10 全員真っ黒

「おお、ユーディ。わたしのスイートハニー。だいじょうぶかい?」


 久々にユーディが墓地管理事務所兼屋敷に顔を出すと、アサリーが出迎えて優しく抱きしめた。ユーディは頭に包帯を巻き、腕を首から包帯でつっていた。

 全治三週間だった。


「アサリー」


 思わず潤んだ目で見つめると、視線が気になった。


「大変な目にあわれましたね、ユーディ少尉」


 ソファから情熱のフクヤマンが立ち上がって両手を広げて足を交差し、優雅に頭を下げた。いつものように上半身は裸で、ムキムキの胸に胸毛がふさふさと生えている。ピタピタのパンツの中では、相変わらず下腹部の一部だけが存在感を放っていた。さすがにバラの花はテーブルの上に置かれていた。

 そして。


「公務より先にこっちに来るとは何たることにゃ」


 情熱のフクヤマンのとなりでクロークに身を包んだシマニャンが、フードをかぶったままつぶやいた。

 情熱のフクヤマンはユーディが席につくのを確認すると、


「お約束のものをお持ちしましたよ」


 目でローテーブルの上を示した。

 そこには金貨の入った袋が2つ置かれていた。


「ななみん」


 ソファの向かいには「ななみん」がちょこんと座っていた。


「きみもご苦労だったね。あのジャイアント・タカヒト氏をうまくコントロールしてくれてありがとう」


 ユーディがキラキラの笑顔を向けると、ななみんが誇らしげに、


「ななみん」


 と、笑った。


「とにかく、計画がうまく行って何よりです」


 アサリーがワインの入ったカップを手渡す。ユーディは片手でそれを受け取り、口を潤した。しかしこのワインはいつ飲んでもうまい。舌にまとわりつくようだ。


「さすがに冷や冷やしましたよ」

「何かあったのですか?」


 情熱のフクヤマンが真顔で聞いてきた。ユーディはうなずいた。


「アオイの指示でジャイアント・タカヒト氏がこちらに向かい、金持ちの家だけを選んで破壊すること。悪徳農家のイケメンガムが地下室の入場料でぼろ儲けすること、情熱のフクヤマンが家の復興を一手に受注して儲けること……魔法少女たちは感づいているようでした」


 シマニャンが苦虫を潰したような顔でつぶやく。


「……お前が教えたんじゃないのか」

「まさか」


 ユーディはわざとらしく驚いて見せた。


「奴らもダテに悪いわけじゃない。そういう方面の勘の鋭さには驚かされますよ」

「けれど、わたしたちの方の計画にはまだ気づかれてませんよね?」


 アサリーが一人がけの椅子に腰かけ、美しく笑った。


「もちろんですよ。ニワにもガムにも知られていない」


 ユーディも微笑み返す。


「金持ちたちの家の復興工事の手伝いに、レンタルゾンビを大量に派遣するなんて」


 四人は顔を見合わせ、こらえきれないように声を上げて笑った。

 ユーディはワイングラスを軽く持ち上げて見せる。


「我々の計画に」


 残りの三人がグラスを同じ高さに持ち上げた。


「乾杯」

「乾杯」

「乾杯」



           「情熱のフクヤマンとジャイアント・タカヒト氏」おわり

                              

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