4 地下牢にて

 べりっ。


「いでえええええっ」


 ヨドカワの声が地下牢に響き渡る。


 べりっ。


「やめれええええええっ!」


 シマニャンがヨドカワのすね毛を抜く間にも、カズーは自分の牢の柵を両手でつかんで、今にも飛び出しそうな様子で口を開いた。


「二時間後だあ? なんで今回に限ってそんな事知らせてくんだ?」

「知らないよ。あれ、君はまだツルツルじゃないか」


 ぶんりんのすねを見たユーディが声を上げると、


「にゃに⁉」


 シマニャンが不機嫌にぶんりんを見た。


「おまえ、まだ毛が生えにゃいのか」

「ふつう、そんなにすぐは生えないだろ」


 あきれたようにぶんりんが返すと、シマニャンは嬉しそうにヨドカワのすねを見た。


「こいつはもじゃもじゃにゃ」

「もじゃもじゃ言うな!」


 べりっ。


「いでええええええええっ!」

「おまえら、この間からなんっかおかしいよな」


 カズーがひとり、声を張り上げる。


「癒着でがんじがらめになってんだろ。どうせガムの野郎が地下室でも拡張して、収容人数増やして入場料丸儲けしようとしてんだ」

「だまるにゃっ!」


 シマニャンの声に、地下牢が再び静まり返った。


「しかしカズー、よく知ってるね。君、一日中この地下牢にいるのに、なんでそんなに情報通なの?」


 ユーディがたずねた時だった。ヨドカワが笑った。


「お前、バカか」

「バッ、バカとは何だ!」

「おれたちは一日中ここにいるんだぜ。面会するやつもねえ。来るのはお前と食事を運ぶ番人とシマニャンのみ。それでどうやって情報が集められる、っていうんだよ」

「は?」

「ハメられたにゃ」


 シマニャンがイライラと言い、また、びりっ、とやった。


「いでえええええっつってんだろうが!」


 ヨドカワの声を聞き、今度はカズーが腹を抱えて笑いはじめた。


「な、なんだよ、わけが分からない」

「カマをかけられたにゃっ!」


 シマニャンがぎろりとユーディをにらんだ。


「あ……」


 そこでようやく気付いたユーディがシマニャンの顔色をうかがうが、最高に機嫌が悪かった。

 余計なことをべらべらと……! と思っているのが全身からにじみ出ている。

 無言の圧をかけたまま、シマニャンは杖を突き出し、三人の男たちを魔法少女に変えた。ユーディはそんな「圧」などどこ吹く風、よどりんにエリンギを渡し、髪をポニーテールにした。そしてぶんりんにサツマイモを渡そうとしたときだった。


「……きみ、何食べてるの?」

「バナナだよ」


 ぶんりんは食べ終わった後の皮を柵から外に捨てた。


「朝食についてたやつを取っておいたんだ。で? おれの焼き芋はどこだ」


 ユーディがサツマイモを差しだすと、ぶんりんは、「ちっ」と、小さく舌打ちをし、


「んだよ。今日は焼いてねえのかよ」


 ユーディから生のサツマイモを奪い取り、生のままガジガジとかじる。

 微妙な空気が地下牢に漂った。ユーディはそんなことなど我関せず、キラキラの笑みを浮かべた。


「君たち、今日も思い切り暴れておいで」

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