わかめ魔法少女かずりん

1 アンズタケ

「にゃに? アンズタケ?」

「毎年この時期になるとこの松林に生えるんだ。オレンジ色をしたとてもおいしいきのこでね。ぜひ宰相に食べていただこうと思って」


 シマニャンとユーディは元王室の管理していたきのこの森に来ていた。ユーディは片手に小さな籠をぶら下げている。そんなすがたさえ、この昼間でも薄暗い森の中でキラキラと異彩を放っていた。


「ずいぶんご執心なことだにゃ」


 シマニャンはそのフードの下から鋭い視線を向けた。


「あいつはおまえごときがそう簡単に落とせるタマじゃないにゃ。それより見るにゃ」


 細い木の根元に座りこんだ。そこには見覚えのある太いきのこがいくつも顔を出していた。


「エリンギじゃないか」

「今までのとは訳が違うにゃ。もうよどりんの頭に別のキノコの胞子を振りかけなくてもコイツを持って呪文を唱えるだけでポニーテールがエノキダケに変わる」


 ユーディは軽く肩をすくめ、キラキラと笑った。


「わたしの手間が一つ省けるということだね」

「誰彼かまわずその顔でほほ笑むにゃっ! 虫唾が走るわ」


 シマニャンがユーディに歯を向けた。


「相変わらず失敬だなあ」


 ユーディはさりげなくそのサラついた髪をかきあげた。白い歯がきらりと光り、その美しさが際立った。シマニャンはわざとらしく身震いをして、


「おまえの手間が省けるのではにゃい。シマニャンの手間が省けるにゃ。おまえの仕事はよどりんにきのこを手渡すことだけじゃにゃいか」

「ポニーテールも結んでるよ」

「ドヤるにゃ!」


 その一番太い一本を根元から切って、ローブの袖に隠した。


「ところで、大男ヨドカワは一体どんな罪を犯して牢に入れられてるんだい?」

「なぜそのことを聞く」

「ほら、彼、悪者にしてはなんかズレてるっていうか。よどりんに変身した後も弱っちいっていうか。この間のツキモリとの戦いでも、何となく要領が悪かったし」

「ちゃんと消火活動はしたにゃ」

「でもさ、やっつけたのはみかりんで、あのままだったら大量の焼きエリンギができただけだったかな、って」


 するとシマニャンは「ううむ」とうなった。


「実はそこなんだが……シマニャンも同じことを思って、あちこちに聞いて回ったんだが……誰もなんで大男ヨドカワが牢に入れられたか知らぬのだ」

「え?」


 ユーディもさすがに耳を疑った。


「なんでかわからないけど、牢屋にいるってこと?」

「しかしみんなが極悪人だというのだから、そうに違いにゃい」


 シマニャンは深くうなずいた。ユーディもわずかに首を傾げた。


「なんか、気の毒じゃないか?」

「しかしみんながあいつは悪人だ、大悪党だというのだから間違いにゃいのだ」


 自信たっぷりに言うので、ユーディもなんとなく、ヨドカワが極悪人のような気がしてきた。


「まあ、みんながそう言うなら……」

「本人もそう言ってるらしいにゃ」

「だったらそうだね」

「大悪党にゃ」

「うん。ほんとに悪いやつだね」


 そう言って、少し暗い松林の方へと向かった。




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