第43話 サイリ
わたしは『海賊の暗号』をぱらぱらとめくる。
どこかに数字の羅列を利用した暗号はないかな?
スキュタレー暗号とかボリュビュオス暗号といった知らない暗号の話が出てくる。
この辺は文字を並べ替えるだけだな。
シーザー暗号とかヴィジュネル暗号もあるな。
タイトルに海賊とだけあって、地図がらみの暗号もいっぱいある。
「おっ? これじゃない?」
わたしはそれらしい暗号を見つけた。
数字の羅列。
「どんなの?」
「オッテンドルフの暗号だって」
「あぁ、書籍暗号ね」
「書籍暗号?」
カグヤは知っているようだった。
わたしは全然ぴんときていないのだけれど。
「なるほど。それなら解読できそうね」
「どういう暗号なの?」
「この暗号の数字はね、本の中の何ページの何行目の何文字目かを表しているの」
「あ、そういう数!」
暗号は3桁2桁2桁の数字が並んでいる。
よく見ると使われている数は小さいものが多い。
3桁の数で一番大きいのは164。
この『海賊の暗号』はハードカバーの300ページ。
300より大きい数は暗号に使えない。
1ページあたりの文字数も35行40文字。
この範囲に収まる数字しか書いていない。
「歴史的な話だと、この暗号は何の本を暗号の鍵として扱うかを考えることになるんだけど、今回は流石にこの『海賊の暗号』の本で良さそうね」
この本に挟まっていた紙なのだから、暗号の作成者もこの本を読みながら作ったに違いない。
「それじゃあ、この本から文字を拾ってみよっか」
難しい知識は必要ない。
本の中から文字を拾うだけ。
『
080.04.20 司
216.02.04 書
021.11.03 の
104.08.11 岡
037.12.08 さ
074.17.07 ん
062.31.08 に
122.06.01 こ
164.03.12 れ
099.05.19 を
116.09.14 見
205.13.18 せ
008.17.01 て
』
綺麗な文章になった。
「ちゃんと解読できたわね」
しかし出てきた文章は気になる内容だった。
この本を先に借りた人が、自分用に作成した暗号というわけではない。
作成した人がうっかり本に挟んだまま図書館に返却したのではなさそう。
これは明らかに、図書館でこの先に『海賊の暗号』を借りた人向けのメッセージだ。
「司書の岡さん?」
この図書館にそんな人がいるのかな?
聞いてみるか。
わたしとカグヤは図書館の受付に行った。
そこでこの暗号が解けたことを話した。
すると受付の人は司書の岡さんを呼んでくれた。
40代くらいの女性だった。
「あら、『賢者の贈り物』じゃない」
わたしたちのことを知っていた。
その呼び方は、間違いなく動画を見ていた人の呼び方だ。
「動画を見てくれたんですね」
「ええ。とっても面白かったわよ。二人とも賢いわねぇ」
ご近所付き合いで知り合いのおばあちゃんから言われるようなコメントだった。
「ありがとうございます!」
「この、暗号なんですけど」
カグヤは岡さんに暗号を見せた。
「ああ、それね。よくできましたね、おめでとう!」
岡さんはそう言ってお菓子をくれた。
ビスケットだった。
「ありがとうございます」
わたしとカグヤはありがたく受け取った。
美味しそう。
「この暗号って、岡さんが作ったんですか?」
カグヤが岡さんに訊いた。
「作ったのは私の娘なのよ。『この本に暗号を入れておくから解読した人にお菓子をあげて』ってお願いされてね」
「娘さんですか」
「うちの娘が、もう一年も前に作ったのよ。この『海賊の暗号』を読んだ時に作って。面白そうだからこの遊びに乗っかってあげたのよ」
「は~!」
優しいお母さんだな。
仕事の邪魔になるから拒否しても良いのに。
「『海賊の暗号』なんて本を手に取るくらいの人だから、こういう暗号があったら楽しくなって解読してくれる人がいるんじゃないかって」
「実際楽しかったですよ」
わたしは屈託のない感想を告げる。
「その一年で私達の他にもこの暗号を解いた人がいるんですか?」
カグヤが訊いてみる。
「あなたたちの前には一人だけよ。セーラちゃんなんだけど」
「セーラさんって、あのセーラさん!?」
「そうよ。あなたたちが出た動画の配信者のセーラちゃん」
びっくりした。
こんなタイミングでセーラさんの名前が出るとは。
「あの人やっぱり、こういうの好きなんだね」
「そもそもこの『海賊の暗号』自体、借りていく人が少ないのよ。セーラちゃんはそのとき、暗号について調べていたから手に取ったって言っていたわ」
「最近ですか?」
「いいえ、一年前。うちの娘が暗号を仕掛けた一ヶ月後くらいかな。初めて解読できた人がいるって聞いたらうちの娘も喜んで、『その人に会いたい』って言って。それをきっかけにして娘とセーラちゃんが仲良くなって。動画に出させてもらうようになったのよ」
「動画に出させてもらった?」
司書の岡さんは引っ掛かる言葉を口にする。
「あれ? 言ってなかったっけ? うちの娘はトコヨなのよ。セーラちゃんの動画によく出てくるでしょ?」
「ええ!?」
声を出して驚いた。
トコヨさんとセーラさんの出会いの話だったの!?
「ということは、この暗号を書いたのは?」
察しはついているけれど、カグヤが確認の質問をする。
「そう、トコヨが作成した暗号よ」
ここでもセーラさんとトコヨさんが関わってくるとは。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます