13 罪ほろぼし
寒さが和らいだ、その時だ。
よどりんが口を開いた。
「おい、かずりん。ミラクルキック、やるぞ」
「……え?」
「あたしを、あいつの腹に蹴りこめ」
「はあっ⁉」
「こいつを蹴り飛ばせるのは今しかねえんだよ。体勢を立て直した後じゃ、もう無理だ」
「けど、そんなことしたら」
「いいんだよ」
ニヤリと笑った。
「この国には悪人がたくさんいる。けどな、ここの悪人どもは誰一人、人を殺したことはねえんだ。……あたし以外にはな」
その場が沈黙に包まれた。
「どういうことだよ」
「シモヒガシヨシヲ四世を殺したのは、このあたしだ」
「え?」
今まで「ヨドカワは大悪党だ」という話は聞いたことがある。けれど、誰一人としてヨドカワの本当の罪を知る者はいなかったのだ。
「あいつの悪政が気に入らなくてよお。まさか、こいつの襲撃に備えて汚い手を使って金を集めてるなんざ、知りもしなかった。襲撃の周期が早まってることに相当焦ってたんだろうな。あたしは、そんなこたあ知らなかった。で、全財産盗み取られて頭に来た。けどよ、そのせいで、シモヒガシヨシヲ四世がため込んだ金を使えずにグチグチ言ってたツキモリの思うつぼになっちまった」
「おだまり!」
ツキモリはじろりとよどりんをにらんだ。
「あたくしもつきあって差し上げるわ。それでもうこのことはチャラ」
「はあっ⁉」
「なんでだよ! なんでツキモリまで」
みかりんが叫ぶのへ、
「だって仕方ないじゃない。……やりたくなくたって、やらなきゃいけないことは、やらなきゃいけないのよ」
「でも……」
「早く! 今のうちに!」
「火が付きやすいように、たーっぷりスキンケアもしたしな。で、ぶんりん」
「な、なんだよ」
「おまえも、頼んだぞ」
よどりんは楽しそうに笑った。
―くっそお。こんなところでやられてたまる……か……!
城の砲台から飛んでくる大砲が頬をかすった。
―なめやがって。
ふらふらと立ち上がろうとした。その足に、大砲の弾が当たった。
「かずりん! 早く!」
かずりんは、両目に浮いた涙を腕でぬぐった。ぶんりんも立ち上がり、ずっ、と、洟をすすり上げお尻を突き出した。
あきこが口を開いた。
「がんばれ」
ちゃちゃちゃ。
「イケイケ」
ちゃちゃちゃ。
「勝てるぞ」
ちゃちゃちゃ。
「今だ、カズー、よどりん、ぶんりん、ツキモリ!」
チアリーダーあきこの涙のにじんだ声が響き終わった。
よどりんが口を開いた。
「ミラクル・ミラクルよどりんりん」
よどりんの体がまばゆく光った。そして。
ぼこっ。ぼこ、ぼこっ。
全身の毛穴からエリンギが生えた。
―させるか!
「早く!」
ツキモリが炎を出すが、全て溶かすほどまで行かない。
「ミラクル・ミラクルかずりんりん」
かずりんが両手を開くとわかめが飛び出してきて片手のわかめがよどりんの体を、もう片方のわかめがツキモリをくるんだ。
両手を合わすとわかめがからまり、二つの塊が一つになった。
手につながった部分をを切り離し、宙に放り上げる。
「よどりん、ぶんりん、かずりんミラクルキック!」
かずりんが飛び上がり、空中で二回転し、体をひねったところでその右足が、わかめ巻きよどりんとツキモリの体を蹴った。
―おまえらごときに、わたしが倒せるとでも思うのか!
「ミラクル・ミラクル・ぶんりんりん!」
ぶうううううううっ!
ぶんりんのおならがよどりんを包んだときだった。
ぼわっ。
わかめの塊が内側から大きく燃え上がった。
―な、なにを。
よどりんとツキモリの塊が、
それが、
どうん。
そしてそのまま、ひとつの塊となって北の空へ消えた。
最後に大きくきらりと光ったのは気のせいだろうか。
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