チアリーダーあきこ

1 情熱のフクヤマンが好きなもの

 周囲には、たいそうな異臭が漂っていた。


「しかし、この光景はなんだかシュールだな」

「一種、別世界な気もしますね」


 口に赤いバラの花をくわえ、上半身裸で、豊かな胸毛を茂らせた男……情熱のフクヤマンが腕を組み、微妙な笑顔を作った。今日もレイテックス製のピタピタなレギンスをはいている。下腹部のふくらみは今日も変わらず「大」。素足に履いた黒い革靴が何ともセクシーだ。


 そのとなりにいるのは、黒い日傘を差した線の細い美青年……墓守のアサリー。この炎天下でもシルクの長そでシャツに黒いスーツの上下を着用していた。こめかみには汗ひとつ滲んでいない。


 ふたりは今、前回ジャイアント・タカヒト氏に壊されてしまった家の再建築現場に来ている。技術の必要な作業は情熱のフクヤマンの雇う人間が行うが、アサリーのゾンビは主に建築資材の運搬、機材の設置などを担っている。

 情熱のフクヤマンは口にくわえたバラを手に取り、それをもてあそんだ。


「それで? 今、ガムの地下室増設の進捗状況は?」

「悪くありませんよ。思ったよりも順調です。さらに」


 アサリーは喉の奥で乾いた笑い声をあげた。


「今、既にある方の地下室を、家を失った人たちの仮設住宅にしているようです。彼らは裕福な暮らしに慣れていますからね。少しでも快適に過ごさせるために、ひと家族に一人から二人の小間使いをつけるのだといって、先ほど、ゾンビの派遣要請を受けました」

「……においがすごそうだな」

「いえ。そちらは死後、比較的新しいゾンビなので、においはほとんど気にならない仕様になっております。当社比九十パーセント減」

「それは大した改善だな」

「わたしは化学者ですので。化学とは関係ありませんが、その者どもは見た目も人間とほぼ変わりなく、メイド服なども着せております」


 メイド服、というところで、情熱のフクヤマンはわずかに鼻息を荒らげた。血の気の失った人形のような顔のゾンビがメイド服を着ているところを想像し、下半身のサイズがさらに大きくなりかたけたのを、どうにか自制した。


「どんな服だ」

「首からつまった長いドレスの者もいれば、胸の部分を大きく開けたミニスカート仕様の者も」


 アサリーは情熱のフクヤマンの反応を素早く見て取り、


「値段は少々張りますが、まだ数名残っていますよ」

「じゃあ試しに一人、送ってもらおうか」

「どちらの服を着せましょうか」

「ミニスカの方だな」

「承知しました」


 情熱のフクヤマンは再び建設現場に顔を向けた。


「しかしガムのやつ、商売上手だなあ」

「それをあなたが言いますか?」


 アサリーは小さく笑い、意味ありげな視線を向けた。情熱のフクヤマンは器用に片方の眉だけをつり上げて笑みを返した。


「それを言ったらあなただって同じことだろう? 我々は三人で、ツキモリのオファーを受けたんだから」

「そういうことですね」

「ああ、そういうことだ」


 ほのかな異臭をまき散らしながら、ふたりの目の前を、木材を担いだゾンビが通り過ぎていった。

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