5 ユーディの真実
「まさか自分がこんなところに立てるとは思ってもみなかったが、できればこんな状況じゃなきゃもっとうれしいのにな」
意地悪くぶんりんが笑った。
今、ぶんりんがいるのは城の砲台。ニワが演説を行ったその場所だ。
「あら、こんな時じゃなきゃ、あたしたちごときがこんなところに立てるわけないじゃない」
チアリーダーあきこが呆れたように返す。
「しかし、ほんといい眺めですこと。権力者がその力にいつまでもしがみつきたくなる気持ちがわかりますわね」
プロボウラーははこも、皮肉に笑った。となりに立つニワはそんな話にも表情一つ動かさず、険しい表情で城壁を見つめている。
宮廷の庭には兵隊が銃を構えて立ち、眼下に広がるのは、閑散とした街。人気のなくなった街はすでに、死んでしまったようにも見える。
「なんか、気味が悪いな」
かずりんがつぶやくように言った。
「これくらいでビビってたら、あとが持たないにゃ」
シマニャンは目を細めた。
「実際に
「どういうことだよ」
ぶんりんが驚きを隠せないように返すと、今まで黙りこくっていたよどりんが答えた。
「あいつら貪り食うのは人や果物、穀物だけじゃない。なぎ倒した壁も、家も煉瓦も、何もかも食い尽くす。残るのは荒れ果てた大地のみ」
「そんなら、なんでわざわざこんなところまでやってくるんだよ!」
かずりんが怒りを隠せないように頬を震わせた。
「自分たちのところで、岩とか砂とか食ってりゃいいだろ!」
「そうやって数百年過ごした後……イノシシの数が増えすぎてどうにもできなくなった後、こうやって新たな食糧を求めてここに来る。そうなんだろ、シマニャン」
かずりんは疑いのまなざしをシマニャンに向けたが、シマニャンは黙って頷くだけだった。
「そんなの不公平じゃないか」
ユーディも声を上げた。
「なんでこの国だけが狙われるんだ! 確かに遠いけど、ほかの国はもっと温かいし豊かだ!」
「そこにゃ」
シマニャンは笑った。
「ここが、あいつらが下って来れる最南端。これ以上南に行けばやつらは暑くて死んでしまうにゃ」
「そんな……!」
「昔はここも、もっと大きな国だった。
「だったら、あたしたちがここを守り抜くしかないじゃない」
チアリーダーあきこが明るい声を上げた。となりにいたプロボウラーははこも、
「わたくしも、父からその話を聞いてからずっとそのためにボウリングの腕を磨いてまいりましたのよ」
美しく笑った。そして、厳しい視線で城壁を見る。
「ユーディ」
今まで黙りこくっていたニワがその口を開いた。
「お前は今すぐ、政務室へ行け」
ユーディの表情が強張った。
「……どういうことですか、それは」
「あそこだけは、ここよりもずっと頑強に建てられている。この城が崩れ落ちても、決して崩れない」
「わたしだけ隠れているとおっしゃるのですか」
「おまえは、シモヒガシヨシヲ四世の子供。正当な王の血筋を継ぐ者ではないか」
「……えっ」
かずりんが詰まったような声を上げた。
「う、うそだろ……」
ぶんりんも声を上げた。ニワが小さく首を横に振った。
「シモヒガシヨシヲ四世が亡くなった時、貴族どもは全員女王ツキモリを倣い、歴代のシモヒガシヨシヲたちが必死になって集めていた汚い金を自分たちのために使い始めた。その手に染まっていなかったのは、ユーディ、おまえだけだったのだ。そして、この国の歴史、この内情をこの国で一番よく知るのもお前しかいない。そのために今まで散々、汚い金の集め方を見せて来てやったのではないか」
「あれは、すべてわたしのためだったと……!」
「だからこそ、今までお前を隠して育て上げて来たにゃ」
シマニャンも真顔でうなずいた。
「そんな……!」
そのとき、プロボウラーははこが声を上げた。
「壁が崩れましたわ!」
アサリーが築いていたゾンビの壁の一部が内側に倒れた。一気に、イノシシたちが黒い波のようになだれ込んでくる。
「行け、ユーディ!」
ニワが厳しい声で言い放った。
「行きますよ」
ユーディは返した。
「でもそれは、もう少し後」
「何を言っている! お前が生き残れなかったらこの国の歴史は……」
「わたしが政務室にこもるのは、皆の最期を見届けた後!」
強い視線でニワを見つめ返す。
「それまでは……一緒に戦います」
そのいつになく気迫のこもった瞳に、ニワは表情を緩めた。
「……おまえは、いつの間にそんなに強くなったのだ」
「あなたがたが今、その姿を見せてくれているからですよ」
イノシシたちの速度が落ちた。
街路樹、建物、店に残された食べ物。
そんなものを食い漁っている。
「あいつらがすべてを食べつくして、国民の姿を探し当てる前に追いはらうのだ」
ニワが号令をかけた。
下にいる兵士たちが銃を構えた。
シマニャンが持っていた杖を天に向かって持ち上げた。
「魔法少女たち、我らが出番にゃ!」
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