第44話 カグヤ

私は得体の知れない敗北感に包まれていた。

今日、サイリと図書館に行った。


「はぁ」


自宅に帰って一人反省会が始まる。

図書館で自由研究を仕上げた。

そこまでは良い。

そこでトコヨさんの暗号を見つけて解読した。

そして司書の岡さんからトコヨさんのことをいろいろ聞いた。

暗号を作って図書館の本に忍ばせておいたのもだけど。

他にも謎解きなんかをいっぱい作ってきたらしい。

つくづく頭の良い人だなと思った。

そしてその話をサイリが楽しそうに聞いていたのが一番の敗北感の原因だ。

思えばパスワード17の決勝戦も引き分けだった。

これまでトコヨさんに勝てた試しがない。


「よし」


このままではいけない。

サイリの前では一番でありたい。

そう思った私は自分の部屋にあるトランプを手にした。

テーブルに並べて、あれやこれや繰り返す。


「これでいけるかな?」


私はセーラさんにメッセージを送った。


一週間後。


「また呼んでもらえるんだね」

「うん。まぁ、私からお願いしたからね」

「えっ? そうだったの?」


サイリと私はセーラさんのスタジオに来ていた。

私が新しい暗号バトルをセーラさんに提案した。

チーム『賢者の贈り物』と『RSA』で戦いたいとお願いしたのだ。


「ルールを考えたのも私だから」

「すごい! 楽しみ!」


というわけで、サイリにはほとんど説明しないまま、セーラさん、トコヨさんと戦うことになった。


「いらっしゃい」


スタジオに着くと、いつものようにセーラさんに出迎えてもらった。

今日はトコヨさんもすでに準備が出来ていた。


「お疲れ~」

「トコヨさん、今日は早いんですね」


私はトコヨさんに声をかける。


「うん。昨日は眠くてさっさと寝ちゃったんだよね。12時間睡眠したおかげで体調が良いの」

「いつもそのくらい準備万端で撮影に挑んでくれないかしら?」

「週に3回も万全の日を作らないといけないのは無理あるよ?」

「普通の人は週に7日は万全でいられるように頑張っているのよ」

「普通のハードルが高くない?」

「トコヨにもそれくらいしてもらいたいんだけど?」

「無理」


そんないつものやりとりがあって。


「それじゃあ、二人ともメイクしてきてね」


そうだった。

それがあった。

私自身はメイクに興味はない。

大人になったらそういうのを気にしないといけないのは煩わしいと思っているくらいだ。

ただ、この間の撮影でメイクしたとき、サイリがとても喜んでいた。

それならちゃんとメイク出来た方が良いのかなと思い始めてきた。


「やった~! カグヤちゃんだ!」


メイク室に入ると、スタッフさんがいた。

前回もこのスタッフさんにメイクをしてもらった。

そしてまた私のメイクを担当することになって喜んでいた。


「そんなに嬉しいんですか?」

「そりゃそうよ。メイクするなら可愛い子のメイクをしたいもの」


そういうものらしい。

てきぱきと私のメイクをしてくれる。


「これは何ですか?」

「チークよ。こうやってこの辺りをほんのり赤くするの」

「なるほど」


私はメイクの仕方をいろいろ訊いてみた。


「今日は随分と熱心に聞くのね」

「そうですか?」

「ええ。前回はあんまり喋ってくれなかったから。今回は心境の変化でもあったの」

「特に気になることはないですけれど」

「そう? てっきり以前のメイクを誰かに褒められたとかあるのかと思ったわ」


図星だった。

メイクを終えてロビーに戻る。

先にメイクを終えていたサイリと目があう。

…………サイリが可愛い。

いつもよりぱっちりして丸く見える目。

血色の良い肌。

平然とした顔をしているのに躍動感のある表情。

そのままフィギュアになっても部屋が映えそうな顔。


「か、」

「可愛い!」


サイリは私の顔を見るなり抱きついてきた。

ぎゅっとサイリの体温を感じる。

私が褒める前に、先手をとられた。

たまには私にも言わせてほしい。


それはともかく。


「じゃあ、今回のゲームを説明するわね。今回は暗号ババ抜きをします!」


セーラさんがルールの紙を皆に配る。

さっと目を通す。

うん。

私がセーラさんに提案した通りだった。


「これ、カグヤが考えたの?」


サイリと目が合う。

やっぱり今日のサイリはとびっきり可愛い。

そんな感想は表情に出さないけど。


「うん。暗号を使うゲームをしたくて」

「さすがカグヤね!」


サイリは目を輝かせて感動していた。

相変わらず、サイリは私が何をしても感動してくれる。



~~~~~~~~~~

ゲーム名:暗号ババ抜き

プレイヤー:2vs2


1.各プレイヤーにトランプが配られる。

 Aチームには黒1~5と6~10。Bチームには赤1~5と6~10。

2.プレイヤーの一人が1枚を場に伏せて出す。

 残りのプレイヤーはそのカードの数を当てる。

3.伏せられたカードの数を当てた人はそのカードを手札に加える。

 複数人が数を当てた場合、敵チームの方が優先して手札に加えることができる。

4.手札に同じカードがあった場合、手札から捨てる。

5.他のプレイヤーが2~4を行う。

6.最初に手札がなくなった人の勝ち。

~~~~~~~~~~

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