第17話 サイリ

「髪を売ってしまった妻が言った気の利いた一言ねぇ?」


なんとなく話の流れでカグヤにクイズを出してしまった。

カグヤはアイスを食べきっていた。

わたしも食べきる。


「何か思いつくかしら?」

「そうね。『櫛は飾るだけでも綺麗』だとか?」

「それも良さそうね。流石カグヤ。人を口説く才能があるわ」

「そんな才能いらないわよ」


褒めたつもりがカグヤに拒否された。


「でもわたしはカグヤにたらし込まれたわよ?」

「たらし込まれたとか言うな。私はサイリに何もしていないわよ」

「カグヤが存在するだけで可愛いのが悪い」


わたしたちが付き合うようになったのは、大雑把に言うとわたしが一目惚れしたから。


「そんなことはいいから答えを発表して」


カグヤに催促される。

そうだった。

妻が言った気の利いた一言。


「正解は『わたしの髪は、とっても早く伸びる』でした」


それを聞いたカグヤは笑っていた。


「それはとても気が利いているわね」


良かった。

カグヤが気に入るような問題を出せたようだ。

カグヤはこの手の話のハードルが高いから、難しい。

つまらない問題と答えを出したら「くだらない」と一蹴される。

わたしはそんなかぐや姫様に気に入られるよう日々精進しているのである。


「それじゃあ、チーム名は『賢者の贈り物』で」


そう。

そもそもなんでこんな話をしているかというと、チーム名を決めるため。


「それにしましょう」


というわけで、わたしたちのチーム名は『賢者の贈り物』になった。


「他に決めておくことある?」

「いや、これで大丈夫。セーラさんに送るわ」


カグヤはスマホを操作して、申し込み申請をした。


「どうする? 自己紹介とか考えとく? アイドルみたいに派手なやつを」


みなさん、こんにちは!

きらきら輝く月からやってきたカグヤ姫!

みたいなやつ。


「考えておく必要があるかしら?」

「だって、有名配信者の動画に出るんだよ? 何か爪痕を残したいじゃん?」

「……なんでバラエティに出る芸人みたいな思考になっているのよ? 私達は暗号バトルをするだけよ」


それはそう。

でも大勢の人前に出るからにはそれなりに目立ちたいっていう気持ちもある。


「特徴的な自己紹介とか、あった方が可愛くない?」

「悪目立ちじゃない?」


それはそう。


「カグヤはセーラさんの動画は見た?」

「いえ。昨日は要項を読んで、暗号の資料を集めていたから」


「わたしはセーラさんの動画を見てみたの。セーラさんがどんな人なのか掴めてきたわ」

「動画は面白かった?」

「ええ。すごく良かったわよ」


昨日、セーラさんと会ったときに動画を1本見せてもらった。

その後、帰宅してから何本か見てみた。

どれも面白かった。

クイズや謎解きがテーマのバラエティ動画。

セーラさんやゲストは、かなり頭の良い人達だった。

難しい問題を鮮やかに解いていく。


「セーラさんってやっぱり頭良かった?」

「うん。今、大学生みたいだけど、相当勉強できる感じだったわよ」


それを聞いて、カグヤは難しい顔をしていた。


「もしかしてさ」

「うん?」

「パスワード17の対戦相手って大学生もいるのかな?」

「あぁ~? どうなんだろ?」


わたしもずっと気にしていなかった。

何となくわたしたちと同じ中学生を想定していたけれど。

セーラさんが集めたなら、大学生が多いのかな?


「私の思っているより、相手が強いかもしれないわね」


確かに。

他の配信企画も頭の良い人をたくさん呼んでいるみたいだし。


「やっぱり勝ちたい?」


わたしはカグヤに訊いてみた。


「そうね。相手が誰だろうと勝つために準備しているからね!」


カグヤのモチベーションがめちゃくちゃ高い。

本当に楽しみなんだろう。

ただ、わたしは不安になってきた。

セーラさんの企画趣旨とずれている気もする。

わたしが動画を見た感じ、参加者はこんなに真剣に下準備をするようなことはない。

ふらっと撮影に来て、さくっと企画に参加する雰囲気の動画が多かった。

わたしたちの対戦相手はこんなにしっかり準備をしてくるかな?


「ねぇ、カグヤ」

「ん?」

「わたしたちの対戦相手って、どれだけ真剣に準備してくるかな?」


カグヤはきょとんとしていた。

わたしがそんな質問をするとは思っていなかったんだろう。


「…………もしかして、こんなに真剣にやるもんじゃないの?」


あっ、勘付いた。


「多分そうよ。他の動画の雰囲気からして、もっとお遊び感覚強いわよ」


カグヤは苦い顔をしていた。

しかし、それも一瞬だった。


「ねぇ、サイリ」

「ん?」

「絶対勝とうね」

「え!? そうなるの?」


もっと気楽にやろうか、じゃないの!?

なぜかカグヤの瞳は一層燃え上がっていた。


「中学生が圧倒的実力を見せつけたら、滅茶苦茶目立てるわよ」


わたしが「何か爪痕を残したいじゃん?」なんて言ったことも考慮に入れてくれていたらしい。


「実力でねじ伏せる感じ?」

「ええ。負ける気なんてのはさらさらないわ」


カグヤは自信満々だった。

どこからその自信がくるのかは分からないけれど。

カグヤが楽しそうだから良しとしよう。

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