6 ンダカップと皇帝ガミ

 がらがらがら。


 その頃、城の地下室ではゾンビたちが急ピッチで大八車を運び入れていた。どの車にも大量に珍しい果物や野菜が積まれている。


「急げ! 急げ!」


 いつになく焦りをにじませたンダカップの声が飛ぶ。


「イノシシどもがゾンビウォールを破ったぞ!」


 自分もゾンビと一緒に大八車を押す。


「焦るな兄弟。あと十で終わりだ」


 その声にハッとして振り返る。入口にたたずむのは皇帝ガミ。


「兄さん、なんでこんなところにいるんだ? あんたは砲台に戻って……」


 すると皇帝ガミは、まとっていたガウンと王冠を投げ捨てた。


「もう、こんな茶番は終わりだ! あー、辛かった。……それはあっちだ」


 入ってくるゾンビに指示をする。


「もともと偽りの皇帝だ。イケメンガムが自分一人で金を独占しようとするだろう、って言って、無理やり作ったポジションだぜ。あんな振りさせられて。訳もわかんないのに玉座に座らされる俺の身にもなってみろよ。鼻くそほじって飛ばすぐらいしかやることねえだろ」


 がっはっは、と笑った。ンダカップは呆れたように小さく首を振り、


「まあたしかに。あの姿を見たとき、『わたしがやればよかった』と、何度思ったことか」

「だからニワは最初、おまえに話を持ってきたんだろ? なのにおまえはニワと関係を持ちたいがために俺にその役を押し付けやがって」

「残念だが、それはかなわなかったよ」


 ンダカップは笑った。


「いいところまでは行ったのに、結局おあずけくらったままこのザマだ」

「この襲撃が終わればまた元のさやに戻るんじゃねえか?」


 ガミは最後の大八車を押しこんだ後、鉄鋼製の分厚い扉を押した。ンダカップも駆け寄り、ふたりで押す。

 扉がゆっくりと締まり始めた。


「あの調子じゃこのままだ。あの女は見た目以上に身持ちが硬い。……好きな男がいるんだろ」

「なるほどな」


 ガミは小さく頷いた。


「せーので押すぞ」

「ああ」


 ガミの号令と共にふたりが同時に扉を押すと、ガチャン、と音を立てて扉が閉まった。上と下、内側から鍵をかける。


 こめかみに滲んだ汗を拭き、ンダカップは切ないため息をついた。それに気づいたガミが小さく笑う。


「仕方ねえな。今回ばかりは諦めろ」

「なんてことだ。ミイラ取りがミイラになるなんて」

「全部終わったら、酒でも飲むぞ。俺がつきあってやる」


 ンダカップは重いため息をついた。


「今はその時でさえ待ち遠しい」


 ガミも黙って頷いた。


 ドドドドド。


 イノシシたちの蹄の音が、この堅牢な城の地下にまで響いた。


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