10 今日もやっぱり黒かった
「いいいいいいっ、痛いじゃないの!」
ツキモリは粗末なベッドにうつぶせに横たわったまま声を上げた。
「ぎっくり腰なのに無理するあんたが悪いんだろ。挙句の果てには飛ばされちまうしさ」
みかりんが温めたバナナの皮をツキモリのドレスの上から当てた。
「そのおかげであなたもたんまり分け前をもらうんだから、文句言うんじゃないわよ!」
ツキモリがちらりと視線を向けた先には、小さな木の椅子に足を組んで座るスズメの姿があった。
そしてそのそばにある粗末な木製のテーブルの上には金貨が詰まった小さな袋が三つ。
「しっかし、ほんとにあいつら腐ってんな」
みかりんが苦笑いでツキモリの視線を追った。
「これからもその調子で入場料で儲けたいなら、街の建物を壊してやる。見返りに、その入場料の一割、家の施工費の一割、レンタルゾンビの一割をだせ……なんていうツキモリの無謀なオファーにほいほい乗ってくるんだから」
「しかも、税金で修復できる『城』を狙え、だなんて」
ツキモリはおかしくてたまらない、という風に、もう一度「おーほほほほほ」と笑った。
ぐぎっ。
「あああああっ!」
あまりの痛みにベッドに突っ伏した。
スズメはそれを見て、無表情のまま、袋の一つをつかんで立ち上がった。
「残りはすべての修復が終わった後に払う、ということだ」
「おい」
行こうとしたスズメにみかりんが鋭い声をあげた。けれどもスズメは振り返りもしない。
「それはちょっと取りすぎなんじゃねえか?」
「いいんだよ」
それを止めたのはツキモリだった。
「ぶんりんの朝食にだけ惚れ薬入りのバナナを用意したのはスズメよ」
「いつの間に……」
「わたしは、言われた仕事はすべてやるのだ」
スズメが立ち去ろうとした時だ。
「最後に確認させてちょうだい」
ツキモリが低い声でスズメを止めた。
「なんだ?」
「アオイは元気なの?」
「あの方は今、背中の神経を痛めて臥せっておられる」
みかりんとツキモリは顔を見合わせた。
「あのアオイが……」
「十五分以上座ることもできない」
「なんと……」
スズメはようやく振り返り、冷たい視線で二人を見た。
「何が言いたい」
「このことはアオイには言っていないだろうね?」
スズメは、ふっ、と、冷たい笑顔を見せた。
「何もかもあの方にお伝えする義理はない……この仕事を請け負う前に、そう、言わなかったか?」
その、地の底から響いてくるような冷たい響きに、ツキモリとみかりんは押し黙った
スズメはそのままツキモリの住む小さな小屋を後にしたのだった。
「チアリーダーあきこ」終わり
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