第19話 サイリ

「それでは、パスワード17。スタートです!!」


セーラさんの合図があってゲームがスタートした。

わたしにお題の紙が手渡しされる。


『暗号用の文:せみのこえゆめにほのかになつのかぜ

 解読用の文:たんれいやかわもにうかぶほたるかな』


さっきいろいろと説明はしてもらった。

お題の文章はAIに作らせた俳句とのこと。

既存の俳句だと一部の言葉から全体を予測できちゃうから、完全に新規のものにしたそうだ。

そしてたまに意味不明な言葉も入るから気を付けて、とも言われた。

まぁ、でも、細かいことは気にしなくて良い。

この時間はカグヤと決めたとおりに暗号文を作るだけだ。


「よし!」


わたしは気合を入れた。

必要な物を紙に書く。

まずは五十音表。

いくつかある五十音のうち今回使うのはこれ。


あいうえお かきくけこ

がぎぐげご さしすせそ 

ざじずぜぞ たちつてと

だぢづでど なにぬねの 

はひふへほ ばびぶべぼ

ぱぴぽぺぽ まみむめも 

やゆよらり るれろわを 


あと必要なものは円周率。

3.1415926535897932


今回使うのは17桁。

これを使ってお題を暗号化する。


『暗号用の文:せみのこえゆめにほのかになつのかぜ 

      →じむへがけんやふぼふがほほどべけた


 解読用の文:たんれいやかわもにうかぶほたるかな

      →てあんうるごんるひかがまぺづえけぬ』


ここまでの所要時間は10分。

今日までカグヤにしごかれて一生懸命練習してきた甲斐があった。

こんなに早く暗号化ができるなんて。

暗号の作成時間は30分。

20分も余ってしまった。


「どうしよう?」


このゲーム中、スマホは使用禁止である。

味方と通信できたら意味がないからね。

しかしそうなると時間を潰せるようなものはない。


「ふむ」


わたしは部屋に設置してあるカメラを見た。

セーラさんには「カメラに向かっていろいろ話しかけてね」なんて言われている。

しゃべることなんて用意していなかったけれど。

せっかくだし、何かしゃべろうか。


「初めまして。チーム『賢者の贈り物』のサイリです」


とりあえず自己紹介をすることにした。


「今日は友達のカグヤと一緒にこのパスワード17に参加させてもらうことになりました」


カメラに向かって話すって難しいな。

相手のリアクションがないから、調子がつかみにくい。

このペースで話していて良いのかな?

まぁ、いいか。

好きなように喋ろう。

動画に採用されるかどうかは分からないし。


「そもそも、なんで参加することになったかっていうところからお話しますね。わたしの相方のカグヤなんですけど、あっ、皆さんもうカグヤの顔は見たのかな? めっちゃ可愛くないですか? わたしが初めてカグヤにあったのは中学2年生の頃なんですけど。あっ、わたしとカグヤは今は中3なので1年くらい前のことです。わたしも初めてカグヤを見たとき一目惚れしちゃって。そこから猛烈アタックかけて仲良くしています。多分、皆さんカグヤの話すところをまだ見てないと思うんですけど、あの娘、中身もめちゃくちゃ可愛いんですよ! ツンデレみたいなところがあって、あんまり素直にわたしのことを好きって言ってくれるわけじゃないんですけど、たまにそれっぽいことを悔しそいうに言ってくれるんですね。この間もそういうことがあって、わたしがカグヤの可愛い顔を見てにやにやしていたら『顔が緩み過ぎよ。気持ち悪い』って言ってきたんですよね。まぁまぁ悲しかったんですけど、わたしが『カグヤってわたしの顔は嫌い?』って訊くと『いや、かなり好きな方よ』って行言ったんですよ。わたしは嬉しくなっちゃって『10段階で言うと?』って訊いたら『10』って言ってくれたんですよ。超可愛くないですか!? そんな超可愛いカグヤといつも一緒にいて、わたしはいっつもあの娘のことを考えていて、あの娘が喜ぶことを探しているんですね。それでカグヤって頭使う話が好きなんです。いつもは自然科学や科学技術の解説本を読んでいるんですよ。この間も江戸時代の数学について読んだ本について語ってくれました。今では微分積分ってニュートンやライプニッツの提唱した方法をもとに計算するのが一般的だけど、日本では独自の計算方法があってこれはこれで利点があるんじゃないか、みたいな話でしたね。難しかったのでちゃんとは覚えていないんですけれど。でもわたしはそんなカグヤが喜ぶような、一緒に楽しめるようなものを日々探しているんです。そこである日、わたしが駅前でちらしをもらったんですね。今もまだやっていると思います。謎解きイベントのちらしでした。カグヤが好きそうって思って誘ったんですね。そうしたら謎解きって、カグヤの好きなタイプの問題じゃないって言うんですよ。カグヤが好きなのってもっとロジカルに解けるやつみたいなんです。謎解きじゃなくて暗号の方が良いんですって。その辺りに微妙なこだわりがあるみたいなんです。まぁそれでも行ってみるかっていうことで、二人で謎解きイベントに行ったんですよ。あの謎解きイベントはとっても良かったですよ。わたしもカグヤも全力で頭を使ってなんとか脱出できました。すごく楽しかったです。で、その帰りにセーラさんに会ったんです。セーラさんは謎解きイベントに参加した人で、このパスワード17に参加してくれる人を探していたみたいで…………」


こんな感じで。

わたしはカメラに向かって時間いっぱいカグヤのことを語った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る