3 スズメとアオイ
ななみーーーーん、ななみーーーーーーん
朝焼けの空にななみんたちの声がこだまする。
アオイはゆっくり木のうろから立ち上がり、大きなかがり火の後ろに立った。
かがり火から少し離れただけで息が凍るほどに気温が下がっていた。
「スズメ。君の番だ」
「ですね」
スズメは口元に小さく笑みを浮かべた。首に巻いていた白蛇のしっぽをつかみ、首から外して両手で持った。
シャアアアアアッ
蛇が声を上げた。
すると。
薄闇の中からぞろぞろと大量の蛇が集まってきた。
アオイはかがり火を透かして見るように目を細めた。
「すでに超合金・ジャイアント・タカヒト氏とツキモリとみかりん、炎のバナナペアは踏破された。今、大量のイノシシたちが森に撒いたトリカブト入りの肉にかぶりついている。そして、肉にありつけなかった輩が……来る!」
どどどどどど。
奇妙な地響き。
「来るぞ」
「どこからでもかかってこい」
スズメが腰を落とした。
シャアアアアアッ
蛇が声を上げた。
ガラガラガラガラガラ。
集まってきた蛇たちも音を出す。
「行け!」
スズメが号令を出すのと、黒い塊が凍った木々の間から姿を現すのが同時だった。
蛇たちはものすごい速さでイノシシたちに近づいて、その首に、足に巻きついた。
スズメが走った。
たん、と地面を蹴って一頭のイノシシの背中に乗る。手に持った蛇がその牙をその体に食い込ませる。
倒れるとまた、次のイノシシへと渡り歩く。
その数が十頭を超えた時だ。
急激な寒さを感じた。
ハッとして顔を上げた時。
そこに、直径五メートルほどのドームを見た。けれどもそれはただの球形の塊ではない。大量の雪が舞いながら、オーラのように何かを取り巻いているのだった。その中心にいるのは人影。けれど、この距離からはその姿をはっきりと見ることはできない。
「あれが……
そう理解したとたん、今まで感じたこともない恐怖が全身を駆け上がるのを感じた。
今まで一度も恐怖を感じたことなどなかった。むしろ、他人に恐怖を与える側だった。
なのに今は。
全身が震えて、体が動かない。言葉を出そうにも声が出ない。目を見開き、そのドームがものすごい速さで近づいてくるのを見つめるだけだ。
ぎゃあああアッ!
スズメの乗っていたイノシシが毒にやられて地面に倒れた。さっきまではその瞬間、別のイノシシの背中に飛び乗っていたその動きが止まった。
地面に転がり落ちた。
しまった!
そう思った時はすでに自分の周りを大量のイノシシの足が通り過ぎていく。
「あうっ!」
腹を蹴られた。
「ううっ!」
次は顔を。
アオイ様。
スズメは思った。
どうか、ご無事で……!
そのまま意識を失った。
そのとき、アオイの体がぴくん、と動いた。
「スズメ!」
目を閉じて意識を集中する。
「スズメーーーーーーーーっ!」
かっ、と、見開いたその両目には怒りの炎が宿っていた。
いつも冷静なアオイが見せる、初めての感情。
両手を広げた。すると、かがり火の炎が赤から黄色、黄緑へと変化した。
「許さん」
大きな空気の球を作るように、腕を大きく動かした。すると炎が宙に浮き、大きな塊になった。
「許さない。絶対に。絶対にお前を!」
腕の動きが大きく激しくなる。
「
空高く浮かんだそれは大きな塊。
どどどどど。
イノシシが迫りくる。
狙うは、雪嵐のドーム。
神経を集中する。
―行け!
両腕を強く前に突き出した。
炎の塊が流れ星のような速さでイノシシの上を通り過ぎていく。
炎が、雪嵐の中に吸い込まれて行った。
雪嵐が小さくなった。
それでも、イノシシは走り続ける。
塀の中を目指して。
そして、その後ろから行くのは少し威力を落とした雪の嵐。
イノシシが、雪嵐が、アオイの上を通り過ぎて行った。
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