第20話 カグヤ

パスワード17。

暗号作成の時間。

製作自体は5分で終わった。

私は暇を持て余していた。


「30分もいらないわね」


サイリと予め決めていたヴィジュネル暗号。

決めたとおりに文字をずらすだけだ。

特に何もしないまま時間が過ぎるのを待つ。

スタッフの人に「カメラに向かって話しかけてもいいよ」なんて言われた。

しかし、特に喋ることもない。

サイリだったらいっぱい喋っているんだろうか。

そんなことを気にしながらカメラの方をちらちら見ていたら、30分が過ぎてしまった。


「はい、暗号を回収します」


スタッフの人が暗号を取りに来た。

私は作成した暗号の紙を3枚渡す。

すぐに他の人が作成した暗号の紙を渡される。

サイリの暗号。イズミさんとヒヨリさんの暗号。

3枚の暗号解読。


「それでは暗号解読を始めてください」


スタッフの人が合図をする。

30分で3枚の暗号解読。

味方の暗号が1枚。

敵の暗号が2枚。


「さて、いきますか」


まずはサイリの暗号を解こう。


『暗号文:じむへがけんやふぼふがほほどべけた

 

 解読文:てあんうるごんるひかがまぺづえけぬ

    →たんれいやかわもにうかぶほたるかな』


これは決められたヴィジュネル暗号。

サイリと相談して決めた暗号。

鍵も分かっているから簡単に解読できる。


ヴィジュネル暗号は、シーザー暗号が安全でなくなってきた15世紀から16世紀に考案された。

シーザー暗号は、文字を暗号化すると一定の文字になる。

例えば『ら』→『り』のように暗号化するシーザー暗号は1文字ずらすということがすぐに分かる。

その何文字ずらせば良いかが分かると文章全体もすぐに解読されてしまう。

全ての文字を1文字ずらしてできた暗号は弱い。

それを解決するために文字の順番によってずらす文字数を変えてしまう。


私はサイリからもらった暗号の下に円周率を書く。

暗号文:じむへがけんやふぼふがほほどべけた

     3 1 4 1 5 9 2 6 5 3 5 8 9 7 9 3 2


サイリはこの数だけ文字をずらして暗号を作っている。

これがヴィジュネル暗号。

文字の順番によってずらす文字数を変える。

シーザー暗号の進化系。

このパスワード17においても超強力な暗号。

無敵と言ってもいいかもしれない。

私は五十音表を見ながら文字をずらして書いていく。



あいうえお かきくけこ

がぎぐげご さしすせそ 

ざじずぜぞ たちつてと

だぢづでど なにぬねの 

はひふへほ ばびぶべぼ

ぱぴぽぺぽ まみむめも 

やゆよらり るれろわを 



サイリは前にずらしたから、解読するときは後ろにずらす。

暗号文:じむへがけんやふぼふがほほどべけた

    3 1 4 1 5 9 2 6 5 3 5 8 9 7 9 3 2

    せみのこえゆめにほのかになつのかぜ 


「よし!」


私は解読した文章を見て、正解した手応えを感じた。

蝉の声 夢にほのかに 夏の風

意味は分からないけれど、AIが作った俳句と言われればそれっぽい。

正解で間違いなさそうだ。


「さてさて」


ここまで5分。

ここからが本番だ。

相手チームの暗号を解読する。

このパスワード17というゲームは相手の暗号を解くのが本番だ。

チーム『賢者の贈り物』として私とサイリの2人の合計得点で勝負する。

私がサイリの暗号を完全解読して17点。

サイリが私の暗号を完全解読して17点。

私かサイリのどちらでも良いのだけれど、敵チームの2枚の暗号を解読出来れば34点×2。

合計得点は102点。

つまり味方の暗号は解読出来て当たり前。

相手の暗号をいかに解くかが争点になる。


ちなみに私の作成した暗号は

『暗号文:ねてこぞるほめばこづひろるらちだせ → なつかぜやなみのおとにもみみすずし

 解読文:づるへがけてるふびぼきにほどべつる → とりのこえそらにひびいてなつのそら』


サイリの暗号と同じ仕掛け。

サイリはすぐに解読出来ているはず。

これで『賢者の贈り物』は34点獲得。

では相手チーム『ステガノ』の暗号を見よう。


イズミさんの暗号。

『暗号文:いかうえむなかけぬむおれよもひさべ

 解読文:すかきぞなせにひみいれけうゆしろれ → しおかぜとすなはまあるくいやされる


ヒヨリさんの暗号。

『暗号文:けやはにきゆみはうちぢくすずみぢこ

 解読文:みてはぬかうきぞぬよろれゆみはやな → まつのにおいかぜにゆれるやまのもと』


この暗号を私かサイリのどちらかが解読出来れば『賢者の贈り物』の得点になる。

ただ私はこのパスワード17を事前にシミュレーションしたところ、気付いたことがある。

お互いのチームがヴィジュネル暗号だった場合、結局解読できないまま終わる。

自分チームの暗号を解読して34対34。

敵チームの暗号を解読できないなら仕方がない。

適当に平仮名を当てはめて部分点を狙うしかない。

部分点は1文字2点。

より解読した文字数が多い方の得点が与えられる。

例えばイズミさんの暗号を私とサイリが解読する。

私が10文字解読してサイリが9文字解読したら、20点になる。

なので、1文字でも多く解読したいところ。


「あれ?」


イズミさんの暗号もヒヨリさんの暗号も。

なんか普通に解けそうじゃない?

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る