最強のラスボス 後編
1 超合金・ジャイアント・タカヒト氏
風が冷たくなってきた。
ジャイアント・タカヒト氏が目を覚ますと、そこには小さなななみんが立っていた。
「ななみん」
その表情を見て、決戦の時が来たのだと知った。
いくらこんな重装備になったといっても、自分だけで敵を倒せるとは思えない。それでもジャイアント・タカヒト氏はその重たい体を引きずり、のろのろと岩場から這い出した。
立ち上がる。
目の前に見えるのは真っ暗な闇。それでも今のジャイアント・タカヒト氏には敵の姿をはっきりと見ることができた。
赤外線アイズのおかげだ。
見えるのは、水平線を埋め尽くすかのような大量の黒い塊。
寒さをものともせず、氷だらけの世界で暮らすという者たち。
毛皮に氷をまとったイノシシ。
そしてその者たちを操るという
力をつけすぎてしまった氷の精霊が人の形を借りているだけだ。
ジャイアント・タカヒト氏はその冷たい空気を胸いっぱいに吸い込んだ。
「みっくすふらい、ていしょくううううううう」
黒い塊に向かって走り出す。
動かす度に体がカシャ、カシャ、と音を立てる。体にまとうのは金属。
今の姿は超合金・ジャイアント・タカヒト氏。
あのとき、アオイは言った。
「金属は冷たくなると固まってしまう。でもいいんだ」
その無表情なまなざしをジャイアント・タカヒト氏に向けた。
「固まって動けなくなったら、次はぼくたちが戦う」
「みっくすふらい……」
「だめだよ」
アオイはジャイアント・タカヒト氏の言葉を止めた。
「君はとても優しくて真面目な人だ。もっと機能的に動ける体にしてしまったら、自分の限界まで戦い、命を落とすことも厭わないだろ? そうなってほしくないんだ。だから、体をしっかり守ることができて、固まったところで動きが止まる超合金で覆い、中には最先端の薄くて暖かいヒートテックを忍ばせておくから」
みんなを守らなければ。
ジャイアント・タカヒト氏は思った。
自分の限りで、この場を!
射程距離まで縮まったところで、両手を突き出した。
両方の指でハートを作り、イノシシたちに向けた。
「みっくす、らぶ!」
そこからハートの形をした赤いビームがほとばしった。ビームに当たったイノシシたちは悲鳴を上げてその場に次々と倒れた。けれども後ろのイノシシたちが倒れた者たちを踏み越えて迫ってくる。
ビームが切れた。
両手をグーにして水平に突き出す。
「みっくす、ましんがん!」
だだだだだだだだだ。
手首の上部からから銃弾が連投された。
ブヒイイイイイイイイイッ。
がああああああ。
断末魔の声を上げ、イノシシたちが倒れる。それでもあとからあとから湧くように向かってきて、距離を縮める。
自分に全部をしとめるのは無理だ。でも。
超合金・ジャイアント・タカヒト氏は思う。
この体が凍り付いてしまうまで、精いっぱい戦う!
マシンガンの弾が切れた。
「めからびーむ」
両目が赤くなり黄色いビームが左右の敵を倒した。
「ひじからみっくすふらい」
肘を前方に向けると、劫火が吹き出した。
イノシシたちはビームを受けても炎を浴びても向かってくる。
最前列のイノシシがとうとう超合金・ジャイアント・タカヒト氏の足元に到達した。怒りをあらわによじ登ってくる。一頭の上に、また一頭。
足を上げて踏みつける。地団太を踏むようにしても、まとわりつくイノシシは増える一方だ。
足を上げた時、とうとうバランスを崩した。
「みっくすふらい……ていしょく……!」
両手を広げて、イノシシの大群の中に倒れた。
イノシシたちが、それを踏み越えて行った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます