やだ、カッコいい……

 スロカス二人は無視して先に進むと、大きな祭壇がある部屋へと辿り着いた。


 そして礼拝堂にあった神の像とは種類の違う像があり、その像の中心に……


「レーナ!!」


 像に張り付けられるかのように宙に浮いたレーナが居た。

 身体を布で覆われていて、気を失っているのかぐったりした様子でこちらには気付いていないみたいだ。


「今助けるぞ! ……くっ!! 何だ、この見えない壁のようなものは!!」


 村長が駆け寄ろうとしたら何かに弾かれた…… ヌルヌル相撲の時と同じものがあるのか?


「ほっほっほっ、無駄ですよ」


 ……誰だ!? 


「私はホーリー○ット教、十六代教皇キンマンです」


 豪華な司祭の服に眼鏡をかけ、スラッとしたインテリイケメンって感じの男が突然目の前に現れた。

 今、どこから出てきたんだ?


『転移魔法…… いえ、空間魔法かしら? 珍しい魔法だけど、敵が使うなら厄介ね』


 空間魔法って?


『それこそ今のように何もない空間から現れたり、物を出し入れしたりと使い方によっては便利な魔法なんだけど、とにかく燃費が悪いのが欠点なのよね…… 軽々しく使って大丈夫なのかしら?』


「ほっほっ、さすが聖剣ですね…… でも今の私にはこれくらいの魔力なら何度使っても問題ありませんからね…… レーナのおかげで」


 どういう事だ?


「それはですね…… ふふっ、あなた方を神の元に送る前に教えてあげましょう」


 教皇がレーナの方に向けて手をかざした。

 するとレーナを覆っていた布が外れて……


「見て下さい、レーナの聖魔力によって黄金に輝くビキニアーマーを!」


「何を……」


 レーナが身に付けていたのは黄金のビキニアーマー。

 眩しいくらい輝いていて、何となくだがレーナの身体の周りから出たオーラのようなものが教皇に向けて伸びている。


「さすがはレーナ、腐っても元聖女ですね、レーナの魔力を私に送る事によって無限に空間魔法が使えるようになったんですよ、ほっほっほっ」


「き、貴様!! そんな事を続けているとレーナの命が危ないではないか!」


「だからこその魔力増強するビキニアーマーと神の力を受け取る祭壇です、レーナにはここで一生私の魔力装置になってもらいますよ」


 魔力装置? 人を何だと思ってるんだ!!


「ホーリー○ットの神のために使われるのならホーリー○ット教徒として本望でしょう…… これで神もレーナの裏切りを許し、救済して下さりますよ? ほっほっ」


「そんなバカな事が許される訳なかろう!」


「ホーリー○ットにはホーリー○ットのルールがあるのです、余所者にとやかく言われる筋合いはありません」


「くっ…… そんなふざけた話があるか! レーナがどれだけ苦しい思いをして逃げ出したか知りもしないで…… レーナよ、必ず助け出す! こんなふざけた組織、儂が叩き潰す!!」


 じいちゃん…… やだ、カッコいい……


「あら、お父さんの怒ってる所、久しぶりに見たわぁ…… ああなった時のお父さん…… 凄いわよ、教皇さん?」


「ふふっ、私を倒せるとでも思ってるんでしょうかね…… 身の程を知りなさい!!」


 ……動いた! 


「ほぉぉっ、はぁっ!!」


「ふっ…… はっ!!」


 うっ! おおっ…… あちこちでぶつかり合うような音が聞こえるけど、二人の姿が見えない!


『凄いバトルね…… 集中してないと目で追いきれないわ』


「うふふっ、お父さん本気ね」


「わわぁっ! 村長さん、凄いですー!」


 えっ? みんな、見えてるの!? 俺だけが見えてないのかぁ…… 


『空間魔法で背後に回ったりかく乱してるけど、村長が先読みして防いで反撃してる……』


「お父さんの身体強化魔法、昔よりも精度が上がってるわ」


「村長で実験した、魔力強化と身体回復能力向上の魔法も成功です! やりました!」


 ふむふむ、なるほどなぁ…… 音しか聞こえん、っていうかルナ? 村長で実験しちゃダメって言ったよね?


「ほっほっほっ、なかなかやりますね…… では私ももう一段力を上げましょうか、はぁぁっ!!」


 レーナを包むオーラが更に光り輝き始めた! あぁっ、その光が教皇に吸い取られて…… うわっ!!


「うっ!! ……止めろ! レーナの命が危ない!」


「なぁに、これくらいでは死にはしませんよ、ただ…… 生きているとは言えない状態になるかもしれませんが」


「……貴様!」


 また激しくぶつかり合う音が! ……あ、あれ? ……じいちゃん?


「ぐふっ…… くっ! なんという力だ……」


「お父さんが押されてる……」


『マズイわよ…… 村長、身体中傷だらけじゃない』


「ほっほっほっ…… もう終わりですか?」


「っ、レーナ……」


 じいちゃんがやられてる! クソッ、俺はどうすればいいんだ!? 弱くて助ける事も出来ない……


「村長さん!!」


 えっ? 村長に向かって何かが投げられた…… って、その声はトルセイヌさん!?


