8 ユーディ……それでええんか……

「みっくすふらいていしょく……」


 ユーディに伸ばしていた手を止め、三人まとめてつかもうとするように反対側の手を近づけて来た。

 よどりんが言った。


「ミラクル・キックだ」


 ぶんりんもうなずいた。


「あたしを顔面に飛ばして」


 三人は顔を見合わせてうなずいた。


「ミラクル・ミラクル・かずりんりん!」


 かずりんが呪文を唱えると、その両手からわかめがとびだして、ふたりの魔法少女をぐるぐる巻きにした。


「よどりん・かずりん・ミラクルキック!」


 かずりんが渾身の一撃を放った。


「なんでやねーーーーーん」


 いつものように「わかめ巻きよどりん」が叫びながら宙を舞った。そのよどりんボールがジャイアント・タカヒト氏の腹に食い込んだ。


「ぐえええええええっ」


 ジャイアント・タカヒト氏が奇妙な声を上げた。わずかに体を「く」の字に曲げた。その隙に、


「ぶんりん・かずりん・ミラクルキック!」


 かずりんがもう一度足を振り上げた。「わかめ巻きぶんりん」は、


「めっちゃこわいやーーーーーん」


 と言いながら、ジャイアント・タカヒト氏の顔面へと飛んだ。

 かずりんとユーディは息を飲んでその様子を見つめた。


 どごっ。


 ぶんりんがジャイアント・タカヒト氏の顔面に食い込んだ時だった。


 ぷうっ。


 その強烈な臭いが、ユーディとかずりんのところまで届いた。


「お、おえっ」

「く、くさすぎる……」


 二人は身もだえしながら倒れた。


 どうん。


 ものすごい地響きがした。あまりの臭さに涙で曇ってよく見えない目をこらす。どうやらジャイアント・タカヒト氏が建ち並ぶ家の上にひっくり返ったようだった。その大きな体の下で、数十件の家々が潰れていた。


「戻ってこい!」


 かずりんは両手のわかめを思い切り引いた。「わかめ巻きよどりん」と「わかめ巻きぶんりん」が戻ってきた。わかめから解放され、ジャイアント・タカヒト氏の様子を見る。


「さすがだよ、君たち」


 ユーディがはずんだ声をあげながら立ち上がった。けれどもかずりんは訝しむように首を傾げた。ジャイアント・タカヒト氏は近くの住宅地の上に手をついた。もう片方の手を別の住宅地の上につく。


 その様子を見たよどりんが言った。


「なんかあいつ、おかしくないか?」

「……え?」


 声を上げたのはユーディだった。


「な、なんだよ、おかしいって」

「さっきの倒れ方、不自然だったよな」


 よどりんは食い気味にさえぎった。するとかずりんも目を見開いた。


「そうだよな! 最初は俺たちの方を向いてた。俺は、あいつが公園の上に倒れるように狙ってよどりんを蹴ったんだぜ。なのに、あいつが倒れたのは金持ちの家があるところ」

「そ、そうかな? き、気のせいだと思うけど」


 ユーディはキラキラと笑いながら、笑顔が引きつるのをどうすることもできなかった。すると示し合わせたように、


「みっくすふらいていしょくぅぅぅぅ」


 という咆哮が上がる。

 ジャイアント・タカヒト氏はゆっくり立ち上がると、そして、何かを探しているように下を見た。足を上げ、大きなビルを上から踏みつけた。そして今度は別のビルを。


「……ほら、あいつ。大きなビルを選んで潰してるぜ」


 ぶんりんが歪んだ笑みを浮かべた。

 三人の冷めた視線がユーディに向かった。ユーディは引きつった笑みで、


「や、やだなあ。君たち勘繰りすぎ。相手はジャイアント・タカヒト氏だよ。何か考えて破壊してるとか、壊れても建て直す財力のある大きい家だけ選んで潰してるとか、そんなわけないじゃないか」

「なるほど。貧乏人は家がつぶれても建て替える金がねえから、政府が払ってやんないといけねえからな」


 よどりんが笑った。ぶんりんもしたり顔で、


「ということは、あの巨人をここに向かわせているのはアオイ。そのアオイに金を払って計画を指示したのは役人」

「ま、まさかそんな」


 ユーディはさらにわざとらしい声を上げた。今度はかずりんが続けた。


「悪徳農家イケメンガムは地下室の入場料でぼろ儲け」

「で、あいつの仲間の建設会社社長、情熱のフクヤマンは壊れた家を再建するんでぼろ儲け」


 ぶんりんがユーディの顔をのぞきこんだ。


「ニワはンダカップのヒモだが、前回、ガムをひどい目にあわせたんで、ガムのヒモである皇帝ガミコーの顔色を窺って、今回の金もうけは見ない振りを決め込んでる。シマニャンは情熱のフクヤマンのヒモだな? で、おまえはアサリーのヒモ。……アサリーはこれでどんな得をするんだ?」

「き、君たちは何を言うんだ。わたしたちは関係ない!」

「関係ねえわけねえだろ。無関係だったらこんなところにのこのこ来るわけねえんだから」

「し、知らないよ! そ、そもそも、君たちは何を言ってるんだ! そんなでたらめを……!」


 ユーディが必死になって言い訳しようとした時だった。

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