今起こった事をそのまま話すぜ
◇
俺は大工のギェン、今起こった事をそのまま話すぜ。
まず、ハル坊の家に鎧を装備した軍のお偉いさんらしき奴が訪ねて来た。
ハル坊の家の前で近所迷惑になるくらいの大声で叫んでいるもんだから村の皆がぞろぞろ集まって来て様子見してたんだ。
そしたら機嫌の悪そうなハル坊が黒ずんだ剣を持って出てきた、いつもペチャクチャ喋ってる剣に似ているが、確か白金色だったはずなんだが違う剣だろうか。
それはとりあえず置いといて、鎧の男が何か偉そうに話しているが、こからだと遠くてはっきり聞こえねぇ…… えっ? 近付けば良かったんじゃないかって? いやいや、ハル坊と聖母マリー様はいつも変な奴に絡まれてるからな、関わったら面倒臭そうだろ? 分かるよな? だから遠くで事のなり行きを見守るのが丁度良いんだ、見ている分には面白いからな。
あっ、一つ言っておくが、ハル坊と聖母マリー様は良い人だから村のみんなは仲良くしているぞ? 変人が絡んでいるときだけ知らん顔するだけだ。
そうしている間に話がついたのか、ハル坊と鎧の男は一緒に村の外へと向かって歩き始めた。
俺達も気になるからバレないくらいの絶妙な距離を保ちながら後をつける。
二人の目的地は村から十分くらい歩いた先の平原だったみたいだが、いつの間に地面がこんなに穴だらけのボコボコになったんだ? 十日前くらいに通りかかった時は辺り一面綺麗に平らだったのに。
これは丁度良いとみんなそれぞれ穴に身を隠し様子を伺っていると…… 鎧の男が剣を抜いた! お、おい、まさか、ハル坊とやり合おうってんじゃないよな? そんな事をしたら聖母様が黙っちゃいないぜ? レーナちゃんの二の舞だ、おいおい、加護を授かるわあいつ。
んっ? 稽古をつけてあげるって言ってた? よく聞こえたな、お嬢ちゃん…… えっ、耳をデッカくする魔法? わははっ、そりゃ凄いな! 飴ちゃん食べるか?
おっといけない、何やら始まりそうな雰囲気だ。
心なしかハル坊の剣が点滅するように白黒と光っているような気がする。
鎧の男が剣を構えたが、ハル坊は無防備に立ったまま、おおっ、肉体を美しく見せるような、どことなく自信がありそうな立ち姿だ。
両者睨みあって動かない…… いつ始まるんだ?
あっ、鎧の男が動いた! んっ、鎧の男の周りから黒い影が…… あぁっ! あの男、暗黒騎士か!? しかも死霊やスケルトンまで使うネクロマンサーでもあるのか、ハル坊…… 大丈夫か!?
んっ? えっ? あっ、あれ?
ハル坊の後ろに…… 銀髪の女性? さっきまで誰も居なかった…… よな?
えっ? ハル坊も死霊使いなのか!? いや死霊というより、あの幾多もの修羅場をくぐり抜けた英雄のような佇まい…… まさか英霊!!
あぁっ! 死霊がハル坊に襲いかかった!
へっ、あぁぁっ!?
魔法? そんなもんじゃねぇ、拳だ。
イヤイヤ、ですか?
そんな、あんまりだぁ……
うわっ、鎧の男、滅茶苦茶になるくらいボコボコにされてる……
俺にはさっぱり分からなかったがどうやらハル坊が勝ちという事で決着がついたみたいだ、一方的な戦いだったけどな。
さて、暇潰しにもなったし、帰って仕事でもするか。
そして仕事終わりに酒場で今の話を肴に…… へへっ、飲み過ぎると母ちゃんに怒られるから気を付けないとな!
◇
ふぅ、やれやれ……
俺の目の前で倒れている人類軍副隊長カイヅ、一体何が起こった? 俺にもさっぱり分からないぜ!
