第42話 カグヤ

サイリが持ってきた本に私の知っている問題が載っていた。


「まず、図を書いてみるね」

「そうね。それが良いと思うわ」


サイリはルーズリーフとペンを用意した。

松の木や樫の木の図を書いていた。


「そもそも、松の木や樫の木がこの距離で良いかどうかも分からないわね」

「そうなるわね」


この問題は情報が極端に少ない。

松の木、樫の木、絞首台の位置関係は正確に明記されていない。

そして絞首台は現在、どうやっても位置を特定できない。

分かるのは、どう進めば良いかだけ。

しかしスタート地点が分からないから、どう進めばよいか分かっても最初の一歩を踏み出せない。

サイリも図を書く手を動かせずにいる。


「どっから考えてみよっか?」

「適当に、絞首台の位置を決めて宝の位置を探してみれば?」

「そうだね。そうしてみよっか」


サイリは私の言ったように、適当に絞首台の位置を図に示した。

絞首台から樫の木に向かって線を引く。

直角に曲がって、同じ長さだけ進む。

その地点にXという印を付けた。

それから絞首台に戻る。

絞首台から松の木に向かって線を引く。

直角に曲がって、同じ長さだけ進む。

その地点にYという印を付けた。

宝の位置はXとYの中心ということである。


「どうかしら?」

「まぁ、言われたとおりに進むだけなら簡単よね。やっかいなのは絞首台の位置が分からないから、ここが正しいとは限らないってことなんだけど」

「もうちょっと考えてみる?」

「うん」


サイリは図にいろいろと書き込んでいた。

もくもくとペンを進める。

思いついたことは片っ端から書いている。

思考を整理していなくても手掛かりになりそうなことはどんどん書き散らす。

私は一旦、頭で整理してから手を動かすタイプ。

こういうところでもサイリと私の違いは見えてくる。

10分経過。


「何か分かった?」


サイリの手元はいろんな書き込みがしてある。

何が何やら、私には分からない。

しかしサイリはすっきりした模様。


「これ、あれだね。絞首台がどこにあっても、宝の位置は変わらないでしょ?」

「正解よ」


そう。

この問題は、絞首台の位置が分からないことでとっかかりが何もないように見える、

しかし。

問題文の通りに進めば、絞首台がどこであろうと同じ場所にたどり着けるようになっている。


「はぁ~、不思議なものだね。どこからスタートしてもゴールは一つなんだ」

「面白いでしょ。どうやって気付いたの?」

「絞首台の位置を何回か変えて、宝の位置を書いていったのよ。毎回同じ場所に宝がくるから、びっくりしたわ」

私も初めてこの問題をみたときはびっくりした覚えがある。

よくできた問題だよ。


「数学的に証明しようと思ったら大変なんだけどね。実際には手を動かしてみればきちんと宝までたどり着けるようになっていたのよ」

「不思議な暗号もあったものだね」

「暗号としてみるなら、誰にでも解読できるから良い暗号ではないんだけどね」


暗号は鍵を持っている人には簡単に読めるけれど、鍵を持っていない人には読みにくいもの。

鍵を持っていない人に簡単に解読出来るなら、暗号としての出来は悪い。


「面白かったわ。この本をもっと読んでみて良い?」

「良いわよ。私も自由研究が今終わったところだから、何か一冊読もうかしら」


サイリは私から『海賊の暗号』を受け取った。

最初から読み始める。

私は席から立ち上がる。

ここ最近は暗号の本ばかり読んでいた。

たまには違う本でも読もうか。

そう思い、小説の棚を見た。

さっきサイリはオー・ヘンリーの作品集を読んでいた。

それを私も読んでみることにする。

本を手にして席に戻る。

するとサイリの様子がおかしかった。

わなわなと震えている。


「ねぇ、カグヤ」

「どうしたの?」

「さっきの本に、こんなものが挟まっていたんだけど」


サイリは紙切れを渡してくれた。

紙切れには暗号が書かれていた。


080.04.20

216.02.04

021.11.03

104.08.11

037.12.08

074.17.07

062.31.08

122.06.01

164.03.12

099.05.19

116.09.14

205.13.18

008.17.01 』


よく分からない数字の羅列が

これは、うん。


「暗号っぽいわね」

「やっぱり?」


この数字の羅列は重要なメモには見えない。

規則性は見えない。

3桁2桁2桁。

なんだろう?

日付ではなさそう。

でも、誰かに何かを伝えたそうな雰囲気はある。


「暗号の本に挟まっていたし、だれかが暗号を作ってみたのかしらね?」


本のタイトルは『海賊の暗号』だ。

これを読んで暗号を作りたくなるのはありえそうな話。

図書館の本だから、以前に借りた人が暗号を作って、そのまま紙切れを挟んで返却したのだろう。


「解読してみる?」


サイリが提案する。


「でも、解けるかしら? 手掛かりが薄いわよ?」


この暗号の鍵も分からない。

数字の羅列だけで、どういう換字をするかも想像がつかない。


「手掛かりならあるわ」


サイリは何か心当たりがあるらしい。


「そうなの?」

「ええ。この暗号の作成者は、この本『海賊の暗号』を読んで作った可能性が高いわよね?」

「そうね。その本に挟まっていたのだから」

「だったら、この本の中に似たような暗号があるとは思わない?」

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