第12話 カグヤ

私はカグヤに暗号を出題した。


『暗号文:みんきんせみくかっみい

 解読文:みくとうみょりょきっみい → いっきょりょうとく』


一挙両得。

一つの行動で同時に二つの利益を得ること。

似たような意味の四字熟語に一石二鳥がある。

でも、そんな言葉の意味は関係無い。

関係があるのは日本語の並びだけ。


「どう考えれば良いか分かる?」


私はサイリに訊いてみた。


「そうね。解読した文の方を見てみると『み』が多いわね」

「うん。そこは大事だね」


サイリはペンを手に取った。

ルーズリーフにメモを書き連ねる。


「解読文の『み』を取ってみると、『みくとうみょりょきっみい』が『くとうょりょきっい』になるわ」

「良いわね」

「『う』の後に小さい『ょ』が続くと気持ち悪いわね」

「そうなのよね。暗号を作ると、普通の日本語ではない部分が出来てしまうのが困り所なの」


出来ることなら不自然な部分がないような暗号を作りたい。

欲を言うなら鍵を知らない人からすると別の解読文が見えるようにミスリードできるようにしたい。

……そんな傑作はなかなか作れないんだけど。


「『くとうょりょきっい』を逆から読むと『いっきょりょうとく』になるわね。つまりこの暗号は『み』を抜いて逆から読めば良いってことね」


流石はサイリである。

この短時間で暗号の仕組みを解いてしまった。


「思ったより早くてびっくりしたわ」

「でしょ? 褒めて! 褒めて!!」

「いいから最後まで解きなさいよ」


サイリは笑いながらペンを走らせる。


「暗号文の『みんきんせみくかっみい』の『み』を抜いてひっくり返すと……」

「ひっくり返すと?」

「『いっかくせんきん』ね。綺麗な四字熟語なったわ」

「はい、正解。おめでとう」


一攫千金。

簡単に一発で大金を手に入れること。


「わーい!」


サイリは両手を挙げて喜んでいた。


「喜ぶのはまだ早いわよ。今日はまだまだたくさん暗号を解いてもらうから」

「かかってこい!」


サイリは胸を張った。

頭のエンジンがかかってきたようだ。


「次の暗号に行く前に、さっきの『み』抜きの話をしたいんだけど。このタイプの文字を抜く暗号の欠点って分かる?」

「欠点?」

「そう。この『み』抜きで暗号化ってけっこう難しいの。問題文によっては使えない暗号化なの」

「問題文によっては使えない?」


『み』抜きでも『た』抜きでも同じような欠点がある。

試しにいろいろ暗号を作ってみると分かるんだけど。


「『み』抜きで暗号化しようとすると、本文に『み』が入っていると困っちゃうの」

「あぁ、そうね。必要な文字も消えちゃう」


例えば『みぎみみをみて』という暗号文があったとする。

適当に『み』をつけて『みみぎみみをみみてみ』と暗号化してみる。

これを解読しようと『み』を取ると『ぎをて』になってしまう。

これでは何も分からない。


「暗号バトルをするときは、こういうのも気を付けないといけないからね」

「そうなの?」


サイリは意外な部分で驚いていた。


「あれ? ルールを見てないの?」


昨日の夜にセーラさんからメールでルール詳細が送られてきていたんだけど。


「カグヤと一緒に見ようかと思っていたから見ていないわよ」

「ああ、なるほど。じゃあ、一緒に確認しよっか」


私はスマホを操作して画面をルール詳細にする。


~~~~~~~~~~


暗号通信バトル

ゲーム名:パスワード17

プレイヤー:2vs2

4人はそれぞれ別室に行く。


1.プレイヤーは暗号の作成を行う(30分)

2.自分以外のプレイヤーの作成した暗号の解読を行う(3枚の解読に30分)

3.味方の暗号を解読出来た場合、1文字1点が加算される。

敵チームの暗号を解読出来た場合、1文字2点が加算される。

4.チームの合計点数の高い方の勝利(最大点102)


~~~~~~~~~~


「暗号バトルって、暗号を解読するだけじゃなくて、自分でも作るの!?」


やっぱりそこが分かっていなかったのか。


「そうよ。4人で暗号を作って、他の3人が作った暗号を解読するの」

「……与えられた暗号を解読するだけだと思っていたわ」

「暗号って、解読するだけじゃなくて作る方も重要だからね」


その点はセーラさんもよく分かっているのだろう。

この暗号バトルはよくできたゲームだ。

昨日、メールで見たとき、私はすごく感心した。


「は~、じゃあ、わたしはカグヤには分かるけど、他の人には分からないような暗号を作るってこと?」

「そういうこと。そこが謎解きと暗号の違いよね」

「前に、カグヤが言っていたやつ?」

「そう。謎解きは解くのを楽しむもの。暗号は鍵を持っている人には簡単に読めるけれど、鍵を持っていない人には読みにくいもの。鍵を知っている人にも読みにくい暗号は失敗作だわ」


謎解きは解くのが楽しいもの。

でも暗号は味方には簡単に解けて、敵には解けないものでなくてはならない。

問題の意図が全然違う。


「かなり難しそうね」

「セーラさんから例題も送られてきているから、試しにこれをやってみよっか」


『暗号文:なくやわのもゆのとつさつもどがめあ

 解読文:ふいやわとこみのとるけかずびむずお → ふるいけやかわずとびこむみずのおと 』

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