『ふぅっ! あー、スッキリした! ハル、悪は滅びたわ! さぁ、帰りましょう』
う、うん……
聖剣の機嫌が直ったようで良かった。
えっ、本当に何が起こったの!? まるで時が止まっていたみたいだ…… よく思い出すんだ。
とりあえずムカついたから一発殴るためにカイヅを連れてこの平原に来た。
そしてカイヅが稽古をつけてやると言って俺の方を向いていきなり剣を構えた。
突然だったからどうしていいか分からずに何となく胸を張りポケットに手を突っ込んで立っていたんだが、そうしているうちにカイヅの周りに黒いモヤが現れ、中からお化けやガイコツが出てきた。
そしたらそれを見た聖剣が騒ぎ始めて……
『きゃあぁぁっ! お、お化け! ガイコツ! ゾンビーーー!!』
いや、ゾンビはいないぞ? うわっ、眩し! 白黒とピカピカ…… ああ、見ていたら具合悪くなっちゃうから目を瞑ろう。
んっ? 風に乗ってフワッと母が使っているシャンプーと同じ香りがした…… ちょっと目を開けて…… んっ、銀髪? あっ、お前はタダ飯食らい! うっ、まだ眩しくて目を開けてられない!
『イヤぁっ!』
聖剣の悲鳴と共にボコっ! って凄い音したよ!? えっ、なになに? 何が起こってるの!?
『お化け、イヤぁぁっ、ガイコツ、イヤぁぁぁっ、イヤ、イヤ、イヤイヤイヤイヤぁっ!!』
へっ!? 聖剣の悲鳴と共に更にボコボコと破裂しそうなくらいの音がする! ひぃぃっ、怖いよぉ!
あっ、音がしなくなった…… もう目を開けてもいいかな? いいよね? 開けちゃうよ、いい? ……ひぇっ!
目を開けると綺麗だった鎧と顔が殴られたかのようにボコボコになったカイヅが目の前で横たわっていた。
『はぁっ、はぁっ…… あら? 何だか凄くスカっとして気分が晴れたわ!』
聖剣? あっ、いつもの白金色に戻ってる!
……うん、今の状況を振り返ってよく思い出してみたけど分からんもんは分からんな!
『ハル、帰ってゲームするんじゃないの? まったくゲームばっかりしてたら立派な勇者になれないわよ! ふふふっ』
えっ、あ、あぁ、帰るか…… カイヅ、このままでも大丈夫かな? まぁいいか、よく知らない奴だし、怪しい人には話しかけちゃいけませんって母に言われてるし。
とにかくカイヅ! よく分からないがザマァみろ! お前がそうなったのは、テメーが俺を怒らせたせいだぞ! ……多分。
◇
「ハルちゃん、怪我はない? どこか痛い所は?」
母、大丈夫だ、問題ない。
「本当に本当? ママが付きっきりで看病してあげるから遠慮しなくてもいいのよ? はい、腕を上げてねー?」
大丈夫だ、問題ない。
「うーん…… きっとハルちゃんはママに心配かけないようやせ我慢してるのね、じゃあ次は足を伸ばして……」
母? 本当に大丈夫だから! 何で服を…… えっ!?
「ママが隅々まで痛い所がないかチェックしてあ・げ・る」
『……マリー? いい加減にしなさい』
「……ちっ」
んんっ!? 母、投げキッスした? まさか舌打ちじゃないよね?
『本当に過保護なんだから』
過保護ってレベルの話か? 服を全部脱がされそうになったんだけど。
『そう思うなら少しは抵抗しなさいよ! されるがまま脱がされてたくせに!』
そんな事言ったってしょうがないじゃないか、抵抗しようにも母が巧みなんだ、なんという事でしょう。
「うふふっ、そんな褒められても」
『褒めてない! まったく、あなた達親子は…… 私が来る前はどうやって生活していたのかしら?』
「えっ、知りたい? どうしよっかなぁー、うふふっ」
『……いや、やっぱり聞くのが怖いからやめておくわ』
どうやって生活してたかって、普通だよ普通。
一緒に起きて、飯食わせてもらって、甘やかされて、お互い仕事をして、飯食わせてもらって、甘やかされて、村の手伝いして、飯食わせてもらって、甘やかされて、一緒に風呂入って、甘やかされて、一緒に寝て…… 普通だろ?
『イヤぁっ! 聞きたくない、聞きたくないぃぃ!』
「あまりにも普通過ぎて聞きたくないみたいね!」
ああ、なるほど、さすが母。
『普通じゃないわ…… これって普通じゃないわよね? あれ? 普通って一体何なのかしら…… 私がおかしいの? ああぁぁっ、頭が痛くなっちゃうぅぅっ!』
あははっ、普通、剣に頭なんてあるのか?
「うふふっ、きっとあるのよ、聖剣界では普通に」
『普通、普通ってやめてぇぇぇ!!』
えぇっ? お前が聞いてきたんだろ? 普通に。
『イヤぁぁぁぁぁっ!!』
その後、何故か聖剣に話しかけてもしばらく無視されるようになった。
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