8 城にて

 「全国民に告ぐ」


 軍服に身を包んだ美しいニワが、マイクを持って城の砲台に姿を現すと、群衆はわあっという、歓声ともため息ともつかぬ声を上げた。


「すでに気づいている者もあると思うが、今までは伝説として伝わってきた最強の敵、魔人・凍るがこの国を破壊しようと迫っている。到達までの推定時間は一日弱」


 群衆から不安の声が上がった。


「ついては全員、必要最小限のものを持って避難するように。地下室のある者も今回は悪徳農家イケメンガムが所有する屋敷の地下室へと隠れよ。我々もこの非常時に備えて準備をしてきたが、魔人・凍るとの力の差は歴然。街全体を守ることはできない。しかし、イケメンガムの屋敷を守ることだけならできるであろう。不安はあると思う。けれど、我々も全力を尽くす。以上だ」


 チャッ。


 砲台の上に兵隊が現れて銃を体に沿って持ち、敬礼した。

 群衆が声を上げ、我先にと自分の家へ向かう。


「おまえの指示通り、城の地下への門を開いた。ンダカップが指揮を執り、外国から買い付けた食べ物を運び込んでいる」

 となりに影のように立つシマニャンに、ニワは告げた。

「何日くらいしのげるか」

「ンダカップによると、十日ほどらしいにゃ」

「戦いが終わり、再び道路が開通して外国に買付けに行って戻って来られるのが早くて十日」


 ふん、と、シマニャンは目を細めた。


「できるだけ早くケリをつけたいにゃ」

「自信はあるのか」

「こっちには秘密兵器があるにゃ」


 ニワは返事をしなかった。しばらく群衆の動きを見ていたが、


「もしものときは、ユーディとともに政務室に籠れ。あそこには大砲がある」

「おまえはどうする」

「ここを死守する」

 シマニャンは息を飲んだ。まさかニワの口からこんな言葉がもれるとは思っていなかったのだった。


「しかし」

「あいつは、この国の将来を担う者ぞ」

「それは、シモヒガシヨシヲ五世として……」

「いや」


 小さく笑った。


「その時は、ユーディ一世だ」


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