「転送装置で仕入れた回復薬です! 飲んで下さい!」


 おおっ! トルセイヌさんの発明した装置で準備していた物か! 


「トルセイヌくん、助かった……」


「村長さーん! 新しい魔法でーす! えいっ!!」


「ルナ…… ぐっ!! うぐぐっ…… うわぁぁっ!!」


 村長の身体が! 筋肉が更に盛り上がって…… 上着が破けた! ……やっぱり七つの傷はないかぁ。


「……ほぉぉう、ぱわぁっ!!」


「くっ!! 何ですか、この凄まじい衝撃波は!」


「…………」


「何を黙って…… ぐはっ!!」


「貴様の中に流れ込む聖魔力を暴走させた、レーナの魔力を取り込むのを止めないと…… いずれ身体が破裂するぞ?」


「ちっ、ちくしょうっ!! ……ふぅ、ふぅ、くぅぅっ! はっ!」


 ああっ! レーナから伸びていたオーラが切れた! 


「うっ…… うぅん……」


 あっ! レーナが気が付いたみたいだ。


「レーナ!!」


「うぅ…… んっ…… コウ、タロー…… さん?」


「レーナ! 大丈夫か!?」


 ぼんやりとした表情で辺りを見渡し、少しずつ状況を理解したのか、レーナの虚ろだった目が見開かれた。


「コウタローさん! ……あれ? わたくし…… いやぁぁっ!!」


「どうしたレーナ!!」


 レーナが酷く慌てた様子で身動いでいる…… 大丈夫か?


「いやっ! コウタローさん! 見ないでぇぇっ!」


 見ないで? 何かあったのか?


「いやぁぁっ、処理が甘くてはみ出てますから、こっち見ないで下さいましぃぃー!!」


「……へっ?」


「いやっ、ビキニアーマーなんて着せて! おま…… Vからブイブイいわせてますわぁぁっ!!」


 ブイブイ…… えっ!? 母、何で目隠しするの?


「ハルちゃんは見ちゃダメ!」


『…………』


 何なの!? 隠されると余計に気になるよ!


「帰ったらママのを好きなだけ見せてあげるから我慢しなさい」


 あっ、はい…… 


「レーナ……」


「いやぁ…… 恥ずかしいですわ…… コウタローさんにこんな姿を見られるなんて……」


 じいちゃんに見られたらマズイもの…… うーん、ヒントが少な過ぎて分からん! 早く帰って答えを教えてもらおう。


「レーナ、大丈夫だ」


「大丈夫じゃないですわ! これでも心は乙女ですのよ!?」


「大丈夫だ…… 儂は好きだから」


「……へっ?」


「それに…… 今更じゃないか」


「あっ……」


 んっ? 恥ずかしいのに、今更? これは迷宮入りだな、たった一つの真実も分からんわ。


「で、でも! ビキニアーマーなんて恥ずかしいじゃありませんか!」


「それも…… 今さらだ」


「そ、そうですわよね…… コウタローさんはもっと恥ずかしい…… ウインブル(修道服の頭巾)を被せたままスク水を着せるのがお好きですものね」


「レーナ!? ぐはぁっ!!」


 じいちゃん、ダメージ受けてる!? あの、ところでスク水って……


「お父さん…… あっ、だから私がまだお父さんの家に住んでいた時、たまに洗濯物にスク水が掛かっていたんだ……」


「ぐはぁーっ!!」


 またダメージ受けてる! どんな攻撃を受けているんだ!?


「いいんですのよ? コウタローさんが喜んでくれるなら、わたくしはなんだってしますわ……」


「なぁ、ダーリン? あたしもスク水着た方がいいか?」


「いや、ミミたん、できれば今度……」


「はぁっ!? ……分かった、楽しみにしとけよ?」


 なになに!? みんな、何の話をしてるのー!? 母、耳も塞いじゃうの?



「お前らー!! 何をふざけた事をごちゃごちゃと……」


 そうだよ! 教皇と戦闘中だろ? ほら、ほっとかれて教皇さん怒っちゃったよ?


「ビキニアーマーこそ至高! ビキニアーマー以外など認められませんよー!!」


 教皇さんまで参戦しちゃったよ……


「そうでしたわよね、夜な夜な娼婦のお姉さんを呼んでビキニアーマーを着させてましたものね? 教皇」


「レ、レーナ、何故それを……」


「神託が来ました…… 『ホーリー○ット教はもうおしまい』と…… 一人だけ聖の乱れた生活をして、何が教皇ですか!」


「ぐはぁっ!!」


 今度は教皇にダメージ! どんなバトルが繰り広げられているんだ?


「ぐっ…… この秘密は外部に漏らす訳にはいかん! 全員始末して…… ぐわぁぁぁぁー!!」


 えぇっ!? 凄い爆発音がしたんですけど! 母、ちょっと手を離して…… 




「ここに伝説のビキニアーマーがあるって聞いて来たんだけど、あったら私にくれないか?」


「ちょっとクレアさん! 乱暴に入ったら駄目って言ったじゃないですか!」


 教会の壁が破壊されて、外から謎の人物が二人入ってきた。


 そして壁が爆発によって壊されたはずみで、反対側の壁を突き破り外に飛ばされてしまった教皇……


 バイバイ、キンマンさん。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る