第21話 サイリ
わたしはカグヤの暗号を5分で解読した。
これは簡単。
間違いないだろう。
頑張るのはここから。
相手チーム『ステガノ』の暗号を解読しよう。
イズミさんの暗号。
『暗号文:いかうえむなかけぬむおれよもひさべ
解読文:すかきぞなせにひみいれけうゆしろれ → しおかぜとすなはまあるくいやされる
ヒヨリさんの暗号。
『暗号文:けやはにきゆみはうちぢくすずみぢこ
解読文:みてはぬかうきぞぬよろれゆみはやな → まつのにおいかぜにゆれるやまのもと』
さてさて。
カグヤが言っていた。
相手もヴィジュネル暗号だった場合、30分で完全に解読するのは不可能。
だから1文字でも多く解読することを目指す。
10文字でも解読できたらほぼ勝ちだと思うってカグヤは言っていた。
ヴィジュネル暗号はそれだけ強力なのだ。
「じゃあ、イズミさんの方からやろうかな」
まずは解読文を見る。
『解読文:すかきぞなせにひみいれけうゆしろれ → しおかぜとすなはまあるくいやされる』
解読前と解読後で文字が何に変換しているか予想する。
『す』→『し』
『か』→『お』
『き』→『か』
『ぞ』→『ぜ』
この変換した言葉と五十音表を見比べる。
あいうえお かきくけこ
がぎぐげご さしすせそ
ざじずぜぞ たちつてと
だぢづでど なにぬねの
はひふへほ ばびぶべぼ
ぱぴぽぺぽ まみむめも
やゆよらり るれろわを
ん
『ステガノ』がわたしたちと同じ五十音表を使っているとは限らない。
でもとりあえず、この表を見ながら考える。
じっくり考える覚悟で考えた。
集中して、脳の一切の邪念を取り払い、思考のために全精力を注ぐ。
しかし。
そんなに注力する必要はなかった。
すぐに気付いた。
「これ、1文字ずらしただけじゃん!」
五十音順に1文字ずらした暗号。
ヴィジュネル暗号ではない。
これはシーザー暗号だ。
カグヤがずっと話していた。
このパスワード17ではシーザー暗号は弱い。
解読文があるせいで簡単に解読できる。
わたしはペンを走らせる。
「ふぅ!」
あっという間に解読してしまった。
イズミさん
『いかうえむなかけぬむおれよもひさべ → あおいうみとおくにみえるゆめはこぶ』
ヒヨリさん
『けやはにきゆみはうちぢくすずみぢこ → くものなかやまのいただきしじまだけ』
二人とも同じ方法で解読出来た。
イズミさんは『青い海 遠くに見える 夢運ぶ』
ヒヨリさんは『雲の中 山の頂 静寂だけ』
どちらも夏っぽい俳句にはなっているから間違いないだろう。
「さて」
時計を見る。
暗号解読の制限時間は30分。
ここまでかかった時間は10分。
20分も余っている。
どうしよう?
カグヤの素敵ポイントをもっと語っても良い。
語ろうと思えば、まだ4時間は語れる。
でも、せっかくの暗号バトルだし。
暗号について語るか。
「よし!」
わたしはカメラに目線を向けて話し出した。
「皆さんは暗号と謎解きの違いって分かります? わたしはこの間カグヤに教えてもらうまで知らなかったんですけれど、明確に違うらしいんですよ。謎解きって謎が解ければ良いって問題ですよね。そのために一見何が書いてあるのか分からないようにしてあるんです。それだけなら分かりやすいんですけど、暗号の方はもうちょっと複雑で。暗号も普通の人には読みにくいものなんです。ただ暗号の場合、謎解きと違って伝えたい相手がいるんです。鍵を持っている人にとっては簡単に読めるようにしたものが暗号なんです。今の場合だと『賢者の贈り物』のわたしたち二人には読みやすいけれど、『ステガノ』の二人には読めないようにするのが暗号なんですよ。あっ、でもこれはカグヤが言っていたことだから、辞書的にはもっと厳密な言い方があるのかも? まぁでもわたしはこういうことをカグヤからいっぱい教えてもらったんですよ。カグヤが暗号とかこういうの大好きでいろいろ教えてくれるんです。今日わたしたちが使った暗号もカグヤが調べてきてくれたんです。ヴィジュネル暗号って言うんですけど。どうやって作った暗号か説明しますね。あっ、でもその前に『ステガノ』が使った暗号を説明しますね。『ステガノ』が使った暗号はシーザー暗号っていう暗号です。暗号にしたい文章を辞書順に何文字かずらす暗号ですね。カグヤも最初はこれを使おうとしたみたいなんです。暗号の歴史上でもなかなか強力な暗号なんですよね。鍵なしで真正面から解読するにはものすごい手間がかかるとか。でもこのパスワード17だと解読が簡単になるんですよね。解読文を見ればどの文字が何に変わったかすぐ分かるんです。一対一対応ですからね。解読文で『あ』が『い』に変わっているのだたったら暗号文の『あ』を『い』に変えれば良い。えっと『ステガノ』の暗号文は逆ですね。『す』が『し』に変わっている。『か』が『お』に変わっている。五十音で1文字戻す方にずらせばよいってことに気付いたんです。それに気付けたら解読するのはすごく簡単なんですよ。わたしも5分でできましたし。このパスワード17のルールを聞いてから10日くらいあったんですけれど、カグヤはすぐにこのシーザー暗号がすぐ破れるってことに気付いちゃって。あの娘すごくないですか? だからわたしたちはこのシーザー暗号を発展させたヴィジュネル暗号っていうのを使ったんです。ヴィジュネル暗号っていうのは…………」
こんな感じで。
わたしはずっと喋っていた。
時間が経つのも忘れてずっと喋っていた。
制限時間が終わって様子を見に来たセーラさんは、そんなわたしを見て大笑いした
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます