食べてもいいの?

「それでは行くか、どんな事があるか分からない、気を緩めずに進むぞ」


 はぁーい、村長。


『気を緩めずに、って言ったばかりでしょ? その緩んだ返事は何よ!』


 だってぇ、シャワー浴びたらリラックスしちゃってぇ。


『喋り方もユルユルじゃない…… まったく!』


「うふふっ」


『マリーも気が緩んでるわよ』


「だってぇ、ハルちゃんとシャワー浴びたらリラックスしちゃったんだもーん」


『……似た者親子ね』


 村長やルナが警戒しながら先頭を歩き、俺達はその後ろを付いていく。

 ミミさんはトルセイヌさんの腕に、母は俺の腕にしがみつくようにして歩いている。


 ……ちょっと歩きづらいんだけど。


「えぇ…… ママと一緒はイヤなの?」


 そんな悲しそうな目で見られても歩きづらいものは歩きづらい…… 離れたくないからといって腕に柔らかいものをグイグイ押し付けても…… いや、気にせずこのまま進もう。



 そして次の部屋へと続くと思われる廊下を歩いていると、何だか美味しそうな匂いがしてきた。


「あー、良い匂いです、お腹が空いてきましたー」


 あぁ、食欲をそそる良い匂いだ、俺も腹が減ってきたな。


「扉か…… 敵が居るかもしれない、皆、備えておくんだ」


 もしかして匂いの元はこの部屋から? 食堂かもしれない、早く入ってみよう。


『ハル、食事をしに来た訳じゃないのよ?』


 分かってるよ、万が一おもてなしの可能性も考えてだな……


『魔法で滅茶苦茶に吹っ飛ばされたのにおもてなしする組織ってあると思う? あったらイカれてるわよ』


「心の準備はいいか? ではいくぞ……」


 一体、この部屋の中には何が待っているんだ?




 村長が扉を開けると、部屋の中には長身の男が立っていた。

 部屋の中央には大きなテーブルがあり、多くの種類の料理が並んでいる。

 

「よくここまで辿り着いたな、俺の名はギガント・ホワィタ、大食いで勝負だ!」


 お、大食い勝負…… えっ? この美味しそうな料理、食べてもいいの? 


「ふっ、勝負は一人のみ、誰が俺と戦うんだ?」


 これだけたくさんの料理があって一人!? ケチくさいなぁ。


『毒でも盛られてたらどうするつもりよ! 拳で戦いなさい、拳で!』


 いや、剣が拳とか言っていいの?


「毒を盛るなどするわけがなかろう!! 食に対する冒涜だぞ! 恥を知れ!!」


『えっ、あ、あの…… すいませんでした』


 怒られてやんの、ぷぷっ。


『ちょっと怖いわあの人、いきなり怒鳴るんだもん、目がマジよ?』


 食へのこだわりが強いんだろ? あまり関わりたくないタイプではあるけど。


『食べ方とか食べる順番にも口出しするタイプよ、きっと』


 分かるわー、好きに食べさせろってな。


「何をブツブツ言っている! さぁ、俺の相手は誰だ?」


 腹は減ってるけど大食いは無理かなぁ、俺はパス。


「大食いなら私が行こう、デュフっ」


 トルセイヌさん! ……見た目からして食べそうだもんね、頑張って。


「ダーリン、無茶だ! 今は戦える状態じゃないだろ!?」


「この程度大丈夫だよミミたん、ここで私が戦わないと誰が戦うんだい?」


「でも…… でも……」


 トルセイヌさん怪我でもしているのか? まさか…… げっそりしていたからどこか調子が悪いのかも、大丈夫か?


「ダーリン、さっきあたしの愛情たっぷり弁当を食べたばかりじゃないかーー!!」


 ……はっ?


「あんなにいっぱい食べたのに無茶だ! うぅっ…… あたしが張り切って弁当なんか用意しなけりゃこんな事には……」


 ……えっ? 


「心配しないでミミたん、あんな料理別腹さ、それよりも勝ったらまたミミたんの料理が食べたいな」


「うん! ダーリンのためにいっぱい作るから! ……絶対勝てよな」


「ああ、愛してるよミミたん」


「ダーリン…… 愛してる」


 ……ブチューっとしなくていいから! 大したことじゃないのに大袈裟過ぎる! しかもいつ弁当食ってたんだよ! ピクニックに来てるんじゃないんだぞ! 


「ええい! 早くしろ!」


「ふっ…… それじゃあ始めようか」


「あぁん…… ダーリン、カッコいい……」


 カッコつけたトルセイヌさんにミミさんはメロメロ…… でもこれ、大食い勝負だからね?


「その余裕そうな態度をいつまでしていられるかな? ふははっ! ……聖装!!」


 ぎゃあぁぁっ!! またビキニアーマーがギガントなんちゃらさんに飛んで来た!

 

 うげぇ…… またオッサンがビキニアーマーかよ、食欲失せるわ…… あっ、一応さっきの変態とは色違いなんだぁ、おしゃれだね! とは思わん!



 ◇



「コウ、タローさん……」


「ふっふっふっ、いいぞレーナよ、エネルギーがどんどん貯まっておるわ」


「おいおい、ギガント・ホワィタに大食い勝負挑んでるのかよ、死んだわあいつ」


「さあ、邪魔者を排除するのだ! ギガント・ホワィタ!!」



 ◇




「ぐっ、ぐふっ……」


「やったぁぁー!! 凄いぞダーリン!!」


「ふっ、これもミミたんの応援のおかげだよ…… くっ、さすがに少し無茶しちゃったかな」


 ……えーっと、トルセイヌさんの勝利でいいの? まだたくさん料理が残ってるけど。


「こ、この俺が…… 腹を冷やしたのが敗因か…… チクショウっ!!」


 うん、ビキニアーマーだもんね。

 ちなみにギガントなんちゃら(笑)さんは、一般成人男性の一食分くらい食べた後、トイレに籠ってた。


「さあ、次へ進むぞ! レーナ、無事で居てくれ!」


 うーん、もっと熱い死闘が繰り広げられるかと思ったんだけど…… これなら教会に入る前の方がバトルしてたよな。


『……さっさと行きましょ』


 聖剣、やる気なくなってきただろ? 俺もだ。


「皆さん、私は動けそうにありません、私に構わず先に進んで下さい!」


 トルセイヌさん…… 張り切って食べてたもんな。


「ダーリンを置いてはいけない! あたしも残るから先に行っててくれ、必ず追い付くから!」


 そっかぁ…… うん、じゃあ先行くね? 


 なんだろう、激しい戦いの末に負傷してしまった仲間とその恋人感を出すのやめてもらってもいいですか? ただ食い過ぎただけですよね?


「二人共済まない、我々は先を急ぐぞ!」


「絶対に無事で居て下さいねー!」


 ああ、そのノリに付き合うんだ…… 


「ハルちゃん、あーん」


 母はマイペースだなぁ、んっ! この料理うまっ! もう一口ちょうだい。


『うーん、やっぱりこの時代は平和なのね……』



「ミミたん、あっちに休めそうな部屋があるよ」


「じゃあそこで少し休憩しよう ……あっ、ベッドもあるぞダーリン、ちょっと横になった方がいいんじゃないか? 二時間くらい」


 ……先を急ぐぞー!!



 ◇



「バ、バカな! ギガント・ホワィタが瞬殺だと!?」


「いや…… バカみたいな格好してるから瞬殺したんだろ?」


「クソッ! どいつもこいつも…… 我々も準備するぞ、カイヅ」


「はいはい、分かりましたよ、トゥネッガーさん」



 ◇



「我はホーリー○ット教の四大司祭の一人、天才魔法使いの、針井 法太!! 魔法で勝負だ! 行くぞ、聖装! ……ぷぎゃあっっ!!」


「わぁっ! 魔法勝負に勝っちゃいましたー!!」


 ……ルナ、せっかくだから名乗り終わるまで待ってやれよ、ビキニアーマーを装備する前にやられて『見せられないよ!』状態になってるじゃないか。 


「とにかく早く先に進むぞ、待ってろレーナ、今助けるからな!」


 うん、村長だけだよ、まともなのは。


「ほー、あなたの得意な魔法はカエルさんと魂を入れ替える魔法ですか、私も真似してみたいですー」


 ルナがボロボロになってる敵を無理矢理起こして得意な魔法を聞き出してる……


「ふむふむ…… こうですか? えーい! 」


「ゲゴゴーッ!!」


「やりました、成功ですー! また新しい魔法を覚えちゃいましたー!」


 うん、無邪気って一番怖いかも。

 

「勇者さん、見て下さーい! カエルさんですよー?」


 いや、魂を入れ替える魔法って言ってたよね? じゃあその中身って……


「わわっ! ヌルっとしました! バッチイです」


 あっ、地面にペシッ、っと…… カエルさーん!! あぁ、生きてる、良かったぁ…… こらっルナ! 


「勇者さーん、何してるんですかー? 早く来ないと置いていきますよー?」


 …………


『このパーティーで一番敵に回したくないのってルナじゃない? あの子、自由過ぎてある意味ヤバいわよ』

 

 帰ったらルナを教育する事も考えないといけないんじゃないか? 村長。


『人任せなのね……』


 俺には無理だよ、カエルにされたくないし。


『はぁ…… 次はどんな変な奴が出てくるかしら? 進みたくないわ』


 ああ、同感だ。

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