11 地下牢にて

「やめれーーーーー!」


 ビリッ!


 地下牢にはいつもの悲鳴が響き渡っていた。ユーディはいつもの手編みの籠を持って階段を駆け下りながら、「いい加減、慣れろよ」と、苦笑した。おそるおそるヨドカワの牢に顔をのぞかせると、


「あれ?」


 そこにはすでに変身を終えたよどりんが座っていた。


 びりっ。


「やめれーーーーーーー!」


 よどりんがにやにやしながら、そのかわいらしい声を上げた。


「どゆこと?」


 よどりんは、向かいの牢をあごで示した。


 そこには石の台に両手両足をつながれたぶんりんがいて、シマニャンから変身の儀式をされているところだった。


 びりっ、とやられても我慢して歯を食いしばっている。


「なんでよどりんが『やめれ』って言うんだよ」

「言った方が面白いから」


 そのかわいらしい顔をゆがませた。そしてそのよどりんは自分で足や腕に何か白いものを塗りこんでいる。


「なんだい? それ」

「スキンケアにゃ」


 シマニャンがブンジのすねにテープを貼りながら言った。


「なんで今日に限って?」

「最後になるかもしんねえからだろ」


 かずりんになったカズーが真面目な顔で牢の間から顔を出した。じろりと、ユーディが籠から取り出した焼き芋を見る。


「ブンジが焼き芋魔法少女になるってことも、そういうこったろ」


 そんな風に言われると、渡すのをためらってしまう。ブンジもそれに気づいたのか、自分から手を出して焼き芋を受け取った。


 ユーディはよどりんの牢に入り、いつものように髪に手をかけた。その真っ白なエノキのような髪をポニーテールにしながら、スキンケアクリームを塗りこむ小さな指先を見つめた。


「手伝おうか?」


 するとよどりんはじろりとユーディを見た。


「おまえがこの姿の俺の足にクリーム塗るとか、普通にキモいだろ」

「まあ、そうだけど」


 よどりんは何度も何度もクリームを重ねて塗る。


「なあ。俺たち……生きて帰れんのか?」


 かずりんがいつになく不安そうな声を上げた。


「だって前にあいつが来た時、国がひどくやられたんだろ?」

「そうにゃ」

「……怖えよ」


 と、その時だった。


「てめえ、何気弱なこと言ってんだよ!」


 乱暴な足音が聞こえて来た。かと思ったら、


「がんばれ」


 ちゃちゃちゃ。


「イケイケ」


 ちゃちゃちゃ。


「勝てるぞ」


 ちゃちゃちゃ。


「勝つんじゃオリャアアアアアッツ!」


 赤い髪をポニーテールにしたスタイルのいい若い女が階段を駆け下りて来た。体にピタピタのチビTに、短いスカート。生足には短いソックスにスニーカー。


 その場でポンポンをふり、カスタネットを鳴らして、足を上げたりくるくる回ったりし始めた。


 その名もチアリーダーあきこ。


「ね、姉ちゃん!」

「あんたたちのことは、あたしが全力で応援する。最前線に立って応援してやるわよ。そのために今までずっと頑張ってきたんだから」


 そして、一同を見回した。


「あんたたちは負けない。絶対に魔人まぁじん凍るこぉるを追い返してこの国を守り抜く」


「ねえちゃん」


 かずりんが、目をこすった。


「俺、頑張るよ。絶対に負けねえ!」

「そう、その意気よ!」


 あきこが答えた時だった。


「そのために練習を繰り返してきたにゃ」


 シマニャンが最後に、びりっ、と、ブンジのすねからテープをはがした。よどりんは「やめれ」を言えず、ちっ、と舌打ちをした。


「練習?」


 聞き返したのはユーディだった。シマニャンは呆れたようにユーディを見る。


「何のために何度もツキモリたちと戦ってきたと思ってるにゃ」

「まさか、この時に備えて?」

「そうにゃ」

「母上はそのこと……」

「やるしかねえだろ」


 よどりんがその可愛い顔で皮肉な感じに笑った。


「あいつのせいで、世の中が不正な金持ちであふれちまったんだから」

「どういうことだ?」


 ユーディが聞き直したが、


「早くあたしの髪、結べよ」


 よどりんはいらいらと言うだけで答えなかった。

 シマニャンがじろりと音がしそうなほどによどりんを見るが、それを無視してスキンケアクリームをたっぷり腕にこすりつける。


「おい、よどりん。あたしにもそのスキンケアクリーム貸してくれよ」


 ぶんりんが言った。けれどもよどりんは残忍な顔で笑った。


「テメーはいらねえだろ。あたしよりかは毛が薄いんだから」


 そして、これみよがしにたっぷりとクリームを塗りつけるのだった。

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