『聖母』として知られていますから、魔族界に行かれると色々マズイのではございませんか?》


 関係ないわ! 聖母である前に私はハルちゃんのママなの! 


《……お姉様から更に、マリー様が駄々をこねるようなら、このままハル様を冒険に出すと伝えるよう言われましたが……》


 冒、険……? えっ、それじゃあ更にハルちゃんと離れ離れに…… それなら三日待った方が…… でも三日もハルちゃんと離れるのは寂しい…… どうしよう!


 うぅっ、分かった…… 寂しいけど、待つわ…… ソフィアにそう伝えて。


《かしこまりました》


「あの…… マリー、さん?」


「……帰りましょう、ハルちゃんは一応無事みたい」


「あ、あぁ、良かったな……」


「…………」


「レオ、マリーさんの目が死んでて怖いんだけど」


「は、早く帰りましょうか」


 あぁ、ハルちゃん…… 早く帰ってきてぇ……



 ◇



 んっ? 母の涙が落ちる音? ……気のせいか。


『ありがとうアナ…… ハル? マリーには無事だと伝えたから安心していいわ』


 へっ? どうやって伝えたんだ?


『アナに伝言を頼んだの、マリーには家に帰ってもらったわ、無事だと伝えないとマリーだったらハルを探し回って大変な事になりそうだったからね』


 助かったよ…… 母だったら俺を探すためなら魔族側に喧嘩を売る可能性もあったからなぁ。 


『魔族だけで済めばいいけど、下手したら邪魔をするもの全てに喧嘩を売りそうだからね』


 とりあえず母は一安心だな、さて俺はどうしようかな? 帰るのに三日は待たなきゃいけないからなぁ。


『って、ゲームを起動してるんじゃない! こんな時にもゲームするの!?』


 だってやる事ないし、無駄に出歩いてトラブルになったら嫌だし。


『……それはそうだけど』


 にしても、結構良い宿を用意してくれたな。

 おっ、MPCもあるじゃん…… 誰か配信してるかなぁ? 


 リーダーとブロッサムは夜に配信か、チャッピは明日、えーっと…… んっ? 


〖カイヅ、トゥネッガーのノリ打ち旅〗?


 アイツら、ギャンブルチャンネルを作って動画配信してやがる…… 結構再生数伸びてるな、クズなのに。


 動画のコメントに『クズ同士が罵り合いながらも仲良くギャンブルしている姿が笑える』って書かれてる、やっぱりクズはクズだったんだな。


 他に面白そうなのはないかな? どれどれ…… あっ、これ……


〖実写! サキュバスお姉さんの○舐めASMR〗? サキュバスか、話し合いに行く前にどんな種族なのか調べるために見てみよう! サムネイルがエッチだからとか関係ないからな?


『ハル……』


 おわっ!! な、何だよ!? 何もやましいもんは見てないぞ!? 


『何も言ってないでしょ? 画面を隠して怪しいわね! って、そうじゃなくてね、あの…… アナから、マリーの伝言を預かってるって』


 母の!? 何かあったのか?


『『ハルちゃん愛してる』だって……』


 あぁ…… そう、うん、ありがとう。


『『返事は?』って何度も聞かれて困るだって……』


 ……愛してるって伝えておいて


『『うふふっ、ありがとう、帰って来たら直接言ってね?』だって……』


 ……うん、って言っといて。


『『ハルちゃん寂しい』だって……』


 あぁ! もう! これじゃあ永遠に終わらないぞ!? 


『ちょっと、アナが精神的に疲れてきてるから、なんとかして! 私にずっと語りかけてくるのよ! 私もおかしくなっちゃう!』


 ……待てよ? MPCがあるって事は連絡なら出来るよな? 家のMPCに通話を繋いで……


『ハルちゃん!? 聞こえる?』


 あぁ、母、聞こえるよ。


『あぁん、良かったぁ、ハルちゃん大丈夫? 怪我はない?』


 うん、ただ転送魔法を掛けられただけだから大丈夫。


『そう…… 安心したわぁ…… うふふっ、ハルちゃん』


 何?


『もう! 直接聞きたいなぁー』


 …………


『ハルちゃん』


 うん、母、愛してる。


『うふふーっ、ママも、あ・い・し・て・る!』


 ……あ、ありがとう。


『でねー、お父さん…… 村長ったらヒドいのよ? 『お前はもう少し子離れしろ!』だってー、もう! 失礼よね!』


 うん…… そだねー。


『あっ、あとねー……』


 母、その話は帰ってから聞くから……


『ハルちゃん冷たい、ママ寂しいのに……』


 ゴ、ゴメンね? うん、聞く聞く。


 その後、ことある事に母は通話してきて長話、結局そんな感じで三日間が過ぎた。



 そして俺は魔族国から帰る前に、決めておかないといけなかった事の答えを聞きに、現在魔族国に匿ってもらっている三つの村の住人に会いに来た。


「勇者様、お待ちしておりました」


 住人が合わせて四十人ほど居て、全員に聞くのは大変だからと三人の代表に意見をまとめるよう頼んでおいたのだが、どうなっただろう。


「勇者様、我々はやはり人間国に帰りたいと思っております、一部の者は魔族側に受け入れてもらいたいと残る事を決めましたが……」


 やっぱりみんな帰りたいか…… 聖剣の言った通りだったな。

 ちなみにこの質問を思い付いたのは聖剣、住人に決断するよう促したのも聖剣。


 でも残りたい人も出たんだ…… 

 あっちで魔族の人と仲良さそうに喋っている人達かな?


「ですが勇者様、帰ったとしても住む所が……」


 ああ、それね、俺の住むサイハテ村の村長に相談したら、村の隣にまた新たな生活場所を作ってくれるって。


「おお! ありがとうございます、勇者様!」


 ちなみにこの提案をしたのは俺。

 母と通話している時に何となく思いつきでポロっと言ったのが、いつの間にか村全体で話が進み、受け入れる準備をしているらしい。


 母いわく、村長が孫の成長と優しさに涙を流しながら全面協力すると約束してくれたらしいが、ポロっと言った話がそんな事になるとは思わなかった。


 あと盗賊団が壊滅した、とも言ってたな。

 何があったかは分からないが、また襲われないかと怯えながら生活するって事は無さそうだ。


「何から何まで…… 本当にありがとうございます」


 うん、とりあえず新しい居住区が完成するまではここで世話になって欲しい。


 さて、こんなところかな。

 じゃあそろそろ時間だから行くか。


「おーい! ハル、準備出来たぞ」


 ナツキか、今行く。


「じゃあエミリア、ハルを送り届けてやってくれ」


「う、うん…… それじゃあ準備はいい? むむぅー! えーい! ……へくちっ! あっ……」


 おい! 今、くしゃみしただろ! しかもその後『あっ……』って言わなかったか!? うっ、また、ぽわわぁぁ……











 ……んっ?


 随分と見晴らしの良い所だな。

 あっ、サイハテ村が見える。 


「だ、誰!?」


 女の人の声がしたような、どこから聞こえた?


『ハル! 上よ!』


 上? ……うわぁぁっ!!


 見上げるとそこには……


「怪しい奴よ! みんな…… せーの!」


「「「えーい!!」」」 


 あぁぁぁぁぁーー!! ぽわわぁぁっ……


 背中に羽の生えた、ちょっぴりセクシーな服を着た女の子達が宙に浮いていた……

 


 

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