悪徳農家のガムとサツマイモ魔法少女ぶんりん
1 アオイとスズメ
ほう、ほう。
真っ暗な森に、フクロウの声が響いた。
古く大きな木のうろの中、白いローブをまとって座っているのは透き通るようなほどに白い頬、水色の目、銀色の髪を持つ少年だった。
真っ黒なうろの中、彼の姿だけがぼんやりと光るように浮き上がって見える、彼は冷たい表情で足元にうずくまる黒いドレスの女を見下ろしていた。
「アオイ様、お呼びでしょうか」
女が言った。
「ツキモリ……来てくれてありがとう。実は君に、頼みたいことがあるんだ」
「なんでも、お申し付けくださいませ」
アオイは、ふふっ、と、美しく笑った。
「ガムのところに行ってほしいんだ」
「あの、悪徳農家のイケメンガムですか?」
「そう。そのイケメン。もう知ってると思うけど、ぼくが、とってもいいお薬を売ってあげたのに、その代金を払ってないんだよね」
「殺す、と……?」
「うん、それでもいいんだけど」
くすっと笑った。
「ガムはとってもお金持ちなんだよ。今までもたくさんぼくのお薬にお金を払ってくれたからね、今回だけは、殺すのは少し待ってあげようと思う」
「どうなさるおつもりですか?」
「伝言を頼むよ。元の料金の十倍払ったら許してやる、ってね」
「ではわたくしは、ガムからその金を受け取って参ればよろしいのですね」
「そういうこと」
「もし、ガムが支払いを拒否したら……」
「スズメを連れて行くといい。君だって彼女のことは知ってるだろ?」
アオイが声をかけると、首に白い蛇を巻きつけた、小柄で華奢な少女がアオイの座る木の後ろから姿を現した。白い肌、とび色の肩までの髪。青いひざ上のワンピースに編み上げの靴。片膝をついて座り、頭を下げた。
ツキモリはちらりとスズメを見た。
「頼まれたことなら手段を選ばず何でもやるという……」
言った後、小さく笑った。
「しかし今回はガムから預かった金をまんまと盗まれてしまった。しくじったのでは?」
スズメはその涼やかなグレーの瞳に残忍な光を宿し、ツキモリを見た。口元に歪んだ笑みを浮かべる。
「わたしがお仕えしているのは、ガムではない。アオイ様だ。あの男の金がなくなったところでアオイ様はお困りにはならない。事情など関係ない。むしろ……好都合かと」
ちらりとスズメがアオイを見やると、アオイも満足げに笑った。
これが故意か過失かに関わらず、すべてはアオイの手の内なのだと気づいたのか。ツキモリも不気味な笑みをその顔に浮かべた。
「なるほど。では、出立は」
「今すぐ」
「承知しました」
ふたりが下がろうとした時だ。
「ねえ、ツキモリ」
思い出したようにアオイは美しく笑った。
「君も、思いっきりあばれて来なよ。ガムが……ショックで立ち直れなくなるぐらいにさ」
「承知いたしました」
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