9 街にて

魔人まぁじん凍るこぉるが来るぞ――――!」

「まさかあいつが本物だったとは!」


 街に、そのような声が響き渡った。さらにはげしくゾンビの引いた大八車が街中を駆け巡る。食糧を買い占めているのだ。


「ゾンビども! 急げ! 急いで町中の食糧を買い集めるのだ!」


 そのゾンビの指揮を執るのは麗しのアサリー。先ほどまでのにおい立つようなフェロモンを封印しているが、その指揮を執る姿はほれぼれとするほどりりしいのであった。


 そして、その街の辻に立つ者があった。


 金色の衣服に身を包んだ、悪徳農家のイケメンガム。


「皆! 急げ! 急いで我が屋敷の地下室に避難せよ!」


 すると、座り込んでいた老人の冷めた視線にぶつかった。


「何をしている! 急げ! そうでないと魔人まぁじん凍るこぉるが……!」

「今のおれに入場料を払う金があると思うか」


 老人は抑揚のない声で言った。


「仕事で怪我をして足をやられたがそれを治療する金もない」


 自分の足をさすり、鋭い視線でガムを見つめた。


「おまえら金持ちのせいで、おれたちは貧乏に苦しめられてるんだ」

「それはよかった」


 ガムは、イケメンに笑った。


「その汚い手を使って集めた金を使う時が来た、というわけだ」


 老人は驚きの視線を向けた。


「我々金持ちは真の目的をひた隠しに隠し続け、この時に備えて悪を尽くして金を集めてきた」

「なんだと……⁉」

「ニワ宰相の話を聞いてなかったのか。いつか必ずやってくるこの時の為に備えていたのだ」


 自らかがみこみ、老人を支えた。


「今回は、入場料はいらない。食事も飲み物も用意してある。早く行かれよ。……魔人まぁじん凍るこぉるがここに到達する前に」

「ヤツはもう、そんなに近くまで迫っているのか⁉」

「残念ながら」


 苦しそうに笑って見せる。


「さあ、こちらは我々に任せて早く行かれよ。民こそが国の宝。我々、汚い金持ちが金の力でこの国を守ってみせますよ」


 老人はガムを見た。その目には決意の光がともっていた。


「もし、万が一、助けが必要な時は遠慮なく頼ってくれ。こんな体でもないよりましだろ」


 その言葉にイケメンガムは深くうなずいた。そして、


「ゾンビをここに一人寄こしてくれ! この方を地下室に運んで差し上げろ!」


 と、アサリーに声をかけた。アサリ―は美しくうなずき、メイドのコスプレをしたゾンビに声をかけた。


「イチタンイ! このお方を運んで差し上げろ!」


 イチタンイはかわいくうなずき、両腕で老人を抱え、ものすごい速さで駆けだした。


 うっすらとゾンビ臭が残ったのは言うまでもない。

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