第22話 カグヤ

暗号解読の時間が終了した。

リビングのような広い撮影部屋に全員が集まる。


「楽しかったね!」


サイリがわたしに話しかけてくる。


「暗号はちゃんと解読できたの?」

「もちろん!」

「それは良かった」


『ステガノ』の暗号は私も解読できた。

敵チームの暗号は私が解いてもサイリが解いても得点は同じだから、あんまり気にすることはない。

まぁでも。

サイリがちゃんと解読できる実力があるのは良いことだ。


「今、集計しているからちょっと待ってね」


セーラさんが皆を集める。

私達二人と『ステガノ』の二人はお互いに微笑みあった。


「楽しかったね」


イズミさんが私達に話しかける。


「はい。そうですね」

「君たち、中学生だよね? よくあんな難しい暗号を作ったね」

「いやぁ、カグヤが頑張ったんですよ」


サイリが私を持て囃して話す。

私は苦笑いをしていた。


「私たちの暗号なんてすぐ解けちゃったでしょ?」

「ええ。多分、間違いないと思います」

「いやぁ、すごいわね」


そんな話をしながら10分。


「集計が終わったので、結果を発表します!」

「おっ!」


意外と早かった。

私達4人は並んで立ちあがる。

セーラさんはそんな私達の前に立つ。

紙を広げて読み上げる。


「結果は……」


セーラさんは次の言葉まで間を溜める。

これそバラエティってやつだ、なんて間の抜けたことを考えていた。


「ごくり」


サイリは生唾を飲んだ。

両手を組んで祈るポーズをしている。

……そんなに緊張するか?


「チーム『賢者の贈り物』102点! チーム『ステガノ』84点! よってチーム『賢者の贈り物』の勝利です!」


セーラさんは私達に向けて拍手した。

周りのスタッフの人達も『ステガノ』の二人も拍手してくれる。


「やった~!」


サイリは両手を挙げて喜んでいる。

ついでに私に抱きついてきた。


「んっ!」


桜の香りが強くなる。

心地好い香りに包まれる。

薄着だか身体の柔らかさがしっかり伝わる。

生きている熱も伝わる。

クーラーの効いた部屋とはいえ暑苦しい。

仕方が無いから抱きつき返してあげる。


「ちゅーして良い?」

「調子に乗るな」


わたしはサイリを引っぺがした。

それを見ていたセーラさんやスタッフが大笑いしていた。


「サイリちゃん、君、本当に面白いね」


セーラさんがサイリを褒める。


「そうですか?」

「ええ。待っている間の話も全部聞いていたからね」

「えへへ~」


サイリは笑顔だった。


「待っている間?」


私は何のことか分からず、サイリに訊いてみた。


「暗号を作成するのも解読するのも時間余ったでしょ?」

「まぁ、そうね」


盛大に余った。


「その間、カメラに向かっていろいろ喋っていたのよ」

「いろいろ?」

「いろいろよ」


話した中身が知りたかったのにとぼけられた。


「それでは勝利した『賢者の贈り物』の二人に話を聞いてみたいと思います」


勝者インタビューが始まった。

セーラさんにマイクを向けられる。

私とサイリの目が合う。

どっちから喋ろうか迷ったけど、まぁ別にどっちでも良いか。

私から喋ることにした。


「はい。『賢者の贈り物』のカグヤです。今日のこのパスワード17のためにいっぱい頑張って準備してきた成果が出せて良かったです。練習はサイリと二人でいろいろやってきました。ただやっぱり本番となると想定外のこともありました。今回やってみて、たくさん改善点も見つかりました。次があるかどうかは分からないけれど、次やるとしたらもっと良い暗号が作れると思います」


私はマイクに向かって当たり障りのないコメントをした。

顔には出さないようにしていたけれど、内心ではかなり反省している。

102対84って!

私達が102点なのはまぁ良い。

102点が満点だから。

ただ相手が84点なのは悔しい。

内訳は17+17+24+26。

味方の解読は1文字1点、敵の解読は1文字2点。

つまり『ステガノ』は味方の暗号を完全解読して、私達の暗号を12文字と13文字も解読できたということ。

私の予想ではもっと解けないものだと思っていた。

10文字も解読されることはないと思っていた。

それが12文字と13文字も解読されている。

もしかして制限時間がもう少し長かったら完全解読されていたんじゃないだろうか。

甘かった。

ヴィジュネル暗号を採用したのは良かったはず。

でももっと複雑にしないと、解読文から簡単に予想がつくようだ。

私の考えがぬるかった。

こちらが完全解読できたから負けは無いにしろ、引き分けでもおかしくなかった。

絶対に勝てると意気込んでいたのに、実際にやってみたらこの様だ。

みっともない。


「あっ、このパスワード17をもう一回やりたい?」


セーラさんが私に訊く。


「はい。次はもっとうまくできると思うので、やりたいです!」


私は意気込んでいった。


「それなら企画しようかしらね。今度はもっと難しい暗号が見れそうで楽しみだわ」


おっ!

好感触。

これは次があるかもしれない!?

わたしは次を期待してうずうずしてきた。


「ぜひ、よろしくお願いします!」

「うん。それじゃあ、サイリちゃんも勝利した感想をお願いできるかな?」


サイリは笑顔で応えた。


「はい。これはわたしたち二人の愛の勝利だと思います!」


私はそれを聞いて「何を言っているんだ?」って思ったけど、セーラさんや周りのスタッフは大笑いしていた。

こいつ、カメラの前で何を喋っていたんだ?

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