7 こだわるのはそこ?

「……それで、ツキモリはまだ生きているのか」


 ニワは宰相室の窓から外を眺めた。


「残念ですが、仕方ないかと」


 ユーディは少し顔を傾けて笑って見せた。後ろのカウンターに行って、デキャンタから二人分ワインを注いで、ニワのもとに戻った。

 一つを渡してから、


「失望しましたか?」


 すがるようなまなざしで見つめる。ユーディは、ニワがこのまなざしに弱いのを知っていた。ほんのり顔を赤らめそらすのを確かめ、


「次こそは、必ず」


(程よく焼けた巨大マツタケをわがものにするのだ)


 と、グラスを上げた。


「うむ」


 黙りこむニワの横顔を見て、背中を向けた。


 ―すべて、おまえのためだったのに。


 母の言葉がいつまでも脳裏に残っていた。その色濃く深い味わいのワインを見つめた。

 このワインはうまい。どうだ、この色、この香り。

 この土地に流れた血の色にも見えないか。

 ゆっくりとその一口を舌の上で転がす。

 すべてが俺のためだって? 本当に腐敗してるのは貴族だって? そんなことを知らないわたしだとでも思っているのか?


 もちろん、その元凶がニワだというのもとっくに気づいているよ。


 ペテン師め。


 一人ほくそ笑む。


 全部知ってて、あなたを追放した。全部知ってて、こうやってニワのそばにいる。けれどね。


 次は絶対、マツタケを渡しはしない。あんな上物、今度いつ手に入るかわからないのだから。


 こちらには賢者シマニャンがいる。シマニャンの作り出す最高傑作、エリンギ魔法少女よどりん。金次第でどっちにでも転ぶバナナ魔法少女みかりん。

 彼女たちを侮ってはいけませんよ。


「ユーディ」


 後ろに感じるニワの気配に全神経を集中した。


 もう少し。

 もう少しでこの女は堕ちる。堕ちてしまえばおれの言いなりだ。ごたごた言うなら捨ててしまえばいい。


 そしておれは王になる。

 この国の金と権力、そして巨大マツタケをすべて、わたしが一人で独占するんだ。


 ユーディは自分のためにワインをあおった。




                                  おわり

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