2 森にて
その頃、森では。
ドドドドド、とはげしい音を立て、体長三メートルはあろうかという大きなクマが小柄なスズメに向かって駆けだしてきた。
ガオオオオオオオ
クマの前足が地面を蹴った。クマは大きな口を開け襲い掛かってくる。その鋭い爪が襲い掛かろうとした、その時だった。
「ハイヤッ!」
スズメが首に巻いた白蛇のしっぽをつかんだ。蛇もするりとその首から外れた。スズメが手を放す。
シャーッ!
大きく口を開け、クマの喉笛に噛みついた。
グアアアアアアアアッ。
激しいうめき声。毒蛇に噛みつかれたクマは勢い余ってわずかに空中で回転した後、地響きを立てて地面に転がった。
その間にも蛇はしっぽからクマの首に巻き付きゆるゆると締め上げる。クマも最初はもがいていたものの、次第にその動きが緩慢になり動きを止めた。
硬直して変な形に宙に突き出していた前足が力なく落ちた時、ピッ、という音がした。
「一分二十秒」
木のうろの中に腰かけていたアオイが冷めた目でストップウオッチを眺めた。その間にも蛇はするすると地を這い、再びスズメの首に巻きついた。
スズメは素早く懐からナイフを取り出し、クマの腹を裂いた。アオイはゆっくりと立ち上がり、うろから出た。スズメがクマをさばく様子を冷たい視線で見降ろしながら、
「もう少し早く息の根を止めてあげた方がいいんじゃない?」
「トリカブトの毒も用意しております」
「毒なんか使ったら肉が食べられないじゃないか」
スズメはアオイに気づかれぬよう、ちらりとその顔を盗み見る。無表情のまま裂いたばかりのクマの腹に手を突っ込み、臓物を取り出した。
血がどろりと流れる。
その時だ。
アオイが動きを止めた。
「アオイ様?」
そう言って顔を上げたスズメの頬を風がなぞる。
スズメは血の滴る臓物を持ったまま立ち上がった。
再び風を感じた。
「これはまさか……」
「ではないよ。ぼくにはわかる」
アオイも険しい表情でスズメを見た。
「……面倒なことになりそうだな」
吐き出すように言う。眉間にしわを寄せ、背中を向ける。凍り付いたように立ち尽くしていたスズメが、思い出したように木のうろに戻るアオイに声をかけた。
「あと何頭か仕留めておきましょうか」
「多い方がいいね」
いらだちを隠せないようにアオイは空を仰いだ。
「ツキモリにも知らせるんだ。そして、ミカリンをジャイアント・タカヒト氏のところへやってくれ。……準備をするときが来たようだ、と」
スズメは、「はっ」と、片膝をついて頭を下げた。
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