聖剣を手に入れた勇者は旅立たない ~ゲームや配信が忙しいので家から出ません!~

ぱぴっぷ

第一章 勇者ハルは旅立たない

うるさいなぁ

 四百年前、世界は二分していた。

 人類と魔族、それぞれが領土を争う混沌とした世界。

 

 何故そこまで争うのか? それは人類には勇者が、魔族には魔王が誕生したからだ。


 そして大きな力を持つ者を先頭に立たせる事によって、今までの不平や不満をぶつけ合う内、次第に争いが大きくなって世界を巻き込む事になってしまったから。


 そんな中、勇者は人類のために、魔王は魔族のために、両者は何度も激しくぶつかり合い、多くの犠牲を出しながらも戦い続けた。

 しかし勇者と魔王はこれ以上自国民の犠牲を出さないため協議をし、決着を付ける事となった。


『人魔和平条約』


 お互いの領土を明確に決め、お互いの領土には不干渉とするもの。


 多くの反発は出たものの、勇者と魔王の力よって制圧し、両者が統治する形で終戦を迎える事となった。


 その後、境界での小さな争いはあったものの、特に大きな争いもなく平和が維持され、次第に『勇者』『魔王』など大きな力を持つ者もいなくなった。


 今は大昔にそんな歴史があった程度の認識しか持たないくらい世界は平和になり、人、魔族の交流も少ないながらもするようになっていた。


 そして四百年後の今、世界は再び戦争の危機に瀕している。


 事の発端は魔族側に魔王が誕生した事。


 保たれていたパワーバランスが大きく崩れた事によって、魔族のごく一部が暴走、人類に牙を向いてきた。


 魔王率い人類側の領土を侵略。

 人類側も抵抗したが戦力の差が大き過ぎて食い止められず、少しずつ領土を奪われていった。


 このまま人類は魔族に支配されてしまうのかと絶望していた矢先、人類に希望の光が差した。


『聖剣を手にした勇者が誕生』


 四百年前の遺産、地面に刺さったまま誰にも触れられずにいた持ち主のいない聖剣、それを手にした者が現れたのだ。


 人々は歓喜し、勇者の到来を待つ事に。



 しかし、危機的状況の今、一向に勇者は戦場に現れない。

 勇者が誕生したのは確かなのに。


 もしや勇者はもう討たれたのか、と不安に思った人類の防衛軍は使いを走らせ勇者の動向を調べる事にした。


 そして明らかになったのは……


 勇者がまだ旅立ってない!!

 それどころか家から一歩も出てないというではないか!!


 これではいずれ人類が滅ぼされてしまう。 


 焦った防衛軍はあの手この手を使い、勇者を奮い立たせようとしたが……













「勇者様ー!! 我々をお救い下さーい!!」


 はぁ…… うるさいなぁ…… 何時だと思ってんだよ。


「勇者様! 人類は今、滅亡の危機に立っているんです! お助けを!」


 滅亡の危機? それってあなたの感想ですよね? こっちは忙しいんだよ。


『ハル! 何をしてるの!? 助けを求める声が聞こえないの!? 早く救いに行かなきゃ!』


 じゃあお前が行けばいいだろ、聖剣なんだし、ビームくらい出るだろ。

 それにほら、今救ってるじゃん? はい、救助…… っと、あっ、あっちの建物に敵だ。


『ビームなんて出ないわよ! 聖剣を何だと思ってるのかしら! しかも救ってるって、ゲームの話じゃない! ……あっ、こっちに別パが居るわよ、ほら右の崖の方』


 おお、さすが聖剣。


『ここだと挟み撃ちになる可能性があるから移動した方がいいんじゃない?』


 分かってるって、ほら、リーダーが動いた。


『はぁ…… 飽きもせず毎日ゲームして…… あなた本当に勇者の自覚あるの?』


 勇者? 知らねーよ、変なおっさん達が勝手に言ってるだけで、俺は今、ランクを上げるのに忙しいの! 魔族との争いって言うけど、要はギャンブルに負けて担保にしてた土地を取られただけの話だろ? 馬鹿なのか? 


『……そ、それは、で、でも! 魔王がチートを使ったって話だし!』


 チート? 馬を競争させて順位を予想するのにどんなチートを使うんだよ、しかもその後スロットで出玉勝負もした上で取られてんじゃん、自業自得だ。


『……ああ、先代の勇者様、世界は平和になりすぎて逆に混沌としてます』


 平和なんだからお前も帰れよ、ゲームの邪魔。


『そ、そんな! 私の体を無理矢理触って、乱暴したのに! 私、初めてだったんだからね! 責任取ってよ!』


 誤解されるような言い方するな! ただ豪華に周りを飾られていた剣が気になって、ちょっと振り回してみたかっただけなのに、振り回してたら手からすっぽ抜けて売っていた豚の丸焼きに刺さっただけじゃん、洗ったしいい加減許してくれよ。


『酷いわ! あんな槍のように投げて、体を汚されて、しまいにはいらないから捨てようとするなんて! 酷い! 略してヤリ捨てよ!』


 おぉい!! それは止めろ!! お前の声も配信に乗ってるんだから!

