6 チアリーダーあきこ、偽りの恋に落ちる

「がんばれ」

 ちゃちゃちゃ。

「イケイケ」

 ちゃちゃちゃ。

「勝てるぞ」

 ちゃちゃちゃ。

「勝て、言うとるやとがボケええええええええっ!」


 チアリーダーあきこは、まだ庭でチア―の練習をしていた。最後にポーズを決めると、ふっ、と息をついてこめかみから流れる汗をぬぐった。

 と、その時、両腕を胸の前に組んで背中を家の塀に預け、陰からこちらを見ているものの姿に気づいた。

 チアリーダーあきこの顔が明るく輝いた。


「みかりん!」


 みかりんが照れくさそうにチアリーダーあきこを見ると、チアリーダーあきこの目がハート型になった。


「ちょっとつきあわねえか?」

「行く! 行く行く!」


 みかりんの腕に自分の腕を巻きつけた。みかりんはあきこのたわわな胸を腕に感じ、まんざらでもなさそうに児童公園に向かう。


 いやあ、ツキモリの作った惚れ薬、すげえ効き目だなあ。


 そんなことを思いつつ、公園へ向かう角を曲がった時だった。

「しっ、しっ! あっちへお行き! あたくしは子供が大っ嫌いなのよ!」


 聞きなれた声がした。


 巨大バナナを遊具と勘違いした子供たちがそこによじ登ろうとし、ぎっくり腰で起き上がることのできないツキモリが、バナナに寝そべったまま子供たちを威嚇しているのだった。


「えー、ちょっとだけ登らせてよ」

「かっこいい!」


 子供は口々に何かを言っていたが、そのうちの一人が、


「ちょっとくらい貸してくれたっていいだろ、このくそババア!」


 みかりんはぞっとして足を止めた。

 バカな子供め……。

 思った通り、ツキモリの形相が変わった。


「静かにおしっ!」


 指を突き出した。そこから炎が飛び出し、「くそババア」発言をした少年の髪を丸焼きにした。周りの子供たちがそれを見て後ずさるのに気づいた少年は自分の頭に手をやった。髪がないのに気づくと、「わあああああーーーー」っと泣き叫んで公園から出て行った。残りの子供たちも散らすようにいなくなった。


「……ったく、大人げねえなあ」


 みかりんはチアリーダーあきこがバナナに登るのを手伝い、自分も飛び乗った。


「あたくし、相手が大人だろうが子供だろうが容赦はしないのよ」


 ドヤ顔で、ふん、と、笑って見せる。


 みかりんがサーフィンでもするようにバナナの上で前傾姿勢を取ると、バナナはふわりと宙に浮いた。そして、そのまま小高い丘の上を見上げた。

 そう。

「一番大きくて、一番修復に金がかかり、早急に建て直さねばならない建物」を。


「……行くぜ」

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