9 ニワ、色々すごかった

 ガラガラガラっ、という激しい音がして、城の上半分が壊れた。


「宰相!」


 執務室に駆け込んだユーディはその場に立ち尽くしているニワに飛びつき、落ちてくる瓦礫をよけて転がった。二人の後ろで、瓦礫が床に激突した。


「逃げましょう!」

「どこに逃げるというのだ」


 ユーディは城の南半分を示した。


「あちらの方には強力な防火壁が張られています」

「わたしは……ここを離れるわけにはいかぬのだ!」

「しかし!」

「これはわたしの仕事なのだ!」


 ニワはユーディの体の下から這い出ると、自分の足で立ち上がった。


「ニワ!」


 その姿を見つけたツキモリは、バナナに這いつくばったまま、意地の悪い笑顔でニワを見た。


「ここで会ったが百年目。あたくしを追い出した罰を受けるがいい!」


 そして、後ろからかけこんできた三人の魔法少女にその鋭いまなざしを向けた。


「よどりん、かずりん、ぶんりん! この女を、とっちめて森へ飛ばしておしまい!」


 そして、チアリーダーあきこに顔を向けた。


「応援!」

「任せといて!」


 チアリーダーあきこは巨大バナナから、壁が崩れ落ちたその床に飛び降りた。


「がんばれ」

 ちゃちゃちゃ。

「イケイケ」

 ちゃちゃちゃ。

「勝てるぞ」

 ちゃちゃちゃ。

「行け、よどりん!」


 ポンポンを持ったままの片手をよどりんの方に突き出した。


「合点よ❤」


 よどりんはとっさにエリンギを高く掲げた。


「ミラクル・ミラクル・よどりんりん!」


 エリンギから大量の胞子が飛び出し、大きなエリンギになってニワを襲った。ニワは華麗な動きでエリンギをよけ、時に飛び上がり、宙を舞った。


「宰相……かっこいい……」


 瓦礫の陰に一人隠れているユーディも思わず感嘆の声を上げた。飛んできたエリンギに、たん、と足をつけ、飛び上がったかと思うと空中でくるくると回転した後、


「ニワキック!」


 オーバーヘッドキックで飛んできた巨大エリンギを蹴り返した。


「す、すげえ!」


 思わずかずりんもその技に言葉を失う。その目の前を巨大エリンギが通過し、


 どごっ。


 よどりんの顔に当たった。


「な、なんで……」


 よどりんがその場にひっくり返った。


「よどりん!」


 かずりんは、キッ、と、ニワをにらんだ。


「サッカーでは、あたしは誰にも負けやしねえ!」


 そこでまたチアリーダーあきこが声を張り上げた。


「がんばれ」

 ちゃちゃちゃ。

「イケイケ」

 ちゃちゃちゃ。

「勝てるぞ」

 ちゃちゃちゃ。

「今だ、カズー!」


 チアリーダーあきこの声が響き終わると、


「ミラクル・ミラクル・かずりんりん!」


 落ちていた巨大エリンギを見事な足さばきでニワに蹴った。けれどもニワは、


「おまえごとににわたしがたおせるかああああっ!」


 ゴールキーパーの構えでその巨大エリンギをつかみ、そのまま床をゴロゴロと転がったのだった。


「ぶんりん!」


 みかりんが声を上げる。するとぶんりんはかわいくウインクで返した。


「任せておいて、みかりん」


 そして、両肘をまげてお尻を突き出した。ニワははっと目を見開き、まだ辛うじて焼け残っていた机の一番下の引き出しを開けた。


「ユーディ! これを!」


 ヘルメットの様なものを投げてよこした。そして自分も同じものを顔にかぶった。


 それは、ガスマスクだった。


 ぷうっ。


「おえっ!」


 最初に声を上げたのはみかりんだった。


「く、くさい……」


 チアリーダーあきこも両手にポンポンを持ったままその場に倒れた。


「くっ……小癪な……!」


 ツキモリが手で口と鼻を押さえたまま唇をかむ。


「な、なあ。今日はもうあきらめようぜ」


 みかりんがこっそりツキモリにささやいた。


「もう、破壊できるところはやったんだし。金はもらえるんだからさ。この臭さ、あたい、死ぬ」

「こんなことで諦めるとは、だらしない!」


 ツキモリがその両手を突き出した時だった。


 ニワが動いた。


「手伝え、ユーディ!」


 ニワがガスマスクをかなぐり捨てて飛びすさるのと、ツキモリの指から炎がほとばしるのが同時だった。ニワは床をゴロゴロと転がり、一番後ろの壁の近くまで来ると素早く立ち上がった。飾られている絵の中心を、拳で、だんっ、と打った。


 ウイーン。


 電子音がしたかと思うと、壁が左右に開いた。


 そこに置かれていたものは。


「こ、これは……」


 ユーディは息を飲んだ。


 それは、大砲だった。


 ツキモリは、


「そんなもの、恐るるに足らず!」


 両手を突き出そうとした、その時だった。


「ユーディ、ヒモを引けえっ!」


 ユーディはガスマスクをつけたまま大砲の後ろに回り込み、ついていた紐を思い切り引いた。


 ぷっちん


「あっ」

「えっ」


 ツキモリとみかりんの笑顔が凍り付いた。


 どっかーーーーーん。


 ふたりはバナナごと飛ばされた。


「今日はこの辺で勘弁してやる! おーっほっほっほっほ」

「そんなバナナーーーーーーー!」


 大砲の音に混じってそんな雄たけびが響いた。

 最後にきらりと光ったのは気のせいだろうか。


「あれ? あたし、何やってんだ?」

 チアリーダーあきこが我に返ったように目をぱちくりさせた。

「ねーちゃん!」

 かずりん姿のカズーがチアリーダーあきこにとびついていった。

 そしてそれを見ていたぶんりんも、はっとしたようにその場に立ち尽くした。

「なんでこんなことになってんだ?」

 ニワとユーディは顔を見合わせた。ニワはあからさまに顔をしかめた。

「おまえはいつまでガスマスクをつけているのか」

 するとユーディはここでやっと自分がガスマスクを外し忘れているのに気づいたようだった。

「どうりで息がしづらいと思ったんですよ」

 ガスマスクを外したユーディの髪型はヘルメット型にセットされていた。




 そしてここに一人、丘の下から城が半分焼け落ちるのを見て、うなずく者ひとり。


「うん。我ながら良いできにゃ。情熱のフクヤマンもさぞかしいい仕事ができるだろう」


 賢者シマニャンであった。

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