第10話 カグヤ
私とサイリが謎解きイベントに行った帰り。
セーラさんという謎解き系動画配信者に声を掛けられた。
そして暗号が出題された。
『暗号文:あこいんうやえはおかかれきーく → ?
解読文:あまいなうつえびお → まなつび』
セーラさんはスマホの画面を見せてくれる。
私とサイリは頭を寄せて覗き込む。
「これは?」
私はセーラさんに訊く。
「こういう暗号を使ってバトルする企画を考えているのよね。すぐ解けるかしら?」
私は暗号文を読み返す。
まぁ、分かりやすい暗号ではあるか。
「解読文と暗号文が同じルールで書き換えられているってことですか?」
サイリがセーラさんに訊く。
セーラさんは大きく頷いた。
「そうよ。解読文を見て、暗号の規則を推測して、暗号文を読み解いてねっていう問題よ。できるかしら?」
そう訊かれたので、私は即座に返答した。
「『こんやはカレー』ですよね?」
「あら、もう解読出来ていたのね。流石だわ」
セーラさんは目を丸くしていた。
「すごいわね、もう分かっていたの?」
サイリも褒めてくれた。
「ええ。解読文をみると、1文字おきに『あ い う え お』が挿入されているわ。これを取り除くことで『あまいなうつえびお』を『まなつび』に変換できるわ」
「おおっ!」
「暗号文も同じように 1文字おきに挿入されている余計な文字を飛ばして読むと『あこいんうやえはおかかれきーく』が『こんやはかれー』になるわ」
暗号としては初歩。
簡単な部類である。
「素晴らしいわ。ぜひ、あなたたちに、わたしの企画に出て欲しいの!」
セーラさんは私の手を握る。
大きい掌。
長い指。
細くてしなやか。
そんな手で私の手を握ったまま上下に揺する。
「暗号バトルですか?」
「ええ! 詳しいことは後でゆっくり話すから、とりあえず連絡先を教えて?」
ということでぐいぐいくるセーラさんに押されて連絡先を交換した。
そのままざっくりした概要を説明された。
勢いに任せて矢継ぎ早に話すものだからあんまり理解出来なかったけれど。
「とりあえず、そういう暗号バトルをするんですね?」
「そういうこと。今は参加者を集めているところなの」
「どうして、わたしたちに声をかけてきたんですか?」
サイリがセーラさんに訊く。
「そこの謎解きイベントで超高難度から出てきた人に声をかけているのよ。わざわざ高難度を選ぶからにはこういう暗号バトルにも興味ありそうだし」
まぁ、確かに。
暗号に興味のある人を狙うならここか。
「良い作戦だと思います」
「でしょ? 今日は朝からこのイベントに来ていろいろ声をかけていたのよね。そうしたら、良い逸材を見つけたのよ」
「私達が、逸材ですか?」
「ええ。高難度に挑戦する女の子二人組は珍しいし」
まぁ、珍しいか。
わざわざ高難度を選ぶのは謎解きに自信のある人だ。
おおよそ個人で来る人が多いはず。
デート感覚で来る人は少ないだろう。
「やっぱり珍しいですよね」
「でもゼロでは無かったわ。あなたたち以外の女の子二人組にも声をかけたし」
「いたんですね」
そういえばイベント中に女の子二人組に出会った。
スミレとツツジという名前だったかな。
あの二人にも声をかたのだろうか。
「でもあなたたちは声をかけた中でも一番良い逸材よ」
「そうなんですか?」
「ええ。見た目が良いもの」
そう言われてわたしはサイリの方を見た。
……確かにサイリは顔が良い。
動画映えのポイントとして評価が高いだろう。
サイリと目が合う。
サイリは私の方を見て、えへへっと笑っている。
……本当に可愛いな。
「まぁ、サイリはともかく私なら動画映えしそうですね」
思わず対抗意識を剥き出しにしてしまった。
自分でも良くないとは思っているけれど、サイリに負けたくない自分がいる。
「え!? わたしはともかく扱い!?」
サイリは大袈裟に驚いていた。
あとで、慰めてあげないとなぁ。
「二人とも可愛いから大歓迎よ」
わたしがやきもきしていたらセーラさんからフォローしてくれた。
ありがとうございます。
そうしていろいろ話を聞いた後、セーラさんとお別れした。
「さて、サイリ」
サイリと二人っきりになった。
「どうかしたの?」
サイリは私のただならぬやる気を感じ取ったようだ。
「明日は時間ある?」
「ええ。大丈夫だけど」
「暗号の特訓をしよう!」
私はサイリを誘った。
「特訓?」
「ええ。絶対に勝つわよ」
「そんなに頑張るものなの?」
サイリは私のやる気に気圧されていた。
「当然よ。今日の謎解きは事前勉強してこなかったから、今度の暗号バトルはちゃんとしっかり事前対策できるもの」
「そういえば、今日の謎解きも事前に予習したいって言っていたわね……」
「結局しなかったけどね。でもこの暗号バトルは徹底的に予習して取り掛かるわ」
ゲームというのはそういうものだ。
しっかりと自分の努力が成果として現れる方が楽しい。
行き当たりばったりで自分の才能を試しても、大したことはない。
適当にサイコロを振って一の目が出ても嬉しくないけれど。
一の目を出すように練習した後にサイコロを振って一が出たら嬉しい。
「まぁ、一緒に勉強しよっか」
サイリは納得してくれた。
私のやる気が燃え上がった。
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