7 ラスボス その名は

 宮殿の広間には、長テーブルがしつらえられていた。いつもならばこのような席では豪華な料理やたくさんの葡萄酒がふるまわれるが、今日は一切、そのようなものは用意されていなかった。


 不穏に揺らめく壁やテーブルの上に置かれたろうそくの炎に、ユーディは何か不吉なものを感じていた。


 というのも、今ここに一堂に会しているのは、普段では決してこのように顔を合わせることのない面々ばかりだからだ。


 正面の玉座には皇帝ガミ。その右には宰相ニワ。左側には賢者シマニャン。テーブルについているのは右から、ンダカップ、悪徳農家のイケメンガム、情熱のフクヤマン、マッドサイエンティストアサリー、ユーディ。そして反対側にはアオイ、スズメ、ツキモリ、バナナ使いのミカリン。


 後ろに控えるのは魔法少女になる前のヨドカワとカズーとブンジ。さらにはチアリーダーあきこ、プロボウラーははこ。そして大量のななみんズ。ブラウン管のテレビに中継でつながっているのはジャイアント・タカヒト氏だった。


「おい、なんなんだよ、これは」


 カズーが気味悪そうにとなりのブンジにささやいた。


「知るかよ。お前はわかってんのか、ヨドカワ」


 ヨドカワはいつになく厳しい目でふたりを見たが、何も言わずに両腕を胸の前で組んで黙りこくっていた。

 カズーもブンジもその様子になにかいつもと違うものを感じたのだろうか。

 今日ばかりは黙って、ただ、一同の顔色をうかがうだけだった。


「今、我が国に最大の危機が迫っている」


 おもむろに皇帝ガミが口を開いた。この時ばかりは黄金塊ゴールデン・ナゲットをもてあそんではいなかった。ユーディと、カズーとブンジ以外の全員がうなずいた。


「これは今までごく一部の者だけに伝えられてきた真実。長い間、このことが現実にならねばいいと思い続けていたことが現実となり、我々の面前に近づきつつある。今、この瞬間もだ」


 皇帝ガミは一同を見渡した。ユーディはわけがわからないまま立ち上がった。


「それは、どういうことなのですか?」

「最大の敵がこの国を襲いに来る」


 ニワが言い放った。


「その者は数十年、またある時は数百年に一度姿を現し、我らを恐怖の底に陥れ、略奪し、民の命を奪った。冷酷非道の者。皆を不安に陥れることのないよう、ひた隠しに隠されてきた。ユーディ、おまえも亡き王から聞かされて知っているはず」

「それは、もしや……」


 ユーディは息を飲んだ。


 父である前王、シモヒガシヨシヲ四世は生前、幼いユーディをそのひざに乗せ、何度もおとぎ話を聞かせたのだった。


「氷に覆われた大量のイノシシを操り、この国を襲い、その魔力ですべてを凍りつかせてしまう……」


 皇帝ガミを見る。ガミはこの非常時にも鼻をほじることなく真顔でユーディを見た。ユーディは、鼻をほじらないその姿を初めて見た。

 それで、事の深刻さをまざまざと思い知らされた。


「冷酷非道で、慈悲の心のかけらもないというあの恐ろしい敵……」


 心臓が恐怖で高鳴るのを感じた。


 あのとき、亡き父は言わなかったか。


 ―平常時には、決してその名を口にしてはならぬ。決してな。


「なんなんだよ、その敵って」

「焦らさないで早く教えろよ」


 カズーとブンジの言葉に、ユーディは息を飲んだ。


「その名は……」


 ―決してその名を口にしてはならぬ。


 その言い付けをずっと守り続けて来た。守り続けて、それはおとぎ話だと忘れ去っていた。けれども今、その名を言わねばならないのだ。


「ユーディ」

「早く教えろよ」


 ユーディのこめかみに冷たい汗が浮いた。


「そ、その名は……」


 どくん、どくん、と、心臓が気味の悪い音を立てる。まるで、言ったとたんに悪い魔法がこの広間を埋め尽くしてしまうかのように。


 カズーの、ブンジの視線が刺さる。


 ユーディは口を開いた。


魔人まぁじん凍るこぉる

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