5 密談
がらがらがら。
けたたましい音を立てて、町中を大八車が駆け抜けていく。引っ張っているのはゾンビたちだった。そこに詰まれているのは大量の水や食糧。
食べ物を売る商店の店先では札束が舞い、ゾンビたちが新たにものを買いあさっている。
「……何かあるのか?」
客の一人がたずねるが、もちろんゾンビは話さない。
「おいおい、この大根は今、俺が買おうとしてたんだよ」
するとゾンビは半分溶けた顔でその客を見た。
「ひいいっ!」
後ろでも、がらがらがら、と、大八車が通り過ぎていく。
「おい、何が起こってんだよ!」
「こいつらじゃ話になんねえよ」
客同士がゾンビを見つめて囁く。
そして今度、金物屋では、
「えらい大量に必要なんだなあ」
うれしそうな声が上がる。ゾンビが鍋ややかんなどの金物を買い占めているのだった。
「おい、うちの店にもあるぞ。買わねえか?」
別の店主も声をかける。別のゾンビがそちらに向かう。
その様子を少し離れた所から見る者がいた。悪徳農家のイケメンガムだ。となりにいるのは口にバラをくわえた情熱のフクヤマン。そして。
黒いクロークを着て、フードを目深にかぶった小柄な人物がこそこそと二人に耳打ちをした。
シマニャンだ。
ふたりはいつになく険しい表情でゾンビたちの動きを追っている。シマニャンは最後に一言何かを言うと、音もなくその場を去った。
と、その時風が動いた。
ふたりの肩が怯えたようにビクッと震えた。そして、恐る恐る天を仰ぐ。
「まさか、本当の話だとは思わなかった」
ガムがいつになく神経質につぶやくのに、情熱のフクヤマンもうなずいた。
「わたしもだ。父からこの事業を受け継いだときに話を聞いた時は伝説の類だろうと高をくくっていた。……自分が生きている間に経験することになるとは」
「前の王、シモヒガシヨシヲ四世が生きていてくれたら」
「まったく余計なことをしてくれたもんだ」
その後は、言葉もなくそれぞれにため息を隠す。
がらがらがら。
大八車がせわしなく二人の前を通り過ぎて行った。
「お達者で」
「そちらこそ」
ふたりは軽く会釈し、右と左に別れた。
お互い、振り返りはしなかった。
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