 ほら、コメントで『クズ勇者』とか『ヤリのように捨てるハルちゃん、略してヤリちん』とか書かれてるだろ!!


『ひぅっ…… ぐすっ、酷い…… 酷いわハル……』


 うわぁぁっ! な、泣くな、泣くな!! お前が泣くと光るんだから! 眩しくてゲーム画面が見えない!! 


 ごめんて! もう槍のように捨てないから! あぁ、もう! 銃声!? やべっ、敵に見つかっ…… ああ、見えん!! あぁぁぁぁぁーー!!


『乙』『クズ』『GG、聖剣ちゃん』


 ク、クソ…… 


「勇者様ぁー! 我々に救いをー! 領土をギャンブルで取られたなんてバレたら殺されてしまいますぅー!!」


 うるさいなぁ…… あぁ、うるさいなぁ…… うがぁーー!!


 帰れよ!! この光輝く聖剣が目に入らぬかぁー!! 


「ギャー!! 眩しいぃぃぃぃー!! ひぃぃぃー」


『うぅっ、また汚されちゃった…… あんな小汚ないおじさん達の前であられもない姿を晒して…… もうお嫁にいけない!!』


 うっ、眩し…… 眩しいんだからおっさん達に見えてないし大丈夫だろ、しかもお前、剣なんだからお嫁ってなんだよ…… 鞘か? 鞘に嫁ぐのか?


『鞘に入れるつもり!? 鞘に入れて…… あんな事やこんな事しようだなんて! バカ! エッチ!!』


 さ、鞘に入れるのってエッチなんだ…… 剣事情なんて知らんから、何かごめん。


『はぁっ!? 鞘に入れるのがエッチな訳ないじゃない! 勇者のクセにそんな事も知らないの? ぷぷっ、バカじゃないの?』


 はぁ…… めんどくせ、捨ててこよ。


『ちょ、ちょっと何するつもり!? またヤリ捨てする気じゃ…… きゃあぁぁぁぁ……』


 ……さて、うるさいのもいなくなったしゲームの続きでもするか。


 リーダーからは『ドンマイw』もう一人からは『ウケるwww』ってメッセージがあった。


 『スマン』と返信して…… よし次は勝つぞ!! 


『またヤリ捨てしたわね! 許さないんだから!』


 ……やっぱり戻ってくるのか。

 何、その機能? いらなくない?


『勇者と聖剣よ!? もう私達は勇者と聖剣としてリンクしてるんだから簡単に捨てられるなんて思わないで! あなたが死ぬまでこのリンクは切れないわよ!』


 マジかぁ…… 死ぬのはハードル高過ぎ、緩和措置とかないの?


『あるわけないでしょ! ……あっ、始まったわよ、ハルが降りる地点決める番みたいよ』


 おっと…… 次はちょっと遠い所で降りて良い装備を漁ってから攻めるか。


『…………』


 ゲームが始まると静かだよな、助かるけど。


 他の二人は…… じゃあ俺はあっちの方を漁るか……


『ハル、左の通路の方から足音が』


 ……降りる時、誰もいなかったよな?


 うわっ! 撃たれた…… 避けたと思ったのにダメージが、クソっ、チーターか!?


『……チートなんて卑怯者ね』


 ああ、間違いない…… チーターなんて……


『お仕置きが必要ね』


 気が合うな、俺もそう思ってた。


 

 動き自体は素人に毛が生えたようなもんだから…… 援護頼む!!


『ハル、手りゅう弾は? あったらあの壁に』


 おう!


 指示通りに投げた手りゅう弾は壁に当たり跳ね返ってチーターが隠れている部屋内に入った。


 そして爆発した瞬間三人で突入、チーターは焦って乱射しているが、更に煙を焚いて、今度は三人で時間差で手りゅう弾を投げ退散、すると


 よし、始末した。


『ナイスよ、ハル!』


 せっかく皆、切磋琢磨してゲームを楽しんでいるのに空気が読めない奴は去れ。


 その後、何とか上位には行ったが優勝は出来なかった。


 ただ、配信は盛り上がり、結果的に皆を楽しませる事ができたので、とても満足だ